インタビュー
【フォトキナ】カメラ好きは“レンズ交換式+コンパクト”に向かう――オリンパス
オリンパスイメージング社長 小川治男氏
Reported by 本田雅一(2014/9/22 15:08)
フォトキナも会期が進んでくると、おぼろげながらに傾向が見えてくる。ひとつは各社コンパクトカメラ事業の再編が終了したこと。もうひとつはミラーレス機の世界的な伸びだ。
日本ではカメラファンも含め、幅広いユーザーに支持されているミラーレス機だが、海外ではエントリークラスのカジュアルなレンズ交換式カメラとして売れていた。ところが、α7に代表されるように本格派の上位モデルが登場するに連れ、市場からは「ミラーレス=エントリークラスの中途半端な低廉モデル」というイメージが消えてきている。
そんな中で2013年末にはコンパクトデジタルカメラの商品構成を見なおしたラインナップを作り、ミラーレスの上位モデルをラインナップさせるなど、一歩先を行く事業運営を見せてきたのがオリンパスだ。
前回のフォトキナ(2012年)ではOLYMPUS OM-D E-M5が好評のうちに発売された後。軌道に乗っていたPENシリーズのビジネスに加え、得意だったコンパクトデジタルカメラでも攻める体制ができつつあったが、その後もコンパクトデジタルカメラ市場は縮小を続けた。
あれから2年。オリンパスはOM-Dシリーズをラインナップ化し、コンパクトデジタルカメラのラインナップを簡素化。いわゆる、“プレミアムコンパクト”へのシフトを素早く成し遂げた。
オリンパスイメージング社長の小川治男氏にフォトキナのオリンパスブースで、“これからのオリンパス”について話を聞いた。
市場変化に素早く対応できた理由
――思えば2年前、ソニーが35mmフルサイズ単焦点のDSC-RX1を発売して市場を驚かせましたが、その直前に発表されていたDSC-RX100がコンパクトデジタルカメラのプレミアム化というムーブメントを生み出していました。その予兆は前々回のFUJIFILM X100からも感じられましたが、結果論からすると多くのカメラメーカーが戦略を誤りました。しかし、その中でオリンパスは比較的早く切り替えることができましたね?
世の中ではレンズ交換式カメラが大きな話題でしたが、オリンパスの場合、コンパクトカメラの売上を抜いたのは2014年が初めてなんです。この2年は続けて大幅ダウンしていましたが、それでもコンパクトデジタルカメラは大きなビジネスだったのです。
しかし、ご存知のように市場が大幅に縮小したため、在庫とラインナップを大幅に見直しました。最悪時には200万台ぐらいの流通在庫を抱えていましたが、今はその1/10ぐらいまで圧縮できています。
――理由は機種の絞り込みでしょうか?
そうですね。スマートフォンの影響で全体の数は減っていますが、特定目的でカメラ専用機が欲しいというニーズに対応できました。夜間など暗い場所での撮影、高倍率ズーム、それに防水などのアクティブシーンで活躍できるカメラの3分野です。
この3分野への絞り込みはを進めたことで、主要カメラメーカーのコンパクトカメラ部門ではいち早く平均単価を回復させ、コンパクトデジタルカメラのプレミアム化で先行したソニーを抜いて、今では業界ナンバーワンになっています。
――なぜ素早く市場環境の変化に対応できたのでしょう?
先行していたソニーを除くと、市場の変調に気付くのが半年早かったためだと思います。昨年3月にはラインナップを整理し、コンパクトデジタルカメラで独自性を出せる3つの分野に整理し直して開発や商品企画の切り替えをどんどん進めました。
その後、各社とも同じ方向に動いたことは、今年のフォトキナにおけるプレミアムコンパクト機全盛を見ればわかりますが、コンパクトデジタルカメラの市場再編への対応は一番進んでいると思います。
ユーザー向けサービスを拡充し欧州でミラーレス機を拡販
――レンズ交換式カメラも、市場はミラーレス機に向かっているように見えます。マイクロフォーサーズへと開発リソースを絞り込んだ結果、こちらもOM-Dシリーズを素早くラインナップ化できましたが、今後はどう進めるお考えでしょう?
レンズ交換式は、今は6機種を同時展開しています。OLYMPUS PEN Lite E-PL7を発表しましたが、前モデルのE-PL6をローエンドに位置づけて販売を続けます。OM-Dも3ラインナップありますので、全部で6つのライン。ここをキッチリとメンテナンスしながら戦っていきます。
――ミラーレス機が欧米で、とりわけEVF付きの上位製品が売れ始めていると聴きます。これまで欧米はミラーレス機不毛の地とも言われてきましたが、どんなことが起きていて、そこにオリンパスはどのように対応していこうとしているのでしょうか?
今年、オリンパスのレンズ交換式カメラは+140〜150%といった成長を遂げていますが、これはOM-Dのラインナップが揃ったからという部分が大きいと思います。また、ソニーのα7の存在も大きく、ミラーレス機だけれども高級機という存在が認められ始めました。1社だけでなく、複数社が取り組むことで市場の認知が広がりました。
一方で、かつてはプロダクトさえ揃えれば売れていましたが、今後は厳しくなるでしょう。一眼レフカメラ市場の80%ぐらいを押さえるキヤノンとニコンが、合計で1.2兆円ぐらいの売上を出していましたが、我々だけでなく何社かのミラーレスの高級機がその市場を奪っています。OM-Dはその点で先行していました。今後は競争が厳しくなっていくかもしれませんが、先に取り組み始めた優位性はあります。
――厳しくなっていくなかで、“オリンパスならでは”の価値を消費者に届けるには?
これまで以上に顧客サービスを充実させ、同時にカメラ自身の魅力を伝えていくことでしょう。“オリンパスのカメラを使えば、こんなシーンでこんなにきれいな写真が撮影できる”。そんなこと伝えるために顧客サービスを充実させるとともに、我々のカメラに触れてもらうタッチ&トライの場を充実させ、アフターサービスを拡充し、ブロガーを中心にしてオリンパスカメラで撮影した写真とのタッチポイントを作っていきます。
たとえば欧州では、OM-Dで写真が撮影できる場を増やしていきました。大都市でポップアップ店舗を作り、OM-Dを実際に体験して撮影してもらう機会を増やすと、小型な上にスタイリッシュという点が受けて口コミが広がりました。
これまでミラーレス機をコンパクトと一眼レフの間にある廉価版と受け取られてきた欧州、北米市場でも売れているのは、そうした部分が認められたからではないでしょうか。欧州の場合、すでに季節変動もなく1年中、ミラーレス機が売れています。また、センサーのクリーニングサービスも、マイクロフォーサーズの場合はもともとが優秀なダストリダクションシステムを持っているため、ちょっとだけ時間をもらえばサービスできる。
日本ではもとより展開していましたが、海外でも内視鏡向けにやっていたサービス体制を見直し、コンシューマ向けにもきちんと提供する取り組みを行ったことが、ここに来て大きく売上に貢献してきています。
大きくなりすぎた業界インフラ
――OM-Dシリーズの展開を始めたのは前回のフォトキナ直前でしたが、ここに来てやっとサービス体制も整って理解が進んできたということですね。OM-Dシリーズはミラーレス機としては単価が高い製品ですし、今のブランド力、商品力をどのようにして、さらに高めていきますか?
まずはOM-Dがもともと持っていた良さをわかってもらうことが大切で、これはやっとでき始めました。しかし、市場全体の構造は変化しています。コンパクトデジタルカメラは低価格機市場がなくなっていますし、デジタルカメラ市場全体では大きな成長戦略を描きにくくなっています。この中で高付加価値のメーカーで在り続けるには市場変化に追従する必要があります。
カメラ市場全体を見ると、値崩れしたり売れなくなっているのは、主に量販店で売れるモデルです。そうすると(利益率はともかく)カメラビジネス全体のキャッシュフローが縮小し、結果としてデバイスメーカー(センサーや映像処理LSI)のカメラ離れが進みます。
市場が縮小し、部材コストも上がり、平均単価の高い高付加価値製品が増えていきます。これが現在の状況で、コンパクトデジタルカメラだけでなく、レンズ交換式カメラも平均売価は上がっています。一方で物流の数は減ってきていますし、なにからなにまで、市場を取り囲むすべての面が変化してきているんですよ。
もともと、デジタルカメラ市場は伸びることしか知らない市場でした。このため、デジタルカメラを取り巻く業界インフラが大きくなりすぎていたんです。ところが、これからはそのインフラを削りながら、実際の市場に合わせて行く必要があります。そうした意味では、モノを作る環境、良い部品や技術を調達する方法が変化しているとも言えます。
オープンプラットフォームのカメラで新しい価値を見つける
――この先、同じ枠組みで“さらに高性能なカメラ”をやっていったのでは、成長どころか事業規模を維持できませんよね。今後のオリンパス製カメラは、どんな部分に提案性を持たせる考えなのでしょう?
そこですが、よく言われているようにFacebookには1日55万枚も写真がアップロードされています。そこに対してWi-Fi機能を充実させたり、スマートフォン用のアプリを提供するなどのことはやっていますが、次の時代への方向を模索する意味で取り組んでいるのが、MITと一緒にやっているオープンプラットフォーム構想です。
これはミラーレスのレンズ交換式カメラ“モジュール”を中心に、ユーザーインターフェイスや記録、保存、操作などの部分をオープンなAPIでつなぐというものです。MITと協力してプログラムを作り、学生が自由にカメラを使ったアプリケーションを作っています。
カメラモジュール部分は完全に受け身で、マクロなり超広角なりのレンズを組み合わせることで用途を変えられますし、スマートフォンのアプリケーションを同時に開発することで用途提案ができます。“イメージャーをどう使うか”にフォーカスし、自由にアプリケーションを作れます。
――確かに興味深い取り組みですが、最終的にどのようなカタチでオリンパスの製品やサービスへと結びつけていく考えでしょう?
オープンプラットフォーム構想の元になっているのは、“単にハードウェアとして完成品のカメラを売る”だけではなく、“カメラを中心としたアプリケーションを売る”という考え方に基づいています。今までは撮影できることそのものが価値で、その中で高画質や操作性、スピードなどを競っていましたが、“価値に対する考え方”を変えていくために、カメラ業界とは別のアイディアを取り込んでいくということです。
“ステレオタイプなカメラ”ではない方向に新しい価値を見つけに行くとき、イメージャー技術で何ができるのだろうか。もちろん、自分たちでも考えていますが、オープンでコミュニティに“一緒に新しい事をやろう”と問いかけた時、どんなアイディアが出てくるだろうと考えたのです。
エンターテインメントと良い切り口で仕掛けるのであれば、自分たちが考えるよりも、自然発生的に愉しいことをオープンコミュニティの中の人たちが思いつくでしょう。お仕着せはなく、アーティストやクリエイターが思いつくようなことを取り入れたかったのです。
実際、すでにいろいろなアイディアがフィードバックされています。自分たちで考えていると、コストダウンの延長線上で物事を考えてしまいますが、愉しさを切り口に考えると別のものが見えてきます。
――パナソニックがLUMIX DCM-CM1というスマートフォンと高画質デジタルカメラを一体化する製品を出して話題を呼んでいますが、こうした方向はどう見ていますか?
新たなエンターテイメント性を考える上で、場合によってはスマホ型という選択肢もあるかもしれません。実は検討もしましたし、他社から一緒にやらないかというオファーを受けたこともありました。
しかし、これはカルチャーの問題だと思うんですよ。スマートフォンを中心としたコミュニケーションを重視する消費者と、より良い写真を撮りたいというカメラのコミュニティ。スマホ機能を内蔵させたとしても、それがカメラ分野、カメラコミュニティへの導線となるかは疑問なんです。
オープンプラットフォーム構想では、我々では思いつかないような新しいアプリケーションへのヒント、新しい視点を見つけたいと考えています。大きくなったカメラ産業は、今後、市場が縮小すると研究開発部門に余剰人員を出していくと思います。その余剰人員をカットするのではなく、新しい分野への投資に回したい。そのためにも自分たちにはないビジネスセンスを育てるために、全く新しい事業分野の開拓をしたいですね。
その一方で従来のカメラは“カメラの役割を満たせる”ものを作りこみます。大切な想い出はスマホではなくカメラで撮りたい。そんな原体験を作って行くための、“カメラっていいね”という瞬間を生み出せるカメラ。そこに集中したい。
カメラ好きは“システムカメラ+コンパクトカメラ”の方向に
――冒頭で“プレミアムコンパクト”の話をしましたが、今後はどうでしょう? プレミアムなコンパクト機は、レンズを専用設計しているため、画質面では実は有利という側面もありますよね?
そこは我々もハッキリとはわかっていません。しかし、プレミアムコンパクトとレンズ交換式カメラは排他ではなく、両立しているのではないか? とも考えています。システムサイズが大きい一眼レフ市場の場合、キヤノンとニコンが市場の8割以上を占めています。このユーザーたちは、それぞれ画質には満足していますが、もっと手軽に撮影できるシステムも欲しがっています。プレミアムなコンパクトカメラは、こうした人達が買っているのではないでしょうか。
しかし一方で、OLYMPUS OM-D E-M10のユーザーも大きすぎる一眼レフシステムを使ってきた方たちが購入しています。ペンタックスのシステムを置き換えるか、あるいはキヤノン・ニコンからのダウンサイジングか、もしくはプレミアムコンパクトの代わりか。カメラ好きはシステムカメラ+コンパクトカメラの方向に行っているような気がしますね。
――STYLUSシリーズはその中でどんな存在感を示していくのでしょう?
ひとつには、より大きなイメージャーを採用するという答えもあるでしょうし、イメージャーサイズは変えずにズーム倍率を高める考え方もあります。そこはまだキッチリと決め切れていません。
――レンズ交換式に関しては、新たな進化の方向性は決めているのでしょうか?
動画撮影機能や画質などをもう少し研究しないとダメですね。かなり良い絵が撮れているとは思いますが、実際に撮影して大画面のテレビで見ると、まだまだと思う部分があります。4K撮影機能が欲しいという話もありますが、本当に4Kを活かすならば、動画の中におけるピント調整など考えるべきことがあるでしょう。
たとえば、せっかく作品性が高い動画を撮影できるだけのレンズ品質があるのですから、プロっぽい映像表現になるような撮影機能なども盛り込みたいですね。単に“高画質なビデオ”ではなく映像作品として高い表現力を使いこなす。もっと愉しく、映像撮影を楽しめるような機能を盛り込みたい。
――レンズ交換式カメラのラインナップではOLYMPUS OM-D E-M5(2012年2月発売)がもっとも古いモデルになりますが、一方でE-M1、E-M10と上下にモデルもあります。E-M5の後継はあるのでしょうか?
E-M5の後継機種は準備はしていますよ。E-M5からE-M1の間には、操作性や機能、ファインダーに使うデバイスなど、様々な面で技術やノウハウが進んでいます。それらを反映した新製品は提供しなければならないでしょう。楽しみにしておいてください。
2014年9月22日
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