政府は16日、内閣改造後初の経済財政諮問会議を開き、来年秋に予定する消費再増税に向けた議論に着手した。安倍晋三首相は「企業収益をしっかり賃金に回してもらうことで好循環を維持できる」と述べ、個人消費が伸びる環境づくりを重視する姿勢をみせた。消費は4月の増税後の持ち直しが鈍い。伊藤元重・東大教授ら民間議員は増税の判断に向け、消費や設備投資など5項目を集中点検する方針も掲げた。
首相官邸で開いた諮問会議には新しい民間議員として、経団連会長の榊原定征氏と、サントリーホールディングス次期社長の新浪剛史氏が加わった。留任した伊藤教授と高橋進・日本総合研究所理事長と合わせ、4人が関係閣僚と議論した。
首相は16日の会議で「基本的な認識として経済の好循環は続いている。拡大していくには政労使の共通認識を醸成していくことが重要だ」と述べ、政労使会議を月内にも再開する方針を正式に決めた。政労使会議は昨年秋から年末にかけて開き、企業の収益拡大を賃上げにつなげていくという合意文書をまとめて、今年の春闘での相次ぐ賃上げにつながった経緯がある。
首相は消費税率を10%に引き上げるかどうか年末までに最終判断するが、同日の会議では「7~9月期で成長軌道に戻るかどうか、15年間のデフレから脱却できるかしっかり分析することが必要だ」と強調した。個人消費などは4月の消費増税後に一時的に落ち込んでいるが、民間議員からは「景気回復基調は変わっていない」「過度な悲観は不要だ」などと強気の見立てが相次いだ。
論拠の一つは国内総生産(GDP)の動向だ。4人の民間議員は連名で、駆け込み需要とその反動があった1~6月期の実質GDP(公共投資除く)を平均すると「13年10~12月期の水準よりも0.7%増えている」と文書で指摘し、経済成長は途切れていないと主張した。会議に出席した日銀の中曽宏副総裁も「天候(による落ち込み)と反動減は経済の好循環でいずれ払拭される」と述べた。
諮問会議では首相が消費再増税を判断する材料に使うため、今後5つの景気指標を集中点検することを決めた。
1つは消費の安定的増加だ。消費の裏付けとなる雇用者数や賃金の伸び、非正規から正規へのシフトも注目すべきだとした。2つ目は設備投資の強さで、「企業の今年度の設備投資計画が下方修正されるか注視が必要」(内閣府幹部)という。3つめは輸出入を挙げ、輸入価格の上昇によるマイナス面も検証すべきだとした。4つ目は物価でデフレ脱却が着実に進んでいるか点検し、5つ目は株価や為替、金利などの金融市場を挙げた。
民間議員が示した5項目をみると、楽観視はしにくい。個人消費は増税と物価上昇の影響で実質賃金の持ち直しが遅れ、7月の個人消費は前年同月比で実質5.9%減と、4カ月連続でマイナスだった。設備投資も先行指標とされる機械受注統計は伸び悩む。堅調なのは物価と株価くらいだ。
諮問会議は全国の経営者・自治体首長らからなる政策コメンテーターや、有識者会合なども活用し、5項目を点検していく。財政健全化へ消費税の引き上げが重要課題となるが、景気への悪影響が強まればデフレ脱却が遠のくリスクもある。景気と財政の板挟みは避けられず、年末に向け経済政策のかじ取りは難しさを増してきた。
榊原定征、安倍晋三、伊藤元重、新浪剛史、高橋進、中曽宏、日銀