【Market Hackのドタ勘】
値決め価格:68ドル
上場初値:70から72ドル
上場初日高値:78ドル
上場初日引値:75ドル


いよいよアリババ(ティッカーシンボル:BABA)が現地今夜(18日)引け後に値決めされます。そこでアリババに投資しようと考えている人、ならびに既にソフトバンクや米国のヤフー(YHOO)の株を保有している投資家が知っておくべきアロケーションのプロセスと取引開始の段取りについて説明します。

アロケーションとは「株の個々の投資家への配分」という意味です。

先ずアリババの今回発行株数ですが今回売出し株数は3.201億株です。初値レンジは66から68ドルに切り上げられています。僕のドタ勘では68ドルが値決め価格になると思います。さらにグリーンシュー4,800万株もアロケーションの中に含まれると思います。

グリーンシューとは正式な名称をオーバー・アロットメント・オプションと言い、上場後のIPOした株の買い支えのために、予め余計に(=通常、売出株数の15%)投資家に株を渡す行為を指します。最初にこの手法が適用されたのがグリーンシュー・カンパニーのIPOだったので、この愛称が引受業者の間で定着したというわけです。

つまり日本時間の明日朝(=現地の18日夜)には合計して3.681億株が投資家に配分されるわけです。

プライシング・ミーティングはNY時間の午後6時前後に終わると思います。そして最終的な発行条件が米国証券取引委員会(SEC)に通知されます。SECが「これで良い」と認めれば「有効(effective)」が宣言されます。

これと同時にサークル(circle=投資家からの需要をマルで囲う事)と言って「あなたに○○株渡しますけれど、いいですよね?」という念を押す電話が主要機関投資家に入ります。

通常、アロケーションの通知は取引開始日の朝、つまり今回で言えば現地19日早朝になります。ただ今回のディールは規模が大きいので前日夜のうちからアロケーションの通知が始まるかもしれません。

なお米国外の投資家に関してはアロケーションの通知は現地18日夜の「有効」宣言直後から行われます。つまり東京時間の19日朝にはアジアの投資家へのアロケーションの状況がわかりはじめるわけです

さて、ここからが大事な点ですが、アリババのIPOに申込をした機関投資家の多くはソフトバンク株や米国のヤフー株(YHOO)を保有しています。すると自分がアリババ株を何株貰えたかによって(あれっ、案外、ホットじゃなかったんだな)とか(げげっ、ゼロむけだった。これはムチャクチャ人気があったんだなぁ)という風にオーダーブックの状況をアリババのアロケーションから逆に推察出来る立場にあるということです。そしてそれに応じてソフトバンク株やヤフー株をトレードすると思うのです。

自分が思ったより沢山株数が来た場合、そういう噂が東京時間の19日朝に駆け回り、ソフトバンク株やヤフー株(プリマーケット気配)は売られると思います。

逆にディールがタイトだったと判断された場合、ソフトバンク株やヤフー株にはアリババの華々しいデビューに先回りする買い物が入り、値が飛ぶでしょう。

つまりソフトバンク株とヤフー株は絶好の「先行指標」になるというわけです。

今回のアロケーションではシンガポールのテマセック、中国のCICなどのソブリン・ウエルス・ファンドに厚いアロケーションがなされると言われています。また将来に渡ってアリババの主要株主になると思われる米国の大手投信会社へも大きなアロケーションが行くでしょう。

これらの「クジラ」とよばれる大口投資家は、インスティチューショナル・ポット(=機関投資家の闇鍋)と呼ばれる株のプールからアロケーションがなされます。

一方、小口投資家のアロケーションはリテンション(留保)と呼ばれる、各証券が自由に使える「調整玉」のプールからアロケーションがなされます。フェイスブック(FB)のIPOではこのリテンションの比率が比較的大きく(=全体の25%程度)、それが上場直後に小口の怒涛の売りにつながった苦い経験から、アリババのIPOではリテンションをなるべく少なくする方針のようです。

現地19日の朝は、機関投資家へのアロケーションの一斉連絡で投資銀行のトレーディング・ルームのターレットと呼ばれる直通電話のランプは全部赤く点灯した状態になると思います。

そしてアフターマーケット(上場後)での追加注文でトレーディング・ルームはハチの巣をつついたような状況になるわけです。

ニューヨーク証券取引所が開くのは9時半ですが、アリババの取引開始に際しては売り注文と買い注文を寄せ集め、需給を把握した上で上場初値を決めなければいけないので、取引開始は早くても10時半か11時頃でしょう。

なお「プレリミナリー(仮気配)」と言って、スペシャリストが開けたいと考えている気配値をあらかじめ市場参加者に示し、「これでいいですね」というシグナルを送るのが普通です。

スペシャリストとは日本語にすれば昔の才取会員に相当し、ニューヨーク証券取引所の立会所で売り物と買い物を突き合わせる担当の人を指します。アリババのスペシャリストはバークレイズの傘下の才取会員が務めます。アリババのトレーディング・ポストは、僕のドタ勘ではポスト8になると思います。下の図で赤字の「9」がポスト9です。ポスト9はCNBCのアナウンサーのデスクになっています。

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(出典:After the Trade is Made、デビッド・ワイス)

そのTVセットのすぐ後ろがポスト8であり、最もテレビ映りが良い位置です。その遠方頭上にはポディウムと呼ばれる、ベランダがあり(図中緑の破線で囲ったところ)、ここでIPOした会社の経営陣が取引開始の鐘を鳴らすわけです。

いつも書くことですが、投資銀行によって「寄りピン型」の開け方をするところと「引けピン型」の開け方をするところがあります。「寄りピン型」は十分な売り物が出そろうまで、ぐいぐい寄り付き前の気配を引き上げ、いきなり高値で開けるやり方です。モルガンスタンレーやゴールドマン・サックスは、こういう開け方をします。なお今回のアリババのIPO主幹事はクレディスイスで、彼らがどういう誘導の仕方をするかは僕には予想がつきません。

それからスタビライゼーション・エージェントと言って、アフターマーケットでの株価安定に関与してゆく仕事はゴールドマンが担当するそうです。

「寄りピン型」のメリットは、いきなり華々しいデビューとなるので、メディアの注目を浴びやすいし、慌てて飛び乗る投資家を誘い出す効果がある点です。

ただこのやり方は証券会社にかなり腕力がないと出来ません。

具体的にはプレリミナリーの気配を上げてゆく過程で、アフターマーケットでの買い手が「こんなに気配が上がってしまったんじゃ、もう買えない!」といって買い注文をキャンセルすることが多い点が挙げられます。だから買い注文と売り注文を絶え間なく再集計する必要があります。

フェイスブックのIPOの際は大事な寄り付き直前にナスダックのシステムがダウンしてしまい、気配の周知徹底が出来なくなりました。「いまどの辺か?」という体温を機関投資家が測れなくなると、彼らは怖気づいて買い注文をキャンセルします。その怒涛のキャンセル注文で、どの注文が未だ生きていて、どの注文がマルにされたかがわからなくなってしまったのです。

アリババのIPOでは、必要であればNYSEのスペシャリストが自分の独断と偏見で小口注文を一切無視し、「この大口の買い手とこの大口の売り手が折り合った地点を上場初値とする!」と宣言する特権を与えられています。それが「秩序あるマーケットの形成(orderly market)」という責務です。

フェイスブックのIPOでは「溜め過ぎ」が原因で惨事を招いたので、アリババの取引ではなるべく早く開けると思います。また「寄りピン」になる可能性も低いです。たぶん70から72ドルで開ければ、気配切り上げによるオーダーの再集計の必要もないので、ベストだと思います。

機関投資家の多くはアリババのファンダメンタルズから考えて90ドルくらいまでなら払ってもよいと考えています。

だから72ドルくらいで開けば、下値にはびっしりとBidが詰まっているカタチになると思います。

もちろん、IPOは「水モノ」ですから、どこで突発的な事故があるかわかりません。若し値決め価格を割り込むようなことがあれば、阿鼻叫喚になると思うので、その場合はバーゲンハンティング厳禁です。

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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