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“無縁墓”急増 その実態に迫る

9月24日 19時10分

土井健太郎記者・久枝和歌子記者

「遠くまで墓参りに行くのは大変だ」
「そもそも、お墓って必要なの?」
長年ふるさとを離れて暮らし、先祖代々のお墓をどうするか悩んでいる方も多いのではないでしょうか?
代々、家族で引き継ぐことが当たり前とされてきた墓。
しかし、今引き継ぐ人がいなくなって放置され、無縁化した墓が全国で急増していることがNHKが行った調査で明らかになりました。
“無縁墓”の実態は。
背景に何があるのか。
特別報道チームの土井健太郎記者と久枝和歌子記者が解説します。

“無縁墓”10年で2倍に

引き継ぐ人がいなくなって放置された墓について、墓を管理する寺や自治体は、撤去する1年以上前に埋葬されている人の名前などを官報に公告することになっています。
私たちは“無縁墓”の実態をつかもうと、去年までの10年間の官報の記載を詳しく調べました。
その結果、去年は福井県、長野県、長崎県を除く全国44の都道府県で、合わせておよそ9000人分の墓が“無縁墓”として公告されていたことが分かりました。

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その前の年の平成24年には9000人分、平成23年には1万3000人分と、10年前の平成16年に公告された墓が、4500人分だったのに比べると、いずれも2倍以上に増えています。
去年“無縁墓”として公告された墓を地域別に見ますと▽関東地方がおよそ4000人分、▽近畿地方が2000人分、▽九州・沖縄地方が800人分、▽北海道が700人分、▽東海地方が500人分、▽中国地方と四国地方がそれぞれ400人分、▽東北地方と北信越地方がそれぞれ100人分でした。

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“無縁墓”向き合う自治体は

官報を詳しく調べると、公営墓地を設置している自治体が無縁化した墓を一度に数多く公告するケースが目立ちます。
京都市は去年8月、6つの市営墓地の合わせて323の墓を公告しました。
市営墓地を訪ねると、至るところに家族などに名乗り出るよう呼びかける立て札が設置されていました。

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京都市は、長年管理料が納められていないこうした墓を放置すれば墓の維持管理費を賄えなくなるおそれがあるうえ、新たな希望者が墓を建てるスペースも確保しにくくなると判断し、公告に踏み切りました。
一方で、公告した後も、戸籍や住民票をもとに家族や親族の調査を進めましたが引き継ぐべき人が分からない墓がほとんどでした。
中には、建てられた時期が昭和40年代の墓もあり、僅か40年余りで無縁化したことが分かります。
京都市は、この秋の彼岸の間に墓参りした形跡がなければ、来月以降、これらの墓を撤去し、遺骨は市内の納骨堂に移すことにしています。
京都市生活衛生課の川崎いつかさんは「墓は家族が代々受け継いだ財産で、簡単に撤去してよいものではないと思う。親族を見つけ出し判断してもらいたいところだが、たどり着けずに撤去せざるをえないのは心苦しい」と話していました。

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「人口集中」「意識の変化」背景に

こうした状況について、墓と社会の関係に詳しい京都女子大学宗教・文化研究所の槙村久子客員研究員は「都市への人口の集中が続いていることに加え、ふるさとや先祖を大切にするという考え方が変わってきている。ふるさとの墓を守り続けることにこだわらない世代が高齢者となるなか、墓の無縁化や流動化はさらに進むだろう。墓の在り方は新しいフェーズに入っているという認識が必要だ」と指摘しています。

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「人口集中」後を追う墓

さらに取材を進めると、地方で維持できなくなった墓を都心に移す動きが広がっていることも分かってきました。
東京・港区、六本木ヒルズにほど近い寺「梅窓院」では、15年前、800区画だった墓地を2000区画にまで増やしました。

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利用者を募集するとすぐに予約で埋まってしまうということです。
「梅窓院」の泉博道執事長は「地方から東京に出てきた人がふるさとの墓を移すケースは、この10数年の間に3割から4割ほど増えており、こうしたニーズに応えるのは時代の流れだと思う。この寺に限らず都心での墓の供給自体が増えていると感じる」と指摘します。
東京・品川区の沼田安司さん(83)もふるさとの神奈川県葉山町にあった墓を、去年4月、この寺に移しました。
沼田さんは最近、大きな病気を患ったということで、電車とバスを乗り継いで2時間ほどかかる葉山町の墓に通うのは体力的に難しくなったと言います。

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また、仕事や生活の拠点は50年以上前から東京で、きょうだい3人も全員葉山町を離れて暮らしているということで、墓参りのしやすさが判断の決め手となりました。
沼田さんは「日頃の手入れが出来ず、両親が入る墓を雨ざらし野ざらしの状態にするのは忍びないと思った。墓を建てた父の意には必ずしも沿っていないと思うが、便利さを考えれば今は移してよかったと思う」と話していました。

「家の墓」にこだわらない意識の変化も

先祖を供養するのに「家の墓」という形式にこだわらない人も出てきています。

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神奈川県平塚市に住む加藤次克さん(63)は今月、両親ときょうだい2人が埋葬された墓を撤去しました。
自分や妻が亡くなったあと、13歳の一人娘に負担をかけたくないという思いがあったからです。
加藤さんは両親の遺骨を「永代供養墓」に納め、ほかの家の先祖とともに供養してもらうことにしていて、自分たち夫婦の墓も用意しなくていいと、いずれ長女に伝えることにしています。

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加藤さんは「両親の時代は必ず墓を建てていたが今は時代が変わっている。自分は墓にこだわらないし、一人っ子である娘には負担をかけたくない」と話していました。
墓の撤去作業を行った業者は「ここ3、4年で墓を撤去したいという依頼がかなり増えている。墓を建てることにこだわらない人が多くなっていて、墓を心のよりどころにするという感覚がなくなっているように感じる」と話しています。

墓から見える社会の姿

“無縁墓”の実態や墓を移す人たちの取材を通して「いつまでもそこにあるもの」と考えられてきた墓の姿が都市部への人口の集中やそれに伴う家族観、宗教観の変化によって大きく変わりつつあることが分かりました。

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「墓は社会を映し出す鏡」。
取材で聞いたことばが印象に残ります。
「極点社会」とも呼ばれる東京を中心とした大都市圏への人口の一極集中。
そして、解決の見通しが立たない少子化や高齢化。
日本が抱えるさまざまな課題が人生の最期にたどり着く墓を通して見えてきました。
団塊の世代が高齢者になる時代を迎え、日本はこれから多くの人が亡くなる、いわば「多死社会」に入ろうとしています。
墓だけでなく「多死社会」を迎える日本が抱える、死をとりまくさまざまな課題について今後も取材を続けていきたいと思います。


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