(英エコノミスト誌 2014年9月13日号)
中国は10年前、自国の文化を普及させるために、海外でセンターを開設し始めた。一部の人はそれに反発している。
中国を代表する思想家の名にちなんだ文化施設が物議を醸している(写真は北京の孔子廟に建つ孔子像)〔AFPBB News〕
「調和こそ何にも増して価値がある」。中国の思想家の孔子は2500年前にこう言った。だが、オレゴン大学孔子学院の初代院長のブリナ・グッドマン氏と、彼女の同僚の歴史学者であるグレン・メイ氏の間の冷ややかな関係に、調和の兆候はほとんど見られない。
2人の研究室は歩いて10秒ほどの距離しか離れていないが、両者が互いを訪問することはない。彼らが互いに抱く明白な嫌悪感は、政府出資の文化センターを海外に開設する中国の10年来の取り組みについて欧米の学者の間で高まる不協和音を反映している。
中国の「ソフトパワー」の促進を目指す文化センターは、平和を唱える賢人の名を掲げている。孔子学院は、中国語教師に対する世界的な需要の拡大をうまく利用している。だが、同時に学問の自由に関する不安も煽っている。
米国では、孔子プログラムは、学びたい人全員に中国語教師を提供するだけの資金を持たないことが多い大学や学区に広く歓迎された。
「言論の自由や学問の誠実性を損なう」
しかし、メイ氏のように批判的な人々は、中国の資金には代償が伴うと考えている。孔子学院(大学のキャンパス内に設置されている孔子プログラムはこう呼ばれている)や学校を拠点とする孔子教室は、中国に関する議論をデリケートな話題から遠ざけることで言論の自由を抑制している、というのだ。
米国大学教授協会(AAUP)は今年6月、各大学に対して、孔子学院(現在、米国に100校ある)との契約を打ち切るか見直すよう求めた。学院が「中国国家の一部門として機能しており、学問の自由を無視することを許されている」というのがその理由だ。
メイ氏はオレゴン大学に孔子学院を閉鎖するよう求めているが、その甲斐なく、実現に至っていない。グッドマン氏(もう同大の孔子学院院長ではない)は、自己の利益に資金を出すという点では、中国も米国の大学に寄付する他の資金提供者と相違ないとし、孔子学院はいわゆる「中国の脅威」を呼び覚ます存在になってしまっていると話している。
2004年に中国が初めてソウルで孔子学院を開設した時、同国は新たな取り組みがブリティッシュ・カウンシルやアリアンス・フランセーズ、ドイツのゲーテ・インスティトゥートなど、西側の政府が支援する文化普及活動のように、議論を引き起こさない存在になることを期待していた。
その狙いは、中国人がよく平和の伝統が深く染み込んでいると表現する中国文化に対する認識を高めることで、中国の台頭に対する不安を打ち消すところにあった。