難民船沈没の生存者が語る、絶望の先の地獄
2014年09月18日 18:02 発信地:ハニア/ギリシャ
このニュースをシェア
関連写真
【9月18日 AFP】マルタ沖の地中海で10日に難民約500人を乗せて沈没した船の生存者たちがAFPの取材に答え、多数の人が海中へ消えていく様を目撃した凄惨な体験について語った。
沈没から3日目、自分の尿を飲みながら漂流していたモハメド・ラードさん(23)は精根尽き果てそうになった。「3日目になると皆、頭がおかしくなり出した──私は、部屋を予約するためにホテルに入り、ライフジャケットを脱ぐ夢を見た。そのとき、自分が沈みかけているのに気が付いて、ライフジャケットをしっかり着なおした」
ラードさんはパレスチナ自治区ガザ(Gaza)地区で理容業を営んでいたが、10日にエジプトで乗り込んだ欧州へ向かう難民船は、人身売買業者の船に衝突されて沈んだ。国際機関は「大量殺人だ」と非難している。
難民船が衝突されたとき、ラードさんはデッキの下にいて何が起きたか見ていなかった。しかしすぐに悲鳴が聞こえた。「すぐに船は沈み始めた」。船の丸窓から這い出てよじ登り、ライフジャケットを見つけた。
■死ぬときには子どもをそっと海の中へ放した
沈没した時点では80~90人が生き残り、皆集まって船の残がいにしがみ付いていた。「女性や子どもたちは喉がからからだった。男たちが瓶に尿を集め、それを皆で飲んだ」
しかし、飢えと渇き、凍るような海の中で絶望的な時間が過ぎていく中、親たちは悲惨にも子どもの命を放棄するしかなかった。「毎日、海の中へ人が消えていった。子どもを一緒に連れて行く親もいた。彼らは死ぬときに子どもをそっと海の中へ放した」
エジプトに住んでいたシリア人女性、ドーア・ザメルさん(19)は、絶望した親たちから2人の子どもを託された。「その子たちを救わなければと思った。だから自分も生き残れた」。しかしガザ地区出身の1歳の子どもは、救助隊が到着する直前に亡くなった。ザメルさんはシリア難民の2歳の子どもだけでも、どうにか救おうと必死だった。子どもは救出後5日間、集中治療室で生死の境を漂ったが、17日になって改善しつつある。
国際移住機関(International Organisation for Migration、IOM)によると、イタリアへ渡ろうとしていたこの難民たちの中には最大100人の子どもたちが含まれていたとみられている。
生きて救助された難民はわずか10人。2人はイタリアへ、2人はマルタへ、残る6人はギリシャ・クレタ(Crete)島の病院へ搬送された。クレタの6人はラードさんとザメルさん、彼女が救ったシリア人の乳児、パレスチナ人男性2人、エジプト人男性1人だった。
生存者たちは、人身売買業者たちに小さな船への乗り換えを命じられた難民たちが拒否したところ、業者が自分たちの船をぶつけてきたとIOMに語っている。難民船が沈む様子を見て、業者たちは「笑っていた」と述べている生存者もいる。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、地中海経由で欧州に渡ろうとして死亡あるいは行方不明になった人は、今年これまでに2500人を超えている。
ラードさんはガザ地区での苦難の人生が、密航業者に2100ドル(約23万円)を払っての危険な地中海横断を決心させたと語った。「生まれてこの方、いい日なんてない。いつだって暴力による支配と戦争で、職はない。いつ殺されるか分からない」
ザメルさんはイタリアへ着いたら結婚するつもりだった。業者を見つけて密航の手はずを整えた婚約者はこの沈没で亡くなった。(c)AFP/Will VASSILOPOULOS