スコットランド独立せず 背景は
9月19日 22時20分
イギリスからの独立の賛否を問うスコットランドの住民投票は、18日に投票が行われ、独立反対が賛成を上回り、スコットランドはイギリスにとどまることになりました。
今回の住民投票の結果とその背景について、国際部の堀征巳記者が解説します。
世界が注目した住民投票
スコットランドの住民投票。
世界の関心を集めたきっかけは、今月上旬に行われた世論調査でした。
独立賛成が初めて反対を上回ったのです。
8月上旬には20ポイント以上もあった差を一挙に逆転。
ヨーロッパの大国、イギリスの分裂が世界の人々に現実味をもって受け止められたのです。
その結果、通貨ポンドが急落。さらに株価も値下がりしました。
こうしてスコットランドの住民投票は、世界の経済、安全保障にも影響を与えかねない重要な選択として、注目されることになったのです。
注目の結果
住民投票の投票率は84.6%と、スコットランドの住民の高い関心を示す結果となりました。
そして独立賛成が44.7%に対し、反対は55.3%と、10ポイント以上の差で、反対が上回りました。
賛成派が強いとされていた自治体でも相次いで反対票が伸び、賛成が反対を上回ったのは32の自治体のうちグラスゴーなど4つにとどまりました。
独立反対派勝利の背景
事前の世論調査で両者がきっ抗したまま迎えた住民投票で、勝敗を決めると見られたのは、態度を決めていなかった数%の有権者の動向でした。
その取り込みに成功したのが、独立反対派でした。
賛成派優勢の世論調査に危機感を強めた反対派は、最終盤で独立した場合の不安要素を繰り返し有権者に訴えました。
その結果、態度を決めていなかった人の取り込みだけでなく、独立賛成派の一部の切り崩しにも成功したとみられています。
独立反対派が強調したのは、独立すればスコットランドから企業が移転してしまうなど、経済が打撃を受けること、その結果、賛成派が主張する「福祉の充実」は財源不足で達成できないという主張でした。
さらに、イギリス政府も、通貨ポンドの使用の継続を認めない姿勢を示したことで、賛成を支持していた人の間でも、独立後の生活への不安が広がったと見られているのです。
そもそもスコットランドとは?
イギリス北部に位置するスコットランドは、面積は北海道よりもやや小さく、イギリスの国土全体のおよそ30%を占め、人口はおよそ8%に相当する530万人です。
沖合には、イギリスの輸出の3%を占める北海油田があります。
バグパイプやキルトなど独自の文化を育み、その名を冠したスコッチウイスキーは世界的に有名です。
スコットランドは、およそ300年前の1707年、イギリスに事実上併合されました。
その後は、政治・経済の中心は首都ロンドンに置かれ、スコットランドには地方議会すらない状況が続きました。
しかし、1960年代に、スコットランドの沖合で北海油田の開発が本格化すると、これを独自の財源にして、独立しようという機運が高まりました。
そして、労働党のブレア政権時代の1999年、およそ300年ぶりにスコットランドの議会を復活させます。
その後、景気の低迷などで緊縮財政が続き、地方予算の削減が進む中、住民の不満を背景に、独立を目指すスコットランド民族党は支持を拡大していきました。
そもそもなぜ住民投票に?
こうして2007年にスコットランド議会で第1党に躍進したスコットランド民族党のサモンド党首は、2011年に、単独過半数を獲得した後、イギリスからの独立の賛否を問う住民投票の実施を正式に表明。
そして、2012年にキャメロン首相との間で、住民投票を実施することで合意したのです。
肝を冷やしたキャメロン首相
みずから独立の賛否を問う住民投票の実施を認めたキャメロン首相。
その決断の背景には、反対派が20ポイント以上の差をつけて多数を占める中で、独立派の運動の広がりを侮っていたことがあります。
それだけに最終盤での独立賛成派の盛り上がりに、肝を冷やすことになりました。
キャメロン首相は、投票直前に2回もスコットランド入りし、「もしイギリスを去ることになれば、永遠の別れになる」などと述べ、イギリスにとどまるよう強く求めるとともに、税源の移譲など自治権の拡大を進める譲歩を示しました。
さらに、独立への危機感を背景に、最大野党の労働党などとも結束。
投票直前には、主要3党の党首がそろってスコットランド入りし、一致して反対を呼びかけたのです。
今後の影響は
スコットランドがイギリスに残ったことで、「連合王国」の解体や、国際的地位の低下、そして通貨ポンドの下落などの経済の混乱もなんとか回避されました。
しかし、当初の予想を超えて賛成派が盛り上がりを見せたことは、スコットランドの世論に十分に目を向けてこなかったイギリス政府への不信感の高まりを表すものにもなっています。
今後、キャメロン首相は、日本円にして1兆円余りに上る北海油田の税収の地元への還元など、自治権の拡大を巡る議論を本格化させることを迫られるものとみられます。
また、スコットランドと同じく「連合王国」を構成してきた北アイルランドやウェールズにも影響を与え、分権化を巡る交渉を迫られる可能性もあります。
さらにスペイン北東部のカタルーニャ地方など、独立の運動を進めている、ほかのヨーロッパ諸国への影響も指摘されています。
イギリスにとどまることになったスコットランドの決断が、今後、こうした地域にどのような影響を与えるのか注目されます。