Sランク冒険者 その3
拳銃を片手に順平は臨戦態勢に入った。
樹木から顔を少しだけ出して、連中の様子を伺う。
すると――彼等は入口付近の安全地帯の中で、野営の準備を始めてしまった。
焚き木に火を起こし、テントを張り、湯を沸かす。
しばらくすると、脂肪の弾けるパチパチとした効果音と共に、干し肉を炙る香ばしい臭いが一面に漂った。
――奴等……良い物食ってやがるな。
順平の所まで漂ってくる香りには、仄かな香辛料の香りが混じっていた。
中世ヨーロッパよろしく、香辛料はこの世界では貴重なはずだ。
コショウやトウガラシに似た香辛料は、同じ質量の黄金と同等で取引されていると順平はかつて聞いたことがある。
この世界にきてから、かなりの時間が経過している。
日本であれば、テーブルに一味唐辛子やコショウが置かれているのは当たり前の光景で、刺激物にまみれた料理が溢れていた。
思えば――香辛料の臭いを嗅いだ事なんて何時ぶりだろう。
唾液が溢れ、胃が収縮を開始した。
――まあ、どの道……奴らの荷物は全部引き上げる。そう、何一つ残さずに俺が剥ぎ取るんだ……これで、楽しみが一つ増えたな。
いつのまにか口元から零れていた涎――比喩では無く、本当にそうだったのだから、順平も驚いたのだが――を袖でぬぐいつつ、順平は現況の整理を始める。
――彼我の戦力差。
一般的に、Sランク級冒険者のレベルの平均は200前後。
その中でも更に規格外とされる者として、概ね300前後。
そして、現在の自分のレベルは818。
単純計算で3倍以上となるわけで、レベルだけを見れば圧勝だろう。
だが、この場合、一つ問題がある。
――レベルアップボーナスポイントの、職業間格差。
通常職であれば、ポイントは10。
上級職でポイントは15――Sランク級冒険者は全員がここに該当すると考えても良いだろう。
そして、自分は職業適性が無く、1レベルアップごとに5のポイントしか得られない。
それはつまり、上級職の彼等と単純比較すると、順平のレベルは3分の1となる事を意味する。
つまるところはレベル276。
しかも、順平の場合は、歪なステータス構成となっており、普通に戦う分にはかなりやりづらいのは明白だ。
そしてなにより、普通の戦闘経験が絶望的に不足している。
確かに、ドロップアイテムを考えると、武器はこちらの方が充実しているだろう。
その事を考えると、あるいは個人的戦力においては彼らを圧倒する事はできるかもしれない。
けれど、それは――1対1と言う前提の場合のお話だ。
対複数戦において、レベルの優位と武器の優位だけでは、真正面から事にあたるには――あまりにも手持ちの戦力は心もとない。
そこで、順平は拳銃をホルスターにしまい、大きく深呼吸を行い口元を引き攣らせて、普段使わない筋肉を使用した。
それはつまり数か月ぶりの――スマイルを作り上げた。
「あ、どうもどうも」
人懐っこい笑顔を浮かべながら、順平は4人のSランク冒険者達の方に歩を進める。
確認したところ、現在、この空間の光源は焚き木だけのようだ。
そこで作り笑いから、一瞬だけ本当の笑顔になったのだが、その事には冒険者たちは気づかない。
そうして、順平に向けて、警戒と怪訝の色を見せる。
「それ以上近寄るな」
彼我の距離差は概ね10メートル程度。
黒づくめの男――魔剣士が手で順平を制した。
「お前は何者だ?」
「あ、俺っすか? 俺は運悪くこの迷宮に叩き落とされてしまって……どうにかこうにかここに辿り着くことが出来たんですけど……それで、一人旅じゃあ心もとないので……」
「俺らに同行したいと?」
「そういう事。お兄さん達……強そうだしね」
「その場で少し待て」
そう言うと同時に、男たちは小声で話を始めた。
「どうする?」
「とりあえず……奴が何者であるかの鑑定じゃな」
そう言うと、白髪の賢者の左目が光り輝いた。
――測定の魔眼 (達人級)
対人用のスキルで、相手のレベルを測定すると言う物だ。
そして、順平を見た瞬間、呆気にとられた表情で老人は口を開いた。
「あの少年……レベル800前後……じゃと?」
「はは、爺さん、笑えねえジョークだ。今は冗談を言っている場合じゃねえよな? で……冗談はさておき、奴の力量はどんなもんなんだ?」
老人の顔色は青色を通り越して、それどころか土気色に染まっていた。
「おい……マジ……なのか?」
「ワシは冗談は嫌いじゃ」
状況を把握したのか、全員がその場で凍り付いたかのように固まった。
「レベル800だと……そんな人間、見た事も聞いたこともないぞ? どうなってやがるんだ?」
そこで、聖騎士が割り込んできた。
「ひょっとすると、あの少年がこれまでの階層の魔物を屠って来たのかもしれませんね。それにしても……いきなり、不測の事態です……狭間の迷宮はひょっとすれば私たちの手に余る……」
ともかく、と魔剣士は掌をパンと叩いた。
「あの少年を仲間に引き込もう。今後の道中で、役に立つかどうかを見極める。奴がいなければこの迷宮を攻略不可能と判断すれば、そのまま奴を用心棒として利用する」
「逆に、我々だけで迷宮の踏破が可能だと判断されれば?」
「決まってんだろ、あの少年を殺せば俺たちは大幅なレベルアップが見込める。一旦仲間に引き込めば、相当なレベル差があっても、殺す方法はどうにでもなるだろう」
「寝こみを襲ったり、毒を食事に仕掛けたり……ですか」
「そういう事だ。で、そんなこんなで……奴の提案を受け入れよう。で……お前が一番、この中では人当たりが良い。とりあえず、お前が話をしてこい」
言葉を受けた聖騎士はコクリと頷いた。
重武装のプレートアーマー、カチャカチャと音を立てながら、聖騎士は順平に向けて歩き始めた。
そして、右手を順平に向けて差し出す。
「あ、提案を受け入れてくれるって事でいいんっすかね?」
「こちらも人手が足りなくてね、今後ともよろしく」
含み笑いと共に、順平はニヤリと笑った。
「ああ、後な……知ってるぜ――」
「知っている? 何をなんだい?」
「お前らが、何を考えているかって事位はなっ!」
順平も右手を差出し、そして――
――掌に仕込んでいたカミソリで、自らの親指に1センチほどの切り傷をつけた。
瞬時に溢れる血液。
神速――と表現すれば良いのだろうか。
順平の、レベルアップボーナスポイント――その大部分を注ぎ込んだ回避力、それはつまり、完全に人外の領域に達している。
つまり、今正に、順平は、縮地としか表現できない程の――異常な敏捷性を魅せたと言う事。
聖騎士は順平の右手の動きにまともに反応できず、右手から飛び散った血液を、両目に受けた。
とたんに、聖騎士は両目を抑えて、その場にうずくまる。
そこで、深く溜息をついた順平は、作り笑顔を更に歪ませ、凄惨の笑顔を形成させた。
「……う……目が……目が……体が……痺れ……て」
順平は拳を鳴らした。
――確かに、まともにやっちゃあ、テメエ等全員を相手にするのはキツイかもしれねえな。
――だが、俺は、俺を取り巻く全ての運命に対して……闘いを始めると……そう決めた時から――このやり方だ。
――才能に恵まれ、エリート街道を突き進んできた……お行儀の良いテメエ等に、俺の戦い方は理解できねえはずだ。で、この迷宮は何でも有りなんだよ……そして……何でもありなら――不死者の肉を喰らった……俺の覚悟が負けるはずがねえっ!
聖騎士を見下ろしながら、順平は思う。
――こいつは、毒でカタに嵌めた。
残る冒険者たちを睨み付け、その瞳に冷たい炎が宿った。
――さあ……残りは――三匹っ! 始めようか……泥仕合っ!!
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