大量の電力を遠隔地に送電する新手法が世界各地で広がってきた。「交流」を使うのではなく「直流」で送電するという手法だ。高圧直流送電(HVDC)と呼ばれる技術であり、損失が交流よりも少なくなる(関連記事)。
スイスABBは、2014年8月、スペインAbengoaに世界最長の直流送電線設備を納入したと発表した*1)。ブラジルに設置した送電線の長さは約2400km。この距離を日本に当てはめると、北海道の北端に位置する稚内市から、沖縄県の那覇市までの距離に相当する。東京から伸ばすとモンゴルまで達する。
これほど離れた距離で、315万kW(3.15GW)の電力を送ることが可能だ。これは原子炉3基分の最大出力を送電できる能力にほぼ等しい*2)。
*1) 送電線の両端に合計2カ所の直流交流変換所(315万kW)を置き、ブラジル北西部の交流系統に送電するためのHVDC back to back変換所(80万kW)も納入した。
*2) 世界最大の水力発電所「三峡ダム水力発電所」(中国湖北省)から上海近郊までの送電線にも同社の技術が利用されており、300万kWの電力を1100km送電している(関連記事)。
直流送電線の導入先はブラジルだ(図1)。ブラジルは国内の電力の約8割を水力発電でまかなっているものの、大規模水力発電所と大需要地の距離が離れていることが課題だった。
アマゾン川の支流であるマデイラ川の上流にポルトベリョという町がある(図2)。ここに新設した2基の水力発電所の出力(50万V、交流)を、大西洋岸に近いサンパウロ圏に位置するアララカラまで直流で送電する。送電電圧は60万Vだ*3)。
これほどの電力を送るケーブルはどの程度の寸法なのだろうか。意外に細い。ブラジルに導入したケーブルとは仕様が異なるものの、±32万V、100万kWを送電するケーブルの直径はケーブルの保護層を含めても12cmしかない。
同社の技術は海底送電にも適する。例えばドイツに導入した事例では沖合126kmに位置する北海上の洋上風力発電所(400MW)から電力を地上に送電、地上設置部分も含め、総距離は200km以上だ。
*3) ケーブル内に+60万Vと−60万Vの送電線を内蔵する。
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