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ぼっち転生記 作者:ファースト

撃墜王(エース) 後編 ――殲滅――

   ◆

 俺は三十数体のワイバーン達に向け、飛翔した。
 風の翼による高速飛行だ。
 人間(餌)が向こうから飛んできたことに、ワイバーン達が興奮しつつ、俺に殺到してきた。

 だが――

 高速飛行のまま俺は、一度、ワイバーンの群れを突っ切った。
 自らを矢としたような突貫(突撃)だ。
 振り返った時、二体のワイバーンが地に墜ちていくのが見えた。
 群れを抜ける前に、左右の精霊剣で一体ずつ斬りつけ、致命のダメージを与えていたからだ。

 ――俺は何度もワイバーンの群れを突撃・突貫し、突き抜けた。

 そのたびに、二体、三体とワイバーンが墜ちていく。
 俺の精霊剣によって致命の傷を受け。

 極上戦士にして剣と格闘の達人である獣半人ウォルフ。
 側近的奴隷だが師でもあるウォルフに、俺はほぼ毎日、剣を習っている。
 ウォルフにはまだまだ及ばないが、剣の腕もそれなりになっているのだ。

 またも群に突貫した俺に向け、敏捷度の高そうなワイバーンが狙いすましたテイルスイングを仕掛けてきた。

 猛毒の棘が無数に生えた強靭な尻尾によるフルスイングだ。
 直撃したら、一撃で『もっていかれる』こともありえた。

「当たらねェよっ!」

 風の翼を纏う今の俺は、空中戦おいて機動力・回避力ともに、ワイバーン達を遥かに上回っていた。
 渾身の一撃ティルスイングが躱された――そう、そのワイバーンが認識する前に、俺は、飛蜥蜴ワイバーンの後方に回りこんでいた。

 ズブッ!!!

 光精霊刃ライトブレードによる必殺の突きで、ワイバーンの心臓を背後から貫く。

 その俺に左右、それに背後、さらには、上(上空)からワイバーンが襲ってきた。

 ――左右後ろのワイバーン三体は鋭い牙の生えた巨大な咢を大きく開けながら。
 ――上(上空)から強襲してきたワイバーンは、器用にも前方回転しながら。

 三体同時の噛み付き攻撃ファングアタックと、上空からの振り下しによるテイルスイングだ。

 特にテイルスイングのほうは、回転によりその威力をさらに大きくあげているであろう。
 大岩をやすやすと砕けそうだ。
 いや、それこそガレオン船の船体にも、致命的な大損傷ダメージを与えられそうな程の一撃だ。

 だが――

「 “下” が空いているぜっ」

 狙いは良かったのだが、逃げ道が残っていては仕方がない。
 俺は風の翼で、高速急降下した。
 垂直に。

 むっ!?

 敏捷性の高そうなワイバーンが、さっと飛び出してきた。
 俺より低空(下)の位置で。
 そして咢を大きく開ける。

 なるほど、逃げ道を残したのは罠だったか。
 蜥蜴の癖に、小賢しい真似を。
 野生としての本能的な動きなのかもしれないが。

 このまま進めば、ワイバーンのアギトに、自ら飛びこむことになるであろう。 
 まさに飛んで火にいるなんとやら、である。

 だが――

 俺は寸前で “急停止” した。
 空中で急停止したのだ。
 緊急・空中停止ホバリングである。

 ガチンッ!!!!

 獲物を逃したワイバーンの咢が空しく閉じられた。

 宙に浮かんでいる状態で俺は――グルッと回転した。

 前方宙返りの要領だ。

 ゴキィィィィィっ!!!

 今しがた口を閉じたワイバーンの眉間に、俺のカカトが直撃した。

 極上戦士ウォルフは、剣だけでなく格闘においても達人だ。
 そして俺は、師であるウォルフから、格闘術も学んでいる。
 今の《飛翔龍槌蹴》も、ウォルフから習った蹴り技だ。

 直撃インパクト時、カカトを光の精霊で強化しているのは、精霊使いである俺のオリジナルだが。

 脳震盪でも落としたのが、ワイバーンがグラついた。
 むろん、その隙を見逃す俺ではない。
 躊躇なく、光の精霊剣で斬り殺す。
 腹を十字に斬り裂き――墜とした。

「……あと、二十……七体か」

 先は長そうだな。



 精霊剣を持つ俺は空中での白兵戦で、次々とワイバーン達を墜としていく。

 俺の方も無事では済まないが。
 風の翼による高機動力・回避力で致命傷こそ避けている。
 しかし、細かい傷はかなり入っていた。
 一度、テイルスイングを躱し損ね、右足を痛撃されてしまった。
 興奮状態でアドレナリンが出まくっているからか、痛みはそれほどでもない。
 だが、大腿骨にヒビぐらいはいっているかもしれないな。
 これが地上戦なら、まともに動けなくなっていただろう。
 しかし、空中戦なら、足の負傷はさほど影響しない。

 空中戦に限れば――

「足なんて飾りです、なのっ」
「あ、ああ、うん」

 ガンダ○の話をしてやったことのあるシィルが、俺より先に言ってしまった。

   ◆

 空中で二刀の光精霊刃ライトブレードを振り続けた。

 俺が手強いとみて、何匹かのワイバーンが向かってこなくなった。
 俺の周りから逃げ出しはじめた。
 そして、俺を無視し、避けるように飛んでいく。
 女魔人奴隷達が乗っており、大草原に向け飛行中である魔法の絨毯に向かって。

「させるかよっ! 《風王の息吹》っ!!!」

 俺から逃げ、弱い餌(女魔人奴隷)を狙おうとしていたワイバーン達。
 そのワイバーン達を高圧の強風で吹き飛ばした。
 俺に向けて。

 俺を避け、俺から逃げて、他の餌を狙おうとしたワイバーン達の試みは――失敗した。

 今さら俺から逃げようしても、無駄なのだ。
 無駄無駄無駄無駄なのだ

「アッシュ君からは逃げられないのっ!」

 シィルが得意気に言った。
 俺は別に大魔王バーン様ではないが、確かに、本気になった俺からはそうそう逃げられはしないのである。

 ワイバーン達が俺の方向に向け吹き飛んでくる。
 同時に、俺も、ワイバーン達に向かっていった。
 高圧の向かい風の中。
 だが、非常な強風をものともせず、俺は自在に飛ぶ。
 風は、俺の味方なのだ。
 風精霊たちが俺の味方なのだから。
 向かい風の中を自由自在に飛び回りながら、ワイバーンをさらに斬り墜としていった。

   ◆

「……あと、九体」

 肩で息をしながら、俺は呟いた。

 もう少しだ。

 長銃と剣で百体以上のワイバーンを墜としてきたが、もうすぐ終わる。

 ただ――残りの九体が、厄介な難敵でもあるのだが。

 黒い鱗を持ったワイバーン達を俺は睨みつけた。

 ブラックワイバーンを。

 ワイバーン達は尻尾に猛毒を持つ。
 だが、それだけではなく体内にも毒を持っている種類がいる。
 血に毒を持っているモノも。
 そういった種類の中でも、特にブラックワイバーンは厄介だ。
 黒いワイバーンの血は、非常な猛毒、なのだ。
 返り血を浴びれば、それだけで、強烈な毒に犯されてしまう。
 だから、精霊剣での白兵戦において、ブラックワイバーン達は最後まで残しておいた。

「(アイツラを『剣』で仕留めるのはやめておいた方がいいな)」

 至近距離で剣を振るえば、どうしても返り血を浴びなくてはいけない。
 実際、俺の身体は他のワイバーンの返り血で染まってもいた。

 刃渡りにして一メートル程だった光精霊剣を更に “伸ばす”
 二メートルほどの短槍のように伸ばしたのだ。
 そして俺は右手で握っていた精霊剣(槍)の持ち方を変えた。
 投槍ピルムを持つようにしたのだ。

 そして――10数メートル先にいた、黒ワイバーンに投擲した。

命中ヒットなのっ!」

 シィルが叫んだ通り、光の精霊槍は、黒ワイバーンに命中した。
 黒き飛蜥蜴の眉間を貫いたのだ。

 俺はさらに、左手で掴んでいた光精霊槍ライトピルムを右手に持ち代えて――全力で投げつけた。
 口を大きく開けて迫っていた黒ワイバーンの、その咢の中に吸い込まれていく光の精霊槍。

「会心の一撃なのっ!」

 狙っていた黒ワイバーンの喉をぶち抜いた光精霊槍ライトピルムが、さらに別の黒ワイバーンの腹に深々と刺さった。
 後方にいた黒ワイバーンごと、二体とも串刺しだ。
 シィルの叫んだ通り、会心の一撃だった。

 だがこれで、俺は無手になった。

 好機とばかりに迫りくる残り六匹の黒ワイバーン。

 俺は慌てず、高速で後ろに下がった。
 黒ワイバーンの正面を向いたまま。
 後ろ歩きならぬ、後ろ飛行(後方飛行)だ。
 空中飛行における高速バック(後方飛行)は、練習を積み、得意技になっていた。

 世界で一番小さい鳥ハミングバード(ハチドリ)は、後方飛行できるらしいので、それをヒントに練習しておいたのだ。
 ワイバーン達が死に物狂いで俺に追いつこうとするが――残念ながら俺の後方飛行の方が、速度では上回っていた。

 後方に飛行しつつ、魔法の革袋に手を入れる。

「テテテテッテテーン♪」

 以前、俺が教えてやった某青い猫型ロボットが秘密道具をとり出す時の効果音をシィルが口にした。
 いや、俺がとりだしたのは、ただの長銃(マスケット銃)だけど。
 それも、弾すら入っていないマスケット銃だ。
 高速で後方飛行をしつつも、俺はそのマスケット銃を銃口を “太陽に向けた”
 光系精霊の一種であり、光と太陽の精霊・サン達に協力してもらう為に。

 十数秒後。

  “充電” が完了した俺は後方飛行を続けながら、俺は銃口を今度は黒ワイバーンに向けた。

 引き金を引くとそれを合図に、銃口から一筋の閃光が放たれる。
 光系精霊魔法《太陽閃光銃サンライフル》によって。
 数体の太陽精霊達が、閃光(光線)となって、黒ワイバーンに襲いかかった。

 シュバッ!!!!

 黒ワイバーンの頭部上半分が蒸発する。
 むろん、即死だ。
 生物が頭部の上半分を失っては、生きていられる訳がない。

 《太陽閃光銃サンライフル》は、今の俺の力量では、有効射的距離100メートル以下。
 連射も出来ない。
 それに、一発撃つごとに結構、精霊力を消費してしまう。

 しかし――その威力は《疾風精霊弾ゲイルバレット》をも上回っていた。

 なにせ、あまりの高熱に、閃光が触れた物体を即座に蒸発・消滅させてしまう程なのだ。

「サン、次も頼むっ」

 俺は太陽精霊サン達に次弾の協力を要請した。

「ヒャハハハハ、オッケー♪」

 光精霊ライトズより、さらに明るく、テンションの高い声で太陽精霊サン達が了承してくれた。

 銃口を十秒以上太陽に向け “充電” した後――

「ヒャーハーっ!!!」
「汚物は」
「消滅だぁっ!」
「ゲラゲラゲラゲラ♪」

 テンションが異様に高い太陽精霊サン達による《太陽閃光銃サンライフル》を放った。

 黒ワイバーンの心臓部を貫く。
 さらに、後方にいた別の黒ワイバーンの腹部にも致命的な大穴を開けた。

「ヒャハハハハハハハハ♪」
「ヒハハハハハハハハハ♪」

 さらにテンションがあがる太陽精霊サン達。
 本当に明るい奴らだ。
 まぁ、この明るさはちょっと普通ではないが。

 そうまるで――

「ラリっている人みたいなの」

 ……シィル、もう少し言葉をオブラートで包んでやれよ……。

 なんにせよ――

 高速後方飛行 & 《太陽閃光銃サンライフル》により、残りの黒ワイバーン達も、近接射撃で全て撃ち墜とすことが出来た。

 俺は、百体を超すワイバーン達の撃墜に成功していた。

 襲撃してきた全ワイバーン・殲滅を成し遂げたのであった。

   ◆

「……流石に疲れたな」

 革袋から魔法の水筒を取り出しながら、俺は呟いた。

 とりあえず、この返り血と汗を清らかな水で流そう。
 魔法の水筒にいた水精霊ウンディーネにお願いして。

 水系精霊魔法《清らかな浄水》を俺は発動させた。
 血や汗、汚れなどのみを洗い流す便利魔法だ。

 複数の水精霊ウンディーネたちが、その身体で俺を丁寧かつ優しく洗ってくれた。
 美しい全裸の少女に見える全身を使って。

「ピピーっ!
 そこ!
 どさぐさに紛れてアッシュ君のほっぺや身体にキスしちゃメーなのっ!!!
 禁止なのっ!
 レッドカードっ!!!」

 風精霊シィルが水精霊の一人に退場を命じた。

 ……洗ってくれているんだし別に俺は気にしないのになぁ。
 相手は精霊なんだし。

   ◆

 すっかり汚れを落とした俺は、かなり先行していたアルたちに追いつくため、高速飛翔した。

 数分で、追いつく。

「アッシュ君、アッシュ君」
「なんだよシィル」
「女魔人の奴隷さん達が、アッシュ君に熱い視線を送っているのっ!
 ヒューヒュー♪」

 …………。

 たしかに、美形揃いの女魔人奴隷たちからの視線を、感じまくってはいるけど。

「ほとんどの人が、濡れた瞳でアッシュ君を見つめているのっ!
 頬を赤くしてポーとしている人もかなりいるの。
 アッシュ君を見て、心臓がドキドキしているのか左胸を押さえている人もいるよっ!
 アッシュ君、モッテモテだね♪」

 いや、ピンチ――それこそ生命の危機をまた救ったわけなのだ。
 それで、俺のことが多少は格好良く見えただけだと思うけどな。

 ほら、吊り橋効果もあるだろうし。

 今回、吊り橋ではなく空飛ぶ絨毯ではあったけど。



挿絵(By みてみん)
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