日記から近代日本を見る研究会で得た新鮮な刺激
昨日は、多彩なメンバーによる研究会が開催されました。
名称︰第1回「近代日本の日記文化と自己表象」
日時︰2014年9月20日(土)午後2時~5時半
会場︰国文学研究資料館・第1会議室(2階)
初回にもかかわらず、熱気溢れる楽しい勉強会でした。とにかく、参加者各人が明確な問題意識のもとに、興味深いテーマに取り組んでいる若手研究者の集まりです。話題が豊富なので、聞いているだけで飽きません。
14名のみなさんの自己紹介を聞くだけで、私はもう満腹状態となりました。
思い出せる限り、自己紹介で知り得た研究テーマを列記してみましょう。
この中で、私が知っているのは3名だけだったので、まさに初めてお目にかかる方々の集まりに飛び込んだことになります。
・近代日本における読み書きの実践
・関東大震災時の朝鮮人虐殺
・近現代の『源氏物語』の受容史
・日本のタイの交流史
・『朝日ジャーナル』の研究
・戦前の『主婦の友』の家庭料理記事
・明治期の子どもの生活と読書体験
・戦地での学徒兵の読書
・女性の日記から学ぶ
・旧制奈良女子高等師範学校の読書文化
・『家の光』と農民教育装置
・明治大正の少年少女の書記文化
・幕末明治期の函館史
・富永仲基の研究
これまでに私が取り組んだテーマの中に、池田亀鑑や谷崎潤一郎を通して抱いた『源氏物語』の受容に関する問題意識がもやもやとしていました。特に、昭和一桁の時代背景を知りたいと思っています。この日集まった方々は、精力的に私が知りたいと思っていることを調査研究しておられるのです。これを機会に、教えていただかない手はありません。
さて、時間をたっぷり取った自己紹介の後は、この会の取りまとめ役である田中祐介さん(国文学研究資料館・機関研究員)の研究報告です。
この研究会は、田中さんが本年度より3年間の計画で獲得した、科研費研究のプロジェクトによって立ち上げられたものです。その採択課題名は、以下の通りです。
「未活字化の日記資料群からみる近代日本の青年知識層における自己形成の研究」(若手研究B、2014-2016年度)
日記から近代日本を見よう、ということです。
第1回の題目は、「手書き日記史料群は研究をいかに補い、掘り下げ、相対化するか ─国際基督教大学アジア文化研究所蔵『近代日本の日記帳コレクション』を中心に」となっていました。
日記研究を一つの軸に据えつつ、広く近代日本における読み書きの実践について、みんなで掘り下げる機会にしたい、とのことです。
この研究の背景には、福田秀一先生(国文学研究資料館名誉教授、国際基督教大学元教授)が蒐集された日記コレクションがあります。
田中さんは福田先生の愛弟子であり、残された5000点以上もの日記関連資料を整理し、目録化を終えたところでした。昨日は、その中から興味深い日記を会場に持参され、丁寧にその概要と意義を語られました。
私と田中さんとの接点は、福田秀一先生にあります。
私は、福田先生から、海外における日本文学の翻訳本を託されました。
そのことは、「【復元】福田秀一先生を偲んで」(2011/4/21)に記した通りです。
その冒頭で報告した「翻訳事典」(『日本文学研究ジャーナル 全3冊』、2008~2010年)については、昨年度より私が取り組んでいる科研「海外における源氏物語を中心とした平安文学及び各国語翻訳に関する総合的調査研究」の報告書『日本古典文学翻訳事典1〈英語改訂編〉』として一通りの整理をしたところです。
「『日本古典文学翻訳事典 1〈英語改訂編〉』を発行しました」(2014年04月01日)
「PDF版『日本古典文学翻訳事典1』がダウンロードできます」(2014年04月16日)
田中さんは、福田先生から日記を託されたと理解すると、この研究会の位置づけもわかりやすいかと思われます。
昨日の報告の中では、かねてより田中さんから聞いていた、近衛歩兵第四連隊に属した塚本昌芳さん(95歳)の日記に、以下のように記されていることが再確認できたことが、私にとっては一番の収穫でした。
1944年2月3日
「午前中は各種の典範例を復習し、又、源氏物語の空蝉の項を鑑賞する」
戦時中に、兵営で『源氏物語』を読んだとのことです。
これについては、過日の本ブログ「出版法制史研究会の例会に参加して」(2014年07月05日)の冒頭で、冨倉徳次郎のエッセー「陣中に源氏物語を講ずる話」(『北の兵隊』青梧堂、昭和17)を紹介し、日中戦争の際、北満国境警備部隊の兵士が兵舎で『源氏物語』の勉強会をしていたことを簡単に記しました。そのことに連接する話題でもあります。
戦地で『源氏物語』が読まれていたことは、戦中戦後の日記の調査研究が進めば、さらに有益な資料が見つかることでしょう。
懇親会や二次会で、秋田・仙台・京都・奈良という地元ネタが通じる方がいらっしゃったので、ローカルな話でも楽しく盛り上がりました。特に京都にお住まいのKさんは、私の自宅にも近い圏内で活躍中なので、今後とも有益な情報交換ができそうです。
日ごろは若い方々とお話をする機会が少ないので、昨日は怒濤のごとく押し寄せるような刺激をいただきました。
このような場に身を置くことができ、田中さんとの出会いにも感謝しています。
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