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■路線の7割 利用低迷

■地域の足 どう確保

 春と秋の年2回。JR北海道の社員が数年前から資料を携え、道内各地へ散る。訪問先は市町村役場。春は前年度の決算状況や地域の路線の利用状況を、秋は中間決算の状況などを説明する。

 「本題は15分ほど。残りは世間話をして終わり。すっかり恒例の行事ですね」。訪問を受けたことのある職員が言う。

 JR北は訪問先の自治体名や数を明らかにしていないが、「利用が極端に少ない線区の現状について理解していただき、地域の公共交通に対する意見を伺うため」(経営企画部)と説明する。

 「廃線」への布石なのか。自治体側は「そんなそぶりを見せられたことは一度もない」と言う。

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 国鉄時代、国が廃止路線を決める際に用いた指標がある。1日1キロあたりの平均利用者数を示す「輸送密度」。まずは1日2千人未満の路線が、次いで4千人未満の路線が廃線の対象とされた。

 JR北の昨年度の輸送密度は4725人。最新の鉄道統計年報によると、「ドル箱」の東海道新幹線を持つJR東海は約7万3千人、JR東日本は約4万5千人で、遠く及ばない。

 JR北の線区別では、昨年度の輸送密度が最も小さいのは札沼(さっしょう)線・北海道医療大学―新十津川間の81人。次いで、石勝線・新夕張―夕張間の110人、3番目は留萌線・深川―増毛間の149人だった。

 これらの線区を含む72%は昨年度の輸送密度が4千人未満で、国鉄時代の「廃線対象」に相当する。一方、輸送密度が2万人以上の線区は函館線・小樽―札幌間などで、営業距離に占める割合はわずか6%だ。

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 JR北は、鉄道事業で年間250億~300億円の赤字が発生。不動産賃貸やホテル経営などの利益で、本業を支える。

 「安全軽視の風潮が生まれた背景に、赤字続きの鉄道事業にお金はかけられないという意識があったことは否めない」とJR北幹部は言う。

 JR北の全株式を持つ独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の石川裕己理事長は6月の株主総会で「経営基盤が安定してこそ、安全対策が進められる」と指摘。増収策をひねり出してほしいとJR北側に注文した。

 1987年の国鉄分割民営化後、JR北が廃止した路線・線区は深名線(121・8キロ)と江差線・木古内―江差間(42・1キロ)、上砂川支線の砂川―上砂川間(7・3キロ)の計171・2キロ。「廃止すると言えば、地元から『反対』ののろしがあがる。踏み切れなかったのが現状だ」。別のJR北幹部は打ち明ける。

 JR北は、安全対策に経営資源を集中させるとして、「SLニセコ号」などの今年度限りでの運休、新型特急の開発中止に踏み切った。

 島田修社長は不採算路線について「具体的にどうするかは、きちんとした議論ができていない」としたうえで、「線区の効率的な運営は考えていく必要がある」と話す。

 「地域の足」をどう確保してゆくのか。JR北のみならず、道民みなで考える時が来ている。

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 JR北海道再生への処方箋(せん)を有識者に聞く「提言編」を後日掲載します。