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サイドA準決勝副将戦で白水哩は船久保浩子の先制リーチに直面した際に次の様に言っています。
「私の和了りは普通の期待値では測れん。姫子との二人の和了りになるとやけん!!」
 
白水哩にはリザベーションがあるため押し引きの判断が普通のプレイヤーとは異なるのは確かですが、ではリザベーションも加味した期待値で測るとどうなるのでしょうか。実際に計算してみました。 
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最初に状況を整理してみます。場は南2局10巡目で対面の船久保浩子が親でリーチをかけています。対する白水哩の手牌は上のとおりです。6筒を切れば役なしカン8索の聴牌。ドラは4萬で手元に赤5索もあるためリーチドラ赤の5200点です。直前の捨て牌はこうなっています。
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手前右が親の船久保浩子、左奥が白水哩です。白水哩の当たり牌8索は鷺森灼が2巡目に切っていて残り3枚、聴牌時に切り出す6筒は親の船久保浩子と上家の鷺森灼の現物だということがわかります。6索が3枚切られているため8索はまだ山にありそうですがハッキリとは断定はできかねます。さて、この状況で先ほどの手牌、白水哩は追っかけリーチをかけるべきなのでしょうか?

まずは「普通の期待値」で計算してみましょう。おしえて!科学する麻雀によると攻めるかオリるかの判別式は以下の式となります。

D=G(攻めた場合)-G(オリた場合)
D≧0なら攻め、D<0ならオリ

G(攻めた場合)=
(1-p){wW-h(H+r)-t(T+r)}-pH
G(オリた場合)=-oT
であるから
D=(1-p){wW-h(H+r)-t(T+r)}-pH+oT
ただし
 p:今切る牌が放銃になる確率
 w:安全牌を切って攻めた場合の和了り率
 h:安全牌を切って攻めた場合の放銃率
 t:安全牌を切って追いかけた場合のツモられ率
 o:オリた場合のツモられ率
 W:和了った場合の収入
 r:自分がリーチ棒を出すなら1000、出さないなら0
 H:放銃した場合の平均失点
 T:ツモられた場合の平均失点
である

ただし上記の式には攻めた場合に流局したときの得点期待値とオリて流局したときの得点期待値が含まれていません[1]
攻めたときに流局する確率は(1-w-h-t)、その場合の得点Uは(1500-r)です(2人攻めを仮定しているため)。
同様にオリたときに流局する確率は(1-o)、失点Vは1000となります(3人がオリる場面と仮定)。
このことを加味して一般的な攻めとオリの判別式をここでは以下のようにします。

D=(1-p){wW-h(H+r)-t(T+r)+(1-w-h-t)U}-pH+oT+(1-o)V

 U:攻めて流局した場合の平均得点
 V:オリて流局した場合の平均失点

上記の式に白水哩の状況での各種値を代入していきます。


pは白水哩が聴牌時に切る牌は親の現物ですのでp=0。下家の亦野誠子が和了する可能性もあるにはありますが6筒は直前に船久保浩子が切っているので当たりとなる可能性は非常に低いです。よってここでは無視します。

w、h、t、oの4つはおしえて!科学する麻雀にある統計データのグラフから読み取ります。10巡目のカンチャン追いかけリーチの各値はおおよそ次のようになります。
w=0.31 h=0.24 t=0.18 o=0.31  [2]

なお実際は白水哩の待ちは1枚切れのカンチャンですので和了率は下がり必然的にツモられ率も上がるのですがその場合の統計データが見つからなかったのでこの情報は無視しています。

和了時の収入は教えて!科学する麻雀にある「12巡目、2人攻めの場合」のデータを参考にします。この場合40符3飜の点数は7070点となります(W=7070)。

rはリーチをかけたためr=1000

放銃した場合の平均失点は科学する麻雀では親リーチの平均はおよそ8400点とあります。ですが科学する麻雀では赤なしルールで統計を取っているため赤ありルールではより打点が高いことが予測されます。現代麻雀技術論赤あり麻雀のリーチ平均点によれば赤3枚入りの親リーチの平均打点は9800点です。咲-Saki-ルールでは赤は4枚入りのため参考にしたルールとは異なりますが、赤4枚入りの統計データがなかったため上記の値を使用します(H=9800)。

ツモられた場合の平均失点は相手が親の場合はおおよそHの1/3となるそうです。この場合はT=3267

以上から判別式を計算します。
G(攻めた場合)=(1-p){wW-h(H+r)-t(T+r)+(1-w-h-t)U}-pH
                        =
(1-0){0.31*7070-0.18*(9800+1000)-0.24(3267+1000)+(1-0.31-0.18-0.24)*(1500-1000}-0*9800
                        =-641.38
G(オリた場合)=-oT-(1-o)V
                      =-0.31*3267-(1-0.31)*1000
                      =-1702.77
であるから
D
=G(攻めた場合)-G(オリた場合)
 =1061.39

攻めた場合もオリた場合もマイナス期待値ですがベタオリするよりも攻めたときの方が失点が少ないため判別式の値は収支プラスとなります。従ってこの場面では追っかけリーチした方が得だという結果となります。
ただし今回の場合は和了り牌が多くても3枚ということもあり、和了率の低下と放銃率の増加が見込まれます。その点まで考慮するとオリという選択もあながち間違いではありません。これらを考えると白水哩の以下のようなセリフは非常に納得がいくものだとわかるでしょう。
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このような微妙な判断も考慮できるあたりからも白水哩の雀力の高さが垣間見えます。


と、以上が「普通の期待値」を計算した場合です。続いてリザベーションまで含めた期待値を計算してみます。
まずは白水哩が先行リーチ者を追いかけてリザベーションに成功/失敗する確率を求めてみましょう。リザベーションN飜をかけて白水哩が和了った際にリザべ-ションN飜を達成した割合をsとします。白水哩がリザベーションに成功するのは「ベタオリせずに攻めてN飜以上で和了りきった場合」ですので、その確率は(1-p)wsとなります。白水哩が攻めてリザベーションに失敗する確率は(1-p)(1-ws)です。ベタオリした場合は他家の和了や流局に関はわらずリザベーションは失敗ですので確率は1です。
 以上をまとめるとザベーションの成功・失敗の確率はそれぞれ次のようにります。

白水哩が攻めてリザベーションが成功する確率:(1-p)ws
白水哩が攻めてリザベーションに失敗する確率:(1-p)(1-ws)
白水哩がオリてリザベーションに失敗する確率:1.0


さらに白水哩がリザベーションN飜をかけた場合の鶴田姫子の同局の点数をJ、リザベーションに失敗した局の鶴田姫子の得点期待値をKとします。鶴田姫子の得点期待値は先ほどの確率にKJをかけた値となります。

ここまで定義できれば白水哩の攻めかオリかの判別は簡単にできます。ベースは通常の期待値の式とかわりませんが、そこに攻めた場合の鶴田姫子の得点期待値とオリた場合の鶴田姫子の得点期待値を足せばよいだけです。まとめると以下の式となります。

D=G(攻めた場合)-G(オリた場合)
D≧0なら攻め、D<0ならオリ

G(攻めた場合)=(1-p){wW-h(H+r)-t(T+r)+(1-w-h-t)U}-pH+(1-p)wsJ+(1-p)(1-ws)K
G(オリた場合)=-oT-(1-o)V-K
であるから
D=
(1-p){wW-h(H+r)-t(T+r)+(1-w-h-t)U}-pH+(1-p)wsJ+(1-p)(1-ws)K+oT+(1-o)V+K
 s:白水哩が和了った際にリザべ-ションN飜を達成した割合
 J:リザベーションが成功した局の鶴田姫子の得点
 K: リザベーションが失敗した局の鶴田姫子の失点

多少複雑ですが式の大半は普通の場合の期待値で使った値です。sJKがわかれば白水哩が攻めるべきがオリるべきかが判別できます。よって次はsJKを求めてみましょう。

この中で最も簡単にわかるのはリザベーション成功時の鶴田姫子の得点Jです。例えば白水哩がリザベーション3飜で和了った場合の鶴田姫子の点数は彼女が子なら12000点、親なら18000点です。鶴田姫子は確率的に3/4で子、 1/4で親なので姫子の得点期待値は12000*3/4+18000*1/4=13500点・・・となりますが親で和了った場合はもう1度親ができることによる収入増の期待値も忘れてはいけません。科学する麻雀によれば親の連荘による収入期待値は650点です。この結果も加味して全てのNについて姫子の得点期待値をまとめた表は以下のようになります[3]
N(飜) J(子の場合) J(親の場合) Jの期待値 
1 2000 2900+650 1637.5
2 8000 12000+650 9162.5
3 12000 18000+650 13662.5
4,5 16000 24000+650 18162.5
6 24000 36000+650 27162.5
7以上 32000 48000+650 36162.5
N=1の場合は符によって点数が大きく変わるのでここでは最小値を入れています。またN=2の場合も鶴田姫子の和了が20符4飜なら5200(7800)点ですし30符4飜も厳密には満貫ではありませんが議論が煩雑になるため満貫としています。

続いてリザベーションに失敗した際の姫子の失点期待値Kを求めてみます。劇中ではリザベーションの本質を見破った宮永照はリザベーションに失敗した場合のことを次のように言及しています。
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これによるとリザベーションに失敗したときの鶴田姫子の和了率は通常よりも下がるだろうことが伺えます。正確な数値を知りたいのですが流石に描写不足ですのでここでは和了率10%ということにしましょう。劇中では姫子が実際に1回和了しているので低すぎると不自然ですし、普通に打った時の和了率の半分以下ですので高すぎるということもないかと思われます。
姫子が和了ったときの点数は子で1000点、親で1500点と連荘の期待値が+650ですので平均すると1287.5点です。姫子が和了れない場合の得点期待値はこれといったデータがありませんので姫子は配牌ベタオリしたものとしてその得点期待値を採用します。近代麻雀2014.10.15に付属する統計学で勝つ!麻雀の数字30によれば配牌オリをした際の平均失点は1400点だそうです。

白水哩がリザベーションに失敗した時に鶴田姫子は10%攻めて1飜で和了り、90%は配牌オリをする、と仮定すると姫子の得点の期待値は0.1*1287.5-0.9*1400=-1131.25となります(K=1131.25)。実際は攻めた場合でも必ず和了できるはずはありませんのでもっと放銃が増えて期待値はより低くなるはずですがここではこの数値を用いることとします。
 

最後に白水哩が和了った際にリザべ-ションN飜を達成した割合のsを仮定してみます。注意する点としては「リザベーションN飜をかけたときに実際にN飜で和了れる確率」ではなく「リザベーションN飜をかけた局に和了った」ときの「N飜以上で和了った」確率である点です。これは訓練すればかなり精度を上げることができます。麻雀にはリーチ・一発・裏ドラ・赤ドラ・門前ツモなど予め予測しにくい役があるためピッタリN飜で和了ることは難しいのですがN飜以上になっても問題がないため最初に狙う飜数を低めに見積もっておけば問題ありません。配牌でドラが1枚あればリザベーション2飜、満貫が見える配牌ならリザベーション4飜くらいでもそれなりの率になるはずです。和了る前に飜数が確定している場合はs=1.0、それ以外の場合はs=0.9としておきます。

以上から実際の場面での期待値を計算してみます。白水哩が追っかけリーチをかけた局面のリザベーションの飜数は不明ですがリーチ+赤+ドラで3飜ある手なのでここではN=3としましょう。すなわちJ=13662.5です。この場合の期待値は以下になります。

G(攻めた場合)=(1-p){wW-h(H+r)-t(T+r)+(1-w-h-t)U}-pH+(1-p)wsJ+(1-p)(1-ws)K
         =(1-0){0.31*7070-0.18*(9800+1000)-0.24(3267+1000)+(1-0.31-0.18-0.24)*500}-0*9800+(1-0)*0.31*1.0*13662.5+(1-0){(1-0)*(1-0.31*1.0}*(-1131.25}
    =2813.433


G(オリた場合)=-oT-(1-o)V-K
                      =-0.31*3267-(1-0.31)*1000-1131.25
                      =-2834.02

であるから
D=2813.43-(-2834.02)
   =5647.45


攻めた場合は圧倒的にプラスですので攻めるのが正解だとわかります。ただしこれはあくまでリザベーション3飜の時です。例に挙げた白水哩の手はリーチをかけて3飜なのでもしかするとリザベーション1飜や2飜の可能性もあります。そこでリザベーション1~3飜までの期待値を求めて比較してみます。
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黄色が白水哩が攻めた場合の得点期待値、緑がオリた場合の得点期待値です。オリた場合の期待値はリザベーションをかけた飜数に依存しないので一律で-2834点となります。見て分かる通りどの飜数でもオリた場合の方が得点期待値が少ないため攻めたほうがよいことがわかります。つまり今回取り上げた場面ではリザベーションの飜数に関わらず、白水哩がオリなかったのは正しい判断だと言えます。
今回の例では4飜以上だとツモるか裏ドラを乗せなければいけないので和了率等に影響がでます。よってグラフからは除きましたがそれでもおそらく期待値はプラスでしょう。
ちょっと面白いのはリザベーション1飜は得点の期待値がマイナスになっている点です。リザベーション1飜の得点効率の悪さはしばしば言及されますが数字で見るとそれがハッキリと分かります。


さて、例に挙げた場面では白水哩は攻めるのが正解だとわかりました。ではどんな場面なら白水哩は降りるべきなのでしょうか。条件は色々とありますが全てを検討するのは大変なのでここではおよそリザベーションをかける上での最低数と思われるリザベーション2飜をかけた時に親の得点の高さを変えて調べてみます。
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調べてみて驚きましたが親がハネ満や倍満程度ならまだまだオリた時の失点よりも攻めた時の得点の方が上となります。親の三倍満でようやくトントンくらいです。親の三倍満は子の役満よりも上なので子が大三元確定の鳴きをしているように役満を張っている場面でも白水哩はドラドラのカンチャンで追っかけリーチをかけることとなります。
白水哩がオリるとすると親の役満と勝負するときくらいしかありませんが、もしリザベーションが3飜だったなら親の役満でようやく攻めるかオリかトントンくらいとなり、4飜以上では親役満相手でも攻めないと損になってしまいます。白水哩が傍目に見ると攻めすぎだったのにはこういった裏付けがあったということでしょうか。


以上から今回の結論をまとめます。
①準決勝副将戦前半南2局での白水哩の追っかけリーチはリザベーションを考慮しないと微妙な一手だがおそらく攻めるべき手。リザベーションを考慮すると仮にリザベーション1飜でも攻めるべき手
②リザベーションをかけた局の白水哩が降りるべき局面はほとんどない
③もしリザベーション4飜以上ならたとえ親役満相手でも攻めるべき



脚注

[1]誤植かと思って調べてみましたがどうにもそういった記述は見つかりませんでした。私が何か勘違いしているのでしょうか?
参考-福地誠blog 【麻雀】誤植

[2]攻めた場合の流局率は教えて!科学する麻雀のグラフにデータが載っていますがおおよそ17%ぐらいです。ですがこの値だと攻めた場合に(和了する確率)+(ツモられる確率)+(放銃する確率)+(流局する確率)の総和が1になりません(0.31+0.24+0.18+0.17=0.90)。それぞれの値はグラフから目測で読み取ったため0.01ずつぐらいはズレていてもおかしくありませんがそれでも0.1はズレないはずです。記事では流局率を0.27とすることで調整しています。

[3]実際にはリザベーションキーがあっても前局が流局親流れになった場合はキーのある局そのものがなくなるため姫子が100%和了れるわけではありませんが議論が複雑になるためキーのある局で姫子は100%和了れるものとしています。