日本独自の数学「和算(わさん)」の問題を絵馬に描き、寺社に奉納した「算額(さんがく)」が注目を集めている。問題の水準の高さや装飾の美しさにひかれ、海外から見学に来る人も増加。「SANGAKU(サンガク)」はいま、世界の数学界の共通語になりつつある。

 岡山市の東に隣接する岡山県瀬戸内市。内陸部の田んぼが広がる中にある片山日子(かたやまひこ)神社に先月20日、シンガポールの伝統校「ラッフルズ・インスティチューション」の子どもたち10人がやってきた。日本でいえば高校1年生にあたる理系の生徒たち。名目は修学旅行だが、観光目的ではない。

 高原家康宮司(88)に出迎えられた10人は手を清めたあと、「二礼・二拍手・一礼」をして社殿へ。おはらいを受け、天井近くの壁にかけられた縁に竜の彫刻が絵馬に施された「算額」を見上げた。

 額面には、円や正三角形などを組み合わせた16の幾何学問題「和算」。「明治の初め、むずかしい問題が解けたことを神様に感謝した地元の人たちが掲げたんです」。研究者の深川英俊さん(71)=皇学館大非常勤講師=の説明を聴きながら、生徒たちは15分ほど食い入るように額面を見つめていた。

 さらに、ガイドを務める深川さんは「身分や性別に関係なく、幅広い人たちが数学の問題に取り組んだのです」と解説。ディバガー・ティルムーティ君(16)は「数学を独自に発展させるなんて、日本の人は賢いですね」と驚いた。