経済成長と雇用創出のためには、政府の機動的な財政出動が必要だ。主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議がそんな考えを打ち出した。

 念頭にあるのは、デフレに陥りそうな欧州だ。ユーロ圏の経済大国ドイツは、財政状況が改善しているが、財政出動には否定的だ。財政出動への言及は、景気対策を求める米国などの声を反映した結果だ。

 欧州中央銀行(ECB)はすでにマイナス金利という奇策まで導入、金融政策には限界が見える。デフレ回避のために財政政策を使うことは理解できる。

 ただ、目先の成長率にだけとらわれては困る。G20は今後5年間で世界経済の成長率を2%幅以上かさ上げすることを目指している。しかし、大切なのは2%という数字ではなく、G20の経済が安定的に成長し、それぞれの国民が豊かさを実感することだ。

 それを考える手がかりはある。国際労働機関(ILO)と経済協力開発機構(OECD)、世界銀行が今月まとめた、G20の雇用に関する報告書だ。

 報告書は、G20の多くの国々で、労働生産性の伸びに賃金の上昇が追いつかず、それぞれの国内で賃金や所得の不平等が拡大していると指摘した。

 こうした現象が広がる背景には、厳しい国際競争にさらされて目先の成長を急ぐ企業の行動がある。ITを活用して雇用を削り、人を雇う場合も、正社員にするのは利益や成長に直結する人材だけで、低賃金の非正社員を増やす。一度失業したり非正社員になったりすると、なかなか正社員になれない。それぞれの国の制度によって現れ方は違うものの、G20の国々で似たような光景が広がっている。

 企業が利益をあげても、雇用の質を犠牲にしていては、望ましい経済成長にはつながらない。リーマン・ショックから6年、失業率という数字のうえでは雇用が改善してきた多くの国で、そう感じられているのだ。

 雇用の質を高めるのに、即効薬はない。正社員と非正社員に分断されている労働市場の改革や、よりよい職に就くための職業訓練など、地道な息の長い取り組みが必要だ。

 ILOなどの報告書は、G20の成長率かさ上げ目標について「追加的な成長が多くの雇用をもたらし、多くの人々を包摂することが大切だ」と指摘した。

 G20は昨年の首脳宣言で、質の高い雇用の創出は「各国の政策の核である」とうたっている。その具体化のための議論を、ぜひ深めてほしい。