今日の横浜北部は朝からとてもさわやかな涼しい1日でした。日中もやや暑くなるのですが、それでも吹いてくる風は秋の心地よいもの。
さて、前から書くつもりだったことをいくつかまとめて。
ラッキーなことに、九月に入ってから日本で英国の戦略界の大物たちと会話するチャンスがありまして、そこでいくつか感じたことがあります。
まず会ったのは
ジェレミー・ブラックという英エクセター大学の教授ですが、この人物は超多作家(現在まですでに114冊出版!)として知られる、歴史および軍事史の世界的な権威の一人です。
軍事史だけでなく、戦略の理論や地政学にも詳しく、私は将来的に彼の本を翻訳したいと考えております。
彼の代表作は以下の『軍事史の再考』ですが、日本では英海軍史や地図関係の本などが数冊翻訳されておりますね。

次はつい2日ほど前に会った、
ローレンス・フリードマン。この人は戦略界の世界的な「大御所」でありまして、たとえて言うなら30年前のクラシック音楽の世界におけるカラヤンのような人物でしょうか。
現在はロンドン大学のキングス・カレッジの戦争学部の教授として名声を欲しいままにしておりますが、今年でもうリタイヤだとか。
この人物の代表作は一昨日に私がサインをもらった『
核戦略の進化』という分厚い本なのですが、最近注目されているのはなんといっても94年からほぼ20年近くかかってようやく昨年出た『戦略』という超分厚い本。

なんとこの本は(何年後になるのかわかりませんが)日経新聞社から翻訳が出るそうです。非常に楽しみですが、翻訳をやる人間としては、原文でも630頁以上ある本は怖くて怖くて(苦笑
この二人の人物に実際に会って話をしたことが、個人的にもとても勉強になったというか、考えさせられるものでした。
ただし私が勉強になったのは、彼らの講演していた内容ではなく(彼らの話す内容はもうある程度察しがつきますし)、
その後の懇親会や、休憩時間の合間に個人的に色々と話をしたときのもの。
まずはフリードマンなのですが、私は彼に懇親会で自分の先生であるコリン・グレイとの関係を聞きました。なぜならこの『戦略』のあとがきの部分で、「グレイとは長年のつきあいで互いによい関係だ」という節のことが書かれていたからです。
そうすると、フリードマンは、
「コリンとは大学時代ではなくIISSで一緒に働いていた時からのつきあいだよ。彼は右派で僕は左派という思想の違いはあったけど、互いに尊敬していたんだよね。彼はイギリスではなくてアメリカで有名になったけど」
とのこと。
ついでに『戦略』は、自身の元同僚であり、現在はレディング大学で教えている
ベアトリス・ホイザーの『戦略の進化』という大著とは似たようなところがあるのかどうかについて聞きました。

するとフリードマンは
「彼女のその本はすごいね。私の本の中でもかなり引用してます。ただし彼女の本は戦略のアイディアの歴史を調べたものだから私の本とは主旨が違いますよ。私のは戦略そのものについての分析だから」
とのこと。ついでに私がジェレミー・ブラックに最近会って、戦略について質問したことを告げると、
「彼は本を書きすぎだよ!もっと集中してじっくり書けばいいのに」
と一言(笑)
しかし私がブラックから戦略そのものの考え方について聞いたというと、とたんに表情を少し変えて、
「彼は歴史家として、
戦略が当事者たちの間で実際にどのように考えられて実行されているかに興味があるんだ。だから彼は僕の本は批判するだろうねぇ」
と申しておりました。
実は今回の話を聞いてインスピレーションを得たのは、実は私にとってはフリードマンよりもブラックのほうでして、その理由は、彼が私と休憩時間の間に雑談していた時に、
「もっとリサーチしなければならないけど、ぼくが今興味あるのは、クラウゼヴィッツのような戦略の理論というのは意外と現場の政策家たちには使われていなくて、
むしろその国の過去の戦争の事例の話のほうが多いんじゃないのか、ということなんですよ。これについては数年以内に本として仕上げるけど」
とのことでした。
実はこのようなアイディアについては私も以前から
ある本を読んだ時からなんとなく感じていたことでありまして、彼のコメントには我が意を得たりと感じた次第であります。
私が留学中に何度も感じたことですが、このようなカンファレンスでは、正式な研究発表というのは聞いてもあまり意味はなくて、本当にためになる話は発表した本人との雑談の中にある、ということです。
来月出る
カプラン本にはシンガポールの政府高官の「
本当の話がしたいのならオフレコの場に限る」というコメントが出てきますが、こういうのは学問の世界でもある程度当てはまる真実なのかと。


http://ch.nicovideo.jp/strategy

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal