ドレスコーズ・志磨遼平さん
これまでのロックンロールテイストとは一線を画し、「ダンスミュージックの解放」をコンセプトに掲げたEP盤は、□□□(クチロロ)の三浦康嗣さん、アレンジャーの長谷川智樹さん、エンジニアの渡部高士さんらを迎え、彼らの音楽が“ポピュラーであること”を模索するエッジの効いた1枚に仕上がった。
ドレスコーズ - Hippies E.P.(Trailer)
なぜ、この盤が生み出されたのか。そしてボーカル・志磨遼平さんは何を考えてこのアルバムを制作したのか。
それを紐解く中で見えてきたのは、彼の中で渦巻いていた“ポップスへの問題意識”だった。
取材・文 山中貴幸
僕のアイデアの奥に進むのは初めてだった
──ドレスコーズ結成時の2012年、「元・毛皮のマリーズの志磨遼平、新バンドを結成」という形で話題になっていましたよね。志磨 そうですね。ありがたいことに。
──デビューシングル「Trash」は、映画『苦役列車』の主題歌にもなりましたが、毛皮のマリーズとは違う手応えはありましたか?
志磨 自分のイメージしていたものと違う形に作品が着地するっていうのが、生まれてはじめての経験だったんです。
15、6歳の時から音楽を始めて、毛皮のマリーズの前にもバンドを2つくらい組んでいたんです。その頃はまだ自分で曲を書くやつが珍しかったから、みんな面白がって、メンバーは僕の要望通りに楽曲制作、演奏してくれたんですよね。高校を半年くらいでやめちゃったので、それからはずっとバンドばっかやっていました。
毛皮のマリーズ(結成03年、当時21歳)のメンバーも、地元の同い年の仲の良いやつだったので、ずっと同じような形で、曲をつくってどう演奏するかを考えるのは僕。それが29歳まで続いてた。
──それがドレスコーズでは違ったと?
志磨 ドレスコーズが僕の今までの活動で特殊なのは、「僕も言うことを聞く」という感じで、今まで最終到達地点だった僕のアイデアを途中経路として通過して、みんなでブラッシュアップしてさらに奥へ奥へと進んでつくるようになりました。
で、その一発目である「Trash」という楽曲は、やっぱり今思っても特殊なんですけど、本当に素晴らしい着地を決めたんですね。ものの3日くらいでできたんです。メンバーとは出会い頭ですし、本当にアクシデントという感じ。
ドレスコーズ - Trash(medium version)
今はもうああいう着地の決め方をできない。というのは、お互いのことを知らなかったからこそ、ポジティブな感情とネガティブな感情が入り混じっていて。「うまくいくかな? 出会って3日でレコーディングしてるけど、ホントにこの人でいいのかな?」とか、そういうのが全部ないまぜになってあの曲が録音されています。
──本当に探り探りだったんですね。
志磨 もうね、とにかく余裕がなかったんですよね。会ってすぐなので、探るよりも先に演奏するというか、そのまま1stアルバム『the dresscodes』の制作になだれ込みまして。口数の多いメンバーでもないから、曲をつくりながらお互いのことを知っていくような形で。
だから1stは、1つのバンドができあがっていくドキュメントのようなものと思っています。4人のまだバラバラの男が、だんだん1つの共同体のようなものになっていく。その過程が、そのまま一曲一曲に記録されている。レコード(record)の語源そのものですよね。
まだまだ知らないことが沢山ある
──そこから少し期間を空けて、2ndシングルの「トートロジー」。このPVがYouTubeで公開されるや否や、たちまち50万再生を突破して話題になりました。Zipperの読者モデルをフィーチャーしつつ、燃え上がる「ROCK N ROLL」の文字をバックに演奏するインパクト抜群の映像。さらにタイアップとしてアニメ『トリコ』EDにもなって。ドレスコーズ - トートロジー(Short ver.)
志磨 そうそう。YouTubeの再生前CMか何かになってたらしくて、友達から「YouTubeを見る度にお前が出てきて困っている」と言われてえらい怒られました(笑)。「その気持ちはよくわかる、他の人のものに関しては僕もそう思っている」と言っておきました。でもおかげさまで、色んな人に知っていただいて、あれで初めて聴いたという人も多いみたいです。
──その時には探り探り感は解消されていましたか?
志磨 それはいまだに探りきれていないかもしれないです。4人とも色んな文化を吸収してきていて、それぞれに音楽の経歴があるので。
例えば、中学生とか高校生のときに恋人ができたら、自分の生い立ちを一通り話したりしませんでした?
──わかります(笑)。何でも語ってしまいたかった時期ですね。
志磨 「ここでこんなことがあったけど」とか、「このCDがすっげえ良いんだ!」とか、その頃って全部語り尽くせるだけの情報量だった。でもハタチを過ぎたあたりから、あまり自分の話をしなくなっていくのは、話しているとキリがないからですよ。それに似たような感じというか。
毛皮のマリーズのメンバーは、音楽を始める前からクラスメイトだったり普通に友達だったので、だいたいのことはわかっているんですけど、僕ら(ドレスコーズ)はまだまだ知らないことがお互いにたくさんあります。
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