ウクライナ情勢のあおりで停滞していた日ロ関係が、再び動き出す兆しを見せている。

 安倍首相とロシアのプーチン大統領が今週、電話で協議し、対話を続ける考えで一致した。首相は11月の北京でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)で会談することも提案した。

 もともと合意していた今秋の大統領訪日は、困難になっている。首相は、就任後に5度会談したプーチン氏との個人的関係を守りつつ、来年以降の訪日へ目標を切り替えた形である。

 ウクライナ紛争をめぐりロシアを批判する米欧に同調し、日本は2度の対ロ制裁に踏み切った。ロシアは、北方領土問題をめぐる日ロ次官級協議の延期などで反発を示した。

 それでもロシアは、大統領の訪日予定は取り消さず、日本との建設的な対話の継続をさぐる姿勢は崩さずにきた。

 米欧と対立するロシアは、中国と接近している。長年の交渉を決着させたロシア産天然ガスの供給合意は、その象徴だ。

 しかし、膨張する中国はロシアにとって潜在的な脅威でもある。過度な依存はできず、アジアで第2の経済規模と進んだ技術をもつ日本との関係強化を望むのは、自然な選択だ。

 そんな事情もにらみつつ対話のパイプを保つことは、日本の近隣外交にとって得策である。安全保障やエネルギー分野などで足場の強化に役立つだろう。

 ただし、日本は守るべき原則を忘れてはならない。領土問題などでの「力による現状変更」を許すわけにはいかない。この理念を共有する米欧と緊密な連携を維持してこそ、ロシアとの対話も成果をあげられる。

 ウクライナ東部では、先の停戦合意の後も、各地で戦闘が繰り返されている。米欧は、ロシアによる軍事介入が続いているとの見方を変えていない。

 今週、国連総会の場で主要7カ国(G7)の外相会議が開かれる。停戦にロシアが十分な努力を果たしていないと見なされれば、日本も新たな制裁をためらうべきではない。

 米欧とロシアは、中東で勢力を広げる過激派組織「イスラム国」対策をめぐっても駆け引きを本格化させる。今後の外交情勢は一層複雑になりそうだ。

 どんな局面であれ、日本は米欧とともに、国際法の順守と、民主主義・人権の価値観を守る姿勢を貫く必要がある。

 日ロ関係においては、ウクライナ情勢を安定させることが、両国の対話に役立つ。安倍首相はそのことを、プーチン氏にしっかりと伝えていくべきだ。