広島市北部を襲った土砂災害からきょうで1カ月たつ。74人が亡くなり、近年では最大級の被害になった。

 避難勧告の遅れをはじめ、広島市の対応のまずさが明らかになってきている。15年前に大規模土砂災害を経験し、1万人近い職員を抱える大都市でさえ、被害拡大を防げなかった。このことを深刻に受けとめたい。

 土砂災害の危険箇所は全国に52万余りある。11年の紀伊半島豪雨、12年の九州北部豪雨、昨年の伊豆大島土石流。ここ数年の土砂災害でも、自治体の対応の問題点が指摘されてきた。

 にもかかわらず、多くの自治体も住民も「しょせんはよそごと」と思ってこなかったか。

 気象庁のデータをみても、広島で今回降ったような1時間で100ミリを超す雨は決して珍しくなくなっている。大きな被害をわがことととらえ、対策を不断に見直すべきである。

 日本のように山がちな国土で、すべての危険箇所にハード対策を講じることは不可能だ。命を守るには結局、「早く逃げる」ことが大事である。

 広島もそうだったように、最近の豪雨災害は夜の発生が目立つ。過去に苦い体験をした地域は教訓を踏まえ、早期避難を促す対策を具体化している。

 和歌山県は昨年、最長51時間先の降雨量予測をもとに、市町村が早めの避難を呼びかけるシステムを始動した。紀伊半島豪雨で、夜間の大雨が多くの犠牲をもたらした反省からだ。

 09年の集中豪雨で20人が犠牲になった兵庫県佐用町は、河川の状況を住民に問い合わせ、町の判断に生かす制度を設けた。こうした取り組みを束ね、全国に広げていきたい。

 もっとも、自治体の避難勧告や指示が早くても、住民が動かなければ元も子もない。

 広島の被災地でも浮かんだ課題だが、住民は「自分は被害を受けない」という思い込みにはまりがちだ。打ち破るには、あらかじめリスクを認識してもらうことがカギとなる。

 国は土砂災害防止法改正の検討を始めた。警戒区域の指定に先立ち、自治体が実施する基礎調査の結果を公表する方向だ。

 その情報を住民がきちんと理解できるよう、工夫をこらす必要がある。これまでのハザードマップは主な公表手段がホームページや各戸配布にとどまり、周知が十分とは言い難い。

 危険な場所では何度も説明会を開く。自主防災組織に避難訓練を働きかける。住民のリスク理解に向けて、自治体は知恵を出し合ってほしい。