監視ソフトはどこまで普及しているか
たとえば一般財団法人・労務行政研究所が2010年3月に発表した「企業の情報管理に関するアンケート」によれば、社員の職場でのネット利用状況を監視している企業は全体の56.8%、従業員1000人以上の大企業では70.6%に達したという(ちなみに2002年に日本労働研究機構が行った同様の調査では、ネット監視を行っている企業は全体の16.4%だった)。
ただし、このアンケート調査は日本企業全体に対する調査ではないことを断っておく必要がある。と言うのも、今現在、日本国内で正式に登記されている企業の総数は約400万社以上に上る(総務省・統計局調べ)。
仮に、この400万社の56%にネット利用を監視するようなソフトが導入されているとすれば、その数は優に200万社を超えてしまう。監視ソフト一式の値段は安くても数十万円はするし、導入後の維持費も継続的にかかるので、それを200万社以上が導入したとすれば、どう低く見積もっても年間数千億円の市場規模となる。つまり監視ソフトは一大産業を形成していることになる。
しかし現在の監視ソフトはまだニッチ商品であり、上記のような数字はあり得ない。筆者が、こうした監視ソフトのメーカー数社にインタビューした感触では、監視ソフトを導入している企業の総数は恐らく数万社程度と見られる。それでも、かなりの数だし、特に従業員1000人以上の大企業となると、確かに、その70%以上が監視ソフトを導入しているというのも十分あり得る。中でも銀行やクレジットカード会社など、大量の顧客データを抱える大手企業は、まず間違いなく監視ソフトを導入していると見ていいだろう。
監視ソフトには、どんな効果があるのか
このように企業に導入された監視ソフト(ログ管理ソフト)は実際に、どのような効果をあげているのだろうか? これは少なくとも情報漏えいなどを抑止する効果はあるようだ。たとえば独立行政法人・情報処理推進機構が、2012年に発表した「組織内部者の不正行為によるインシデント調査―調査報告書」を見てみよう。
そこで実施されたアンケート調査によれば、「(情報漏えいなど)内部不正行為の防止に効果が期待できる対策は何か?」という問いに対し、アンケートに回答した会社員全体の54.2%が「社内システムの操作の証拠が残ること」と答え、回答全体の中で1位となった(アンケートの対象となった社員の総数は3000名だが、有効回答者数は不明)。
一方、いわゆる情報セキュリティ管理基準の「ISMS」については、同じ調査報告書では「会社で働いている人の不正行為への気持ちを低下させる効果があることは現状では言えない。ISMSは多くの組織で形骸化している」と、その効果を否定している。
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