07
今まで生きてきて接したことのある男の人は、身内以外では幼馴染のアルセーヌやリオネルなど、村の住人だけだ。恐ろしくはないと言ったものの、イストもやはり怖いのだ。その上、体格の良い男達に穴が開くのではないかと思うほど凝視されるとは。私はどこかに逃げ出したくなった。
ああ、やっぱり一人で探した方が良かったかも。
「攫うなど、人聞きの悪いことを仰らないでください。迷子ゆえ、お連れしたのです」
イストは淡々と告げ、それに、と言葉を続けた。
「あまりこの方を見なさらぬよう。怯えておられる」
騎士達の視線を遮るように、イストは私のフードを被せた。視界がより暗く狭くなる。私はほっと息をついた。
「冗談さ、そう睨むな。なるほど、それはさぞ心細かったでしょうに。お連れの方はどのような人ですか」
青年は苦笑すると、柔らかな声音で私に話しかけてきた。コツコツと固い靴音が響き、目の前で立ち止まる。フード越しに視線が合い、騎士はふわりと微笑んだ。
「我ら騎士がお探ししよう。どのような見た目でしょうか?」
「一人は金髪に蒼い瞳、もう一人は銀髪に青紫の瞳を持つ、少年の二人組なんですけれど……」
「分かりました。服装は?」
「黒いマントを羽織っています。もしかしたらフードを被っているかも」
離れる直前まではフードを被っていたから、もしそのままなら見た目で探すのは難しい。
騎士はふむと顎に片手を添えると、イストに顔を向けた。
「なるほど。それでは我らは探しに行く。イストはお嬢さんを温かい部屋に連れて行っておあげ」
「了解しました。それでは参りましょう」
さっそく門を出ていく騎士達を見送り、私はイストと二階の部屋に入った。
質素だけれど清潔で、上品な調度品が置かれている部屋だ。暖炉が焚かれているおかげでとても暖かい。やっぱり火の温もりっていいなあ。
イストはソファーに私を降ろすと、膝掛けを持って来てかけてくれた。
「ありがとうございます」
「いえ。何か温かい飲み物を持ってきます。しばしお待ちを」
彼はそのまま出ていき、ぱたん扉が閉まる。
私は暇なので、ソファーでぬくぬくしながら情報を整理することにした。
「まずはイスト」
イストは今は聖騎士団の騎士見習いらしいけれど、ゲーム設定上では名高き聖騎士だった。アルセーヌより二つ年上だから、今は十五歳のはず。
七年後に始まる戦争で群雄割拠の時代が訪れ、彼は数多の英雄の一人に数えられる。その英雄の中にはもちろん、アルセーヌとリオネルも入るのだけれど。
「どこでルート分岐するのかなあ」
たぶんここでアルセーヌとイストが出会っても、そこまで影響はないはず。ないと嬉しい。
私は腕を組んで唸った。
好感度が上がるのは本篇が始まってからで、大まかに四つのルートに分かれる。この四つというのは、東西南北どこの国が舞台になるかということなんだけれど。それぞれの国に攻略対象者がいるんだよね。
で、そこからさらに個人ルートに分かれて、どのエンドに行くか選択していくものだったはず。
「何か大事なことを忘れているような……うーん」
何だったかなあ。
考え込んでいる内に、扉がノックされた。イストが来たようだ。
「お待たせ……」
静かに扉が開かれ、イストが口を開いたとき。
「――リア」
誰かにふわりと後ろから抱きすくめられる。長い腕が身体に絡み、熱い吐息が耳をくすぐった。
感想及びレビューは受け付けておりません。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
この小説をブックマークしている人はこんな小説も読んでいます!
悪役令嬢に転生したようですが、知った事ではありません
12歳のある日、前世の記憶が戻った侯爵令嬢のアメリア。
同時に現状の自分へ酷く失望すると共に立派な淑女をなる事を目指します。
その途中、自分が前世で大好き//
- 856 user
-
最終掲載日:2014/09/17 09:57
乙女ゲームのぶりっ子悪役女は魔法オタクになった
とばっちりで階段から転落したソコソコ女子高生の愛美は、気が付いたら異世界で三歳の幼女になっていた。どうやら落ちた弾みに幼女と体が入れ替わってしまったらしい……//
- 880 user
-
最終掲載日:2014/09/23 00:49
次女ですけど、何か?
美人な姉と、可愛い妹、――そして、美人でも可愛くもない私。
道脇 楓(どうわきかえで)は、四歳の時に、前世の記憶を思い出した。何とかそれに折り合いをつけた五//
- 906 user
-
最終掲載日:2014/09/10 22:58
誰かこの状況を説明してください
貧乏貴族のヴィオラに突然名門貴族のフィサリス公爵家から縁談が舞い込んだ。平凡令嬢と美形公爵。何もかもが釣り合わないと首をかしげていたのだが、そこには公爵様自身の//
- 767 user
-
最終掲載日:2014/09/10 22:03
悪役令嬢改め、借金1億の守銭奴令嬢です
★借金残高 54,000,000円★
七人の男の子たちを恋人にできる乙女ゲーム『ハー☆ハプ』。
何度も繰り返される物語の世界で、ヒロインを苛めるはずの悪役令嬢は//
- 831 user
-
最終掲載日:2014/09/17 21:00
おとぎ話の、その後で
母を亡くし、天涯孤独となったヴィクトリア。職を求めて帝都にやってきた彼女は、基準値に届く魔力さえあれば「三食寮費すべてタダ」という条件に飛びつき、男だらけの学院//
- 833 user
-
最終掲載日:2014/09/23 18:23
異世界出戻り奮闘記
かつて私は異世界に召喚されたことがある。異界からの巫女として一年余りを過ごした私は、役目を果たし、元の世界へ帰ることとなった。そして護衛騎士に秘めた思いを告白//
- 968 user
-
最終掲載日:2014/09/15 08:54
転生してヤンデレ攻略対象キャラと主従関係になった結果
七歳にして初めて魔法を使ったセシル・オールディントンはその日、前世での記憶を取り戻した。華の女子高生だったにも関わらず交通事故で亡くなった元日本人の彼女は、どう//
- 1146 user
-
最終掲載日:2014/09/23 22:25
乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…
頭を石にぶつけた拍子に前世の記憶を取り戻した。私、カタリナ・クラエス公爵令嬢八歳。
高熱にうなされ、王子様の婚約者に決まり、ここが前世でやっていた乙女ゲームの世//
- 1138 user
-
最終掲載日:2014/09/18 00:05
アルバート家の令嬢は没落をご所望です
貴族の令嬢メアリ・アルバートは始業式の真っ只中、この世界が前世でプレイした乙女ゲームであり自分はそのゲームに出てくるキャラクターであることを思い出す。ゲームでの//
- 920 user
-
最終掲載日:2014/09/22 23:13
謙虚、堅実をモットーに生きております!
小学校お受験を控えたある日の事。私はここが前世に愛読していた少女マンガ『君は僕のdolce』の世界で、私はその中の登場人物になっている事に気が付いた。
私に割り//
- 1576 user
-
最終掲載日:2014/08/29 02:00
幼なじみがハイスペックすぎて人生イージーモード
女子力低め自堕落バンザイなズボラ女の人生は、ハイスペックすぎてむしろ神々しい幼なじみのおかげですでに薔薇色のようです。
- 845 user
-
最終掲載日:2014/09/22 09:51
転生王女は今日も旗を叩き折る。
前世の記憶を持ったまま生まれ変わった先は、乙女ゲームの世界の王女様。
え、ヒロインのライバル役?冗談じゃない。あんな残念過ぎる人達に恋するつもりは、毛頭無い!//
- 1307 user
-
最終掲載日:2014/09/16 00:00
(魔王様の)妹様
魔王の妹。それは私の肩書。だれも、私の名前を呼ぶことはない。
- 800 user
-
最終掲載日:2014/09/08 03:02
転生したので次こそは幸せな人生を掴んでみせましょう
車に轢かれるという残念な結末を迎えたと思ったら、気付いたら赤ん坊に。しかもファンタジーな世界の住人になっていました。マジか。
というかよくよく考えれば、前世の//
- 860 user
-
最終掲載日:2014/09/23 08:00
キミボク ~ 悪役なんてお断り! ~
前世でやりこんだ乙女ゲームの世界に悪役転生……なんて冗談じゃありません。没落・学園追放・一家離散フラグなんて立たせない!とばかりにパラメーターをどんどん上げ、気//
- 771 user
-
最終掲載日:2014/05/20 02:00
蒼黒の竜騎士
転生したら、人と竜が共存するファンタジーな異世界でした。
目指せ!前世では出来なかったおしとやかで可愛い乙女ライフ!……って、何か全然違う方向に向かってない?
- 888 user
-
最終掲載日:2014/05/04 00:00
北の砦にて
前世は日本人女子。今世は雪の精霊の子ギツネ。そんな主人公と、北の砦の屈強な騎士たちとのほのぼの交流譚。
- 911 user
-
最終掲載日:2014/08/03 15:18
乙女ゲームの悪役なんてどこかで聞いた話ですが
ファンタジー系乙女ゲー世界の悪役に転生した主人公が、フェードアウトしようとしていたのに図らずも命を助けてくれた王子のために奮起する話です。8歳になりました
- 1048 user
-
最終掲載日:2014/09/22 23:30
張り合わずにおとなしく人形を作ることにしました。
※現在第四十四話以降を改稿中です。//
どうやらここは前世でプレイしていたファンタジーな乙女ゲームの世界らしい。
"私"ことアルティリア//
- 933 user
-
最終掲載日:2014/09/18 01:03
ちょっとした手違いで
目が覚めれば病院のベッドの上で、生死の境を彷徨っていたことと前世の記憶があることに気付いた相良瑞姫。そして、自分を取り巻く環境がかつて手に入れたものの仕方なしに//
- 860 user
-
最終掲載日:2014/09/08 00:00
悪役令嬢後宮物語
エルグランド王国には、とある有名な伯爵令嬢がいた。
その麗しい美貌で老若男女を虜にし、意のままに動かす。逆らう者には容赦せず、完膚なきまでに叩き潰し、己が楽しみ//
- 762 user
-
最終掲載日:2014/03/09 09:00
針子の乙女
生まれ変わった家は、縫物をする家系。前世では手芸部だった主人公には天職?かと思いきや、特殊能力にだけ価値観を持つ、最低最悪な生家で飼い殺しの日々だった(過去形)//
- 1012 user
-
最終掲載日:2014/08/29 23:38
ヤンデレ系乙女ゲーの世界に転生してしまったようです
リコリスは奇妙な既視感に悩まされる大人びた子供だ。ある日父親から自分の婚約者について聞かされたリコリスは、それが前世でプレイした乙女ゲームのキャラクターである//
- 975 user
-
最終掲載日:2014/08/11 22:00
逆ハーレムフラグ叩き折ってます。《連載版》
大好きな兄様達を逆ハーレム要員にするって? 何の冗談ですか? 邪魔するに決まってるでしょうが! ※これまで短編で投稿していた「逆ハーレムフラグ叩き折ってみました//
- 800 user
-
最終掲載日:2014/09/21 08:15
転生して憧れの魔法が使えるようになりました。
転生して転んだ拍子に、前世の記憶を思い出した。前世では魔法とか錬金術に憧れていた。この世界で魔法が使える事を知ったため努力して色々やらかしているが本人は気付いて//
- 758 user
-
最終掲載日:2014/09/23 07:17
ふむ、どうやら私は嫌われトリップをしたようだ(連載版)
たくさんの人の命を救うために働き過ぎて私は死んだ。死ぬほど人を助けたそのお陰か天国では消費しきれないほどたくさんの徳が私には貯まっているらしい。その徳を消費する//
- 855 user
-
最終掲載日:2014/09/21 09:02
次女は静かに生きることを決めました
私はある日、自分が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界に転生していたことを知る。
でもその転生した役は、姉や妹の恋を邪魔する悪者キャラ!?
せっか//
- 816 user
-
最終掲載日:2014/09/17 20:00
魔導師は平凡を望む
ある日、唐突に異世界トリップを体験した香坂御月。彼女はオタク故に順応も早かった。仕方が無いので魔導師として生活中。
本来の世界の知識と言語の自動翻訳という恩恵を//
- 783 user
-
最終掲載日:2014/09/17 07:00
かわいいコックさん
『花(オトコ)より団子(食い気)』で生きてきたアラサー女が気付いたら子供になって見知らぬ場所に!?己の記憶を振り返ったら衝撃(笑撃?)の出来事が。そしてやっぱり//
- 1057 user
-
最終掲載日:2014/08/28 00:00
お前みたいなヒロインが居てたまるか!
アラサーOLだった前世の記憶を持って生まれた椿は4歳の時、同じく前世の記憶持ちだと思われる異母妹に言われてこの世界が乙女ゲームの世界だと知らされる。妾の子である//
- 1008 user
-
最終掲載日:2014/09/23 11:33