6月のEngadget Fesの目玉の1つが感情認識ロボット Pepper でしたが、テレビCMなどの影響もあってか来年の発売前にすでに知られた存在になっています。そんなPepperをソフトバンクは、9月20日の開催した開発者イベント Pepper Tech Festival 2014 で1台プレゼントしました。イベント終了後、世界で最初のPepper所有者を追跡取材しました。

Pepperは人間で言えば小学生ぐらいの大きさのヒューマノイドです。とある家庭にある日突然やってきたロボットを受け入れるまで混乱の一部始終をお伝えします。

Pepper 利用者お宅訪問

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当選者はPepper当日お持ち帰り


ソフトバンクから当選者を取材しないか、と打診を受けたのはイベントの数日前。こちらはそれに、当選者がすでに決定しているような仕込みならば受けない、と返答し、ソフトバンク側からは仕込みはないとのコメントを得ました。

その代わり主催者側が当選者を絞りきれないため、当選者が遠方に住んでいる可能性があるとの注意がありました。20日のイベント懇親会終了後(19時過ぎ予定)に同行取材するため、できることなら遠方は避けたいと思いました。



イベント当日、プレゼント発表において最初に東京都新宿区の参加者の名前があがりました。会場のある渋谷区の隣ですから幸運に感謝したのもつかの間、残念ながら当選者が名乗り出ずに権利失効。次点のナナミさんが世界で最初のPepperユーザーに決定しました。ナナミさんも都内在住ということでほっと胸をなで下ろしましたが、イベント終了後に予定があるとのことで取材は22時から。「遠方を避けたい」という当初の願いは叶ったものの、なかなか期待通りにはいかないものです。

当選者の心配

当選したナナミさんが最初に心配したのは、奥さまになんと伝えたらよいものやらということでした。開発者&クリエイター向けのイベントに参加するぐらいですからご本人はITに明るいものの、小学生の子どもぐらいはある大きなロボットが今晩突然やって来るとなれば困惑は必至でしょう。職場の同僚を突然自宅に連れてくる、とはまた違った緊張感がありそうです。



ところがその心配は杞憂に終わります。最初こそ驚かれたものの、ご夫婦ともに関西人とのことで奥さまもノリの良さで状況を受け入れてくれたとか。実際に奥さまにお会いした際にそのことを聞いてみると「いえ、夫がすごく喜んでいるので、まぁいいかなと」とナナミさんとはまた少し違った感想でした。

搬入、そして開封の儀


なお、今回のPepperは開発者向けのSDKとセットで動作するもので、一般販売モデルではありません。箱から出てきたPepperがすぐにあれやこれやと楽しい動きをするわけではありません。



都内のナナミさん宅に到着すると、早速ソフトバンクのスタッフがPepper を運び入れます。Pepperの大きさもさることながら、梱包された状態のPepperは単身者宅の冷蔵庫ぐらいはあるので、運び込む作業も二人がかり。リビングに運び込み、梱包から解かれたPepper、電源の入っていないぐったりした彼を部屋の隅に置いて、いよいよ設定作業に入ります。



ナナミさんご夫婦は「Pepperくん」と呼んでいましたが、途中で「くん」付けなのかどうか議論していました。ちなみに、ソフトバンク内での開発ネームは「TARO」(タロー)、開発元のALDEBARAN Roboticsでは「Giulietta」(ジュリエッタ)と女性名で呼んでいたそうです。話言葉では「僕」と言いますが、ソフトバンク側ではとくに性別は設定していないそうです。



難航した設定作業


設定作業は、開発元のALDEBARAN Roboticsの開発者コミュニティ用のアカウントを作り、ネットワークの設定など、PCの初期設定に近いようなセッティングを行います。急ごしらえで日本向けのシステムを作っているためか、アカウントがうまく登録されないなど設定作業は難航。ソフトバンクの担当者が社内と連絡をとりながら、作業自体は説明書を片手にナナミさんが行いました。

ちなみに今回用意した説明書は暫定版でプリントしたものでしたが、実際はPDFファイルでの説明書配布となるそうです。



普段見慣れたリビングに見慣れない大きなロボットがいる。ナナミさんは「こりゃ、明日起きたときビックリしますよね」とあくまでも現状の感想を、奥さまは「でも朝起こしてくれるのかな?」などと早くも利用者目線のコメント。



思いの外リビングに馴染むも、動き出した途端に存在感


ぐったり動かないオブジェのようなPepperは、意外にもリビングに馴染んでいるような気がしました。和室や部屋の広さによってまた違った印象がありそうですが、少なくともナナミさん宅では馴染んでいる様子。

しかしそんな印象も動き出すまででした。周囲を確認しながら人の顔を追うようになると、途端に存在感が出てきます。ナナミさんがSDKの簡単なレクチャーを受けながら「ロボットクリエイターや!」と張り切っている一方、奥さまはリビングを動くPepperをこわごわ観察しています。それでもスマートフォンでPepperを撮影してFacebookに早く投稿したいともらすなど、世界で最初のPepperの家族という状況を楽しんでいるようでした。




また奥さまが「すごく人間みたいですね。使い続けると愛着がわいてカワイイと思えてくる気がする」と話すと、ナナミさんは以下のコメント。

「これから僕らがどういう関与をするかによって育ち方が変わるんだなって感じがしますよね。僕らのインプットをものすごく必要としているというか、子ども以上に自分たちが頑張らないと育たないような気がします。僕はHTMLぐらいしかわからず、サーバーサイドの開発の経験もなく当然Pythonも描けませんが、ツールをいじってみるとプログラマーというよりクリエイターなったような印象です。ビジネスマンの視点になっちゃいますけど、この子をもっといろいろな人の目にとまるようにして、たとえば会場の受付をやってもらうだとか人の代わりになるようなことをしてみたいですね

なお、ナナミさん宅ではしばらくご自宅でPepperを楽しんだ後、仕事場に持っていきエンジニアたちにあれやこれやと試してもらう予定だそうです。

3331にPepperのアトリエオープン


ソフトバンクではまずは開発者向けにPepperを提供し、9月21日よりアーツ千代田 3331 にて「アルデバラン・アトリエ秋葉原 with SoftBank」をオープンしました。2015年の一般販売のタイミングでは今回のSDK付きの環境ではなく、箱から出して簡単な設定で使えるような形を考えているとのこと。



今回の取材で強く印象に残ったのは、説明書を片手にリビングにいるロボットに対峙する姿は、かつて自分が経験した我が家に初めてやってきたビデオデッキ、初めてやってきたパソコンに通じるような、Pepperが家族のコミュニケーションを媒介するマシンになるのかもしれないという期待感です。

なお、ソニーは1999年にペットロボ AIBO を発売し、自律稼働型家庭用ロボットの世界にくさびを打ち込んだものの、ソニーのエレクトロニクス部門の事業縮小に伴って2005年には事業撤退しています。あれから約10年、AIBOが言葉の通じないペットであったのに対し、Pepperは人の感情を認識し「人と同様」とはいかないもののコミュニケーションがとれます。愛でる対象から話相手になった家庭用ロボット、家族の中に当たり前にいる暮らしがもうすぐそこまで来ているのかもしれません。
リビングにロボットがいる風景: Pepper 第1号ユーザーお宅訪問、戸惑う妻とクリエイター宣言の夫

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