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 認知症で徘徊(はいかい)中に列車にはねられ、死亡した愛知県大府市の男性(当時91)の遺族に、JR東海が損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が24日、名古屋高裁であった。長門栄吉裁判長は、介護に携わった妻と長男に請求通り約720万円の支払いを命じた一審・名古屋地裁の判決を変更し、妻の監督責任を認め、約359万円に減額して支払いを命じた。長男には見守る義務はなかったとして、JR東海の請求を棄却した。

 高齢化に伴い、認知症のお年寄りの在宅介護を国が進めようとしている中、介護現場からは「時代に逆行した判決だ」と批判の声が上がっている。

 JR東海は、列車の遅れに伴う振り替え輸送費や人件費などとして損害賠償を求めていた。昨年8月の地裁判決は、横浜市に住み、男性の介護方針を決めていた長男に事故を防ぐ責任があったと認定。徘徊して事故に遭う可能性を予測できたのに、見守りを強める責任を果たさなかったと判断した。

 事故当時85歳だった妻については、長男が決めた介護方針の中で、男性と2人きりの時に目を離さずにいる義務を負っていたのに怠ったと結論づけた。ほかの親族3人は介護への関わりが乏しいとして責任を認めなかった。

 これに対し、高裁判決は相当前から長男は男性と別々に暮らしていて、経済的な扶養義務があったに過ぎず、介護の責任を負う立場になかったとして、男性への請求を退けた。

 一方、妻については配偶者として男性を見守る民法上の監督義務があったと判断。高齢だったものの、家族の助けを受けていて、男性を介護する義務を果たせないとは認められないと判断した。

 その上で、徘徊防止のため設置していた出入り口のセンサーを切っていたとして、「監督義務者として、十分ではなかった点がある」とし、事故に対する責任があると結論づけた。

 ただ、長門裁判長は、妻の日常の見守りについて「充実した介護態勢を築き、義務を尽くそうと努力していた」と評価。さらにJRの安全管理態勢については「安全性に欠ける点があったとは認められない」としたうえで、「社会的弱者も安全に鉄道を利用できるようにするのが責務だ」と言及。フェンスに施錠したり、駅員が乗客を注意深く監視したりしていれば事故を防ぐことができたとして、「賠償金額は一審の5割が相当」とした。(久保田一道)

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 〈認知症男性の死亡事故〉 愛知県大府市で2007年12月、認知症の男性が徘徊中、JR東海道線共和駅の構内で列車にはねられた。男性は「要介護4」と認定されていた。日常的な介護は、自らも「要介護1」と認定された同居する当時85歳の妻と、介護のために近くに転居してきた長男の妻があたっていた。事故当日、男性は部屋で2人きりだった妻がまどろむ間に外出していた。