ウクライナ情勢は今どうなっているか
ウクライナ東部での、ウクライナ政府と親ロシア派の紛争だが、当初から想定されていた落とし所(東部二州に特別な地位を与えること)にようやく向かっているようにも見える。16日にウクライナ議会はこの二州に特別な地位を付与する法案を可決した(参照)。
だが、現実的な和平はまだ先のことにかもしれない。そのあたりについて現時点で思うこと少しまとめて記しておきたい。日本を含めて西側メディアからは事態がとても見えづらいせいもある。
事態が見えづらいのは西側ジャーナリズムの問題だけではない。そもそも、ジャーナリストの立ち入りが可能だったガザに比べて、同程度の被害を出しているにも関わらず、ウクライナ東部の戦闘の実態はあまり報道されてこなかった。
事態の転機となるのは、5日に成立したウクライナ政府と親ロシア派の停戦だが、この背景もなかなか見えにくいものだった。なぜ、ここに来て、停戦という流れになったのか?
私の印象では、8月24日のウクライナ独立記念日軍事パレードで盛り上がっていたように、ウクライナ政府側はこの時点までは優勢であった。だが、そのころからロシア側からの支援の影響だろうと思われるが、親ロシア派が急速に盛り返した。象徴的なのは、8月28日にウクライナ政府が暫定州都とした港湾都市マリウポリを「ほぼ包囲した」(参照)ことである。
ロシアとしては、3月に併合したクリミアへの通路を確保するという意味でマリウポリの掌握はごく基本的なお仕事の内にある。その当たり前の観点から逆に考えると、むしろこれを阻止できないウクライナ政府側の勢力はどうなっているのだろうかと、疑問を抱かせる事態だった。
結果論ではあるかもしれないが、親ロシア派の盛り返しによって、ウクライナ政府がようやく落とし所に向かう動向となった。これが5日の停戦協定につながる。
流れを見ていると、ロシア側からの軍事的な支援によって、和平への道がようやく開けた形になっている。平和というのは現実にはこうして実現されることがあるものだなと奇妙な感慨を持つ。
かくしてようやくこぎ着けた停戦協定だが、次に関心が向くのは、どのような顔ぶれが揃うのかということだ。特にウクライナ政府側から誰が出てくるのかは注目された。
ウクライナ側から出て来たのは、レオニード・クチマ(Leonid Kuchma)元大統領であった。過去の経緯からロシアとのチャネルを持っている人物だと言える。
クチマ元大統領が出て来たことで、少し踏み込んだ推論ができる。今回の停戦協定だが、この交渉のひな形は3日ロシアのプーチン大統領が示した段階的停戦案を踏襲した形になっているところに、ロシア側チャネルの人間であるクチマ元大統領の登場である。こうしたことから考えると、和平の段取りと筋書きは、全てプーチン大統領が整えたものではないだろうか。
クチマ元大統領の登場には他の疑問も残る。ウクライナ政府内でどのような力学でクチマ元大統領が選出あるいは承認されたかである。別の言い方をすれば、停戦協定において彼はどのくらいの権限をウクライナ政府から委託されているのだろうかということだ。
この疑問はつまるところ、ウクライナ政府が現状、どのように維持されされているのかもよくわからないことに関連する。この不明性が、現状の散発的な停戦協定違反を意味しているように思われてならない。
こうした文脈で見ると、米国の動きもまた薄気味悪いものである。19日NHK「米 ウクライナ軍への支援強化」より。
アメリカのオバマ大統領は、ホワイトハウスで、ウクライナのポロシェンコ大統領と会談し、ウクライナ軍への装備品の提供など5300万ドル規模の追加支援を行う方針を示しました。
ロシア側からの落とし所は東部二州に特別な地位を与えることであり、いずれそこに落ち着く以外の道も見えないなか、米国のウクライナの軍事支援はどういう考えなのだろうか。
しかし米側の支援は、金額も少なく構造的な軍事支援でもないことから考えると、その意味はむしろ逆説的に、ウクライナ政府に対して、ロシア側の落とし所を飲めという意志であるかもしれない。
あとは、余談的な話題。
ツイッターにファンの多い在日ロシア大使館だが、9日、いまひとつ切れの悪いジョークが上がった。いや、これはジョークじゃないかもしれないなと思わせるものがあった。
アムネスティ・インターナショナルはキエフ政権に対し、国際人道法に反する犯罪を綿密に調査するよう求めた。また、国際人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ウクライナ東部ルガンスクにおける一般市民の死の責任はウクライナ軍にあると発表した。 RIA、ロシアの声
— 在日ロシア連邦大使館 (@RusEmbassyJ) 2014, 9月 9
リンクはないものの、アムネスティ・インターナショナルが明示されているので裏は簡単に取れる。「Ukraine: Mounting evidence of war crimes and Russian involvement」(参照)だろう。
アムネスティの記事を読むと、冒頭、親ロシア派を支援しているロシア側の関与を示す衛星写真があがっているが、それは別にさほどニュース性はなく、「戦争犯罪(war crimes)」に関心をもって読んでいくと、後半に僅かだがウクライナ側の「アイダル大隊(Battalion Aidar)」関連の言及があった。
気になってその関連の情報を読んでいくと、西側報道だが、グローバルサーチ記事(参照)やニューズウィーク記事(参照)があった。特にニューズウィーク記事は表題「Ukrainian Nationalist Volunteers Committing 'ISIS-Style' War Crimes」だけでもわかるように、ウクライナ側の勢力がISIS並みの非道を展開していることを伝えている。
ウクライナ政府側の勢力には、ウクライナ政府のコントロール下になさそうな、過激な極右勢力が混じり、かなり手ひどいことをやっているように思える。
こうした事態については、残念ながら、ウクライナ政府を支持する西側報道からはそれ以上、はっきりしたことはわからない。
また、そもそもウクライナ情勢について日本でもあまり話題になっていないようだし、「戦争犯罪」に関心をもつ日本人も、この件についてはあまり関心がないように見える。
| 固定リンク
「時事」カテゴリの記事
- スコットランド独立住民投票(レファレンダム)、否決(2014.09.19)
- 広島市の土砂災害で心にずっとひっかかっていたこと(2014.09.18)
- なぜ従順に殺害されてしまったのだろうか(2014.09.15)
- スコットランド! フリーダーム! SCOOOOTLAND FREEDOOOM!(2014.09.12)
- 米国務省のサキ報道官批判の話題は、何が問題だったのだろうか(2014.09.06)
コメント