被災高齢者見守りNPO:理事長が末期がん、故郷の出雲へ

毎日新聞 2014年09月19日 06時30分

 阪神大震災や東日本大震災の被災高齢者らの見守り活動をするNPO理事長の黒田裕子さん(73)=神戸市西区=が末期の肝臓がんと診断された。18日、入院先の兵庫県西宮市の病院から故郷の島根県出雲市の病院に転院するのに伴い、井戸敏三知事が駆け付けて感謝状を贈った。被災者に寄り添い続けた黒田さんは、多くのボランティア仲間に見送られて出雲に向かった。

 NPOは「阪神高齢者・障害者支援ネットワーク」。黒田さんは阪神大震災当時、兵庫県宝塚市立病院の副総婦長だった。被災者の救援に当たったのをきっかけに病院を退職し、ボランティアの道を歩んだ。

 4年3カ月、仮設住宅に寝泊まりして入居者の孤独死防止に取り組み、復興住宅でも見守りを続けた。東日本大震災では宮城県気仙沼市に入り、仮設住宅に看護師を24時間常駐させる態勢を作った。

 今年7月下旬、体調の異変を訴えた。来年1月17日に神戸市で開かれる阪神大震災20年追悼行事に間に合うよう、神戸市営地下鉄の始発ダイヤを早める要望書を8月27日、市に提出。翌28日、西宮市の病院に入院し、末期がんと告知された。

 「死ぬのは怖くないけれど、来年1月17日を迎えられないのが悔しい」と話す黒田さん。この日、病室のベッドで井戸知事から感謝状を受け取り、「(東日本で十分機能しなかった)福祉避難所をがんや人工透析患者らも受け入れる施設にしてほしい」と声を振り絞った。国に提言すると明言した井戸知事は「体の不調も顧みずに、被災者のために働いていたのだろう。黒田さんは一緒に被災者を支援してきた仲間だ」と語った。

 病院を出る際、集まったボランティア仲間ら約50人が「頑張って」「必ず帰って来て」と声をかけた。黒田さんはストレッチャーの上で「ありがとう、ありがとう」と何度も両手を振った。【桜井由紀治】

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