中東のシリア領内で、米軍が過激派組織「イスラム国」の拠点への空爆に踏み切った。

 米軍は隣のイラクで、8月に空爆を始めたばかりだった。今回は、その単なる延長というだけではすまない。

 イラクやアフガニスタンからの撤退を進めた米オバマ政権にとって、新たな国での軍事行動という大きな方針転換である。

 戦争を終わらせると公言してきた大統領だが、中東の脅威をこれ以上は見過ごせない。そう判断せざるを得なかった。イラク戦争による秩序崩壊の重荷から、米国は逃れられないという現実があらわになっている。

 シリアが内戦状態に陥って3年以上たつ。この間、国際社会は有効な手を打てないまま、19万を超える人命が失われた。

 米国はこれを機に、シリアの和平に向けた道筋づくりに本腰を入れるべきだ。アラブ諸国や国連、欧州連合(EU)などとともに、イラクを含めた秩序の再生を探らねばならない。

 「イスラム国」を危険視する認識は各国に共通しており、空爆への批判は今は少ない。ただし今後について、明確な青写真が描けているわけではない。

 空爆にはサウジアラビアなどアラブ5カ国も加わった。米国は、対立してきたシリアのアサド政権にも事前に伝えた。自衛権の行使とする説明に、国連事務総長も理解を示している。

 ただ、本来は軍事行動に必要な国連安全保障理事会の決議はない。英仏などが参加していないのも、そのためだ。

 これまでシリア問題でしばしば決議を阻んできたロシアと中国にも、「イスラム国」に対する問題意識は少なからずある。米国は国際社会の一致した合意を築く努力を続けるべきだ。

 さらに、空爆の軍事的な効果も見通せない。地上戦をゆだねるシリア反体制派の働きがどうなるかは未知数だ。

 市民の犠牲が増えると、地元の世論の反発を招く。逆に「イスラム国」への支持を強める結果ともなりかねない。

 そもそも、軍事行動だけでは問題は解決できないことを自覚すべきだ。むしろ重要なのは、シリア各派間の対話と、崩壊した社会再建のための環境を整える国際的な外交努力である。

 そのためには、アサド政権との妥協や、ロシアとの協力といった現実的な選択も視野に入れざるを得ないだろう。

 中東の安定化をめざすうえで最大の政治力をもつのは、今に至るも米国である。オバマ政権はその使命を忘れず、外交の指導力こそ発揮してほしい。