原発賠償:非公表基準認める論文 解決センター委員

毎日新聞 2014年09月18日 07時15分(最終更新 09月18日 10時10分)

 東京電力福島第1原発事故の賠償問題を裁判外で解決する手続き(原発ADR)を担当する「原子力損害賠償紛争解決センター」で業務を統括する最上位の機関「総括委員会」の3委員のうち一人が、非公表の基準の作成を認める論文を書いていたことが分かった。センターは被災者の弁護士らに「非公表の基準はない」と説明しているが、論文は矛盾する内容になっている。毎日新聞が7月に、避難後に死亡した人の慰謝料を「一律5割」と算定する非公表の基準の存在を報じた後も、態度を変えておらず、不透明さは増すばかりだ。【高島博之】

原発ADRの非公表の基準を巡る構図
原発ADRの非公表の基準を巡る構図

 論文を書いたのは総括委員の鈴木五十三(いそみ)弁護士。日本弁護士連合会の機関誌「自由と正義」の2012年7月号に「原子力損害賠償の迅速・適正な実現を目指して」と題した5ページの論文を寄稿した。

 原発事故に伴う賠償を巡っては、センターの上部組織である原子力損害賠償紛争審査会が「中間指針」、総括委員会が「総括基準」を作成、公表しており、センターは一貫してこれ以外に基準はないと説明してきた。

 ところが、鈴木委員は論文で「類似案件を担当する複数の仲介委員(原文はパネル)の協議などにより開発された基準なども、調査官(弁護士)を通じて各仲介委員に伝えることにより統一的解決を志向することになる」と記し、「第3の基準」とも言うべきものが存在することを明らかにしている。さらに「損害態様の多くは過去に前例がなく、これらの基準(中間指針と総括基準)では網羅できない」と、第3の基準が必要とされる理由も付記されている。

 これまでの毎日新聞の報道で、死亡慰謝料の算定に際し、事故の影響の度合いを「一律5割とし、4割か6割かといった細かい認定は行わない」などと非公開の基準を記した内部文書が存在することが既に判明。10割と認めてもいい場合にも適用され、賠償額が低く抑え込まれている疑いがあることが分かっている。関係者によると「一律5割」と記載された文書以外にも多数の内部文書が存在するが、公表されていない。

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