日本の昨年の自殺者数は2万7283人。前年より2・1%減って、2年連続で3万人を下回った。それでも、毎日70人以上が亡くなっている。

 世界保健機関(WHO)が今月公表した自殺防止に関する報告書によると、日本の自殺率(2012年、人口10万人あたりの人数、年齢調整後)は18・5人。イタリアの3・9倍、イギリスの3倍、ドイツの2倍、アメリカ、フランスの1・5倍で、先進国の中で高い水準となっている。

 過去にも自殺を図ったことがある。そんな人が自殺者には多い。内閣府のまとめでは、2012年に自殺した人のうち未遂の経験がある人が女性は30%、男性は15%。20~40代の女性では40%以上を占めている。

 未遂経験のある人が再度自殺を図ることを防げば、自殺者数の減少につながる。こうした考え方が広がって、国の自殺総合対策大綱にも未遂経験者への対応が重点施策として盛り込まれている。

 東京都荒川区では、4年前から未遂経験者への対応に取り組んでいる。

 自殺を図って救命救急センターに運び込まれると、本人の同意を得て保健師が面会。退院後は個々の事情に応じて生活保護やハローワーク、ボランティアが運営する地域の居場所などにつなぐ。さらに、月に一度は病院と行政、弁護士、NPO法人などの関係者が集まり、ひとり一人について情報を共有する。

 これまでに関わったのは約80人。継続的に支援している間に自殺した人はいないという。

 荒川区の取り組みが示すように、医療や福祉、教育など各分野の専門家が情報を交換しながら継続して関わることが予防につながる。

 横浜市立大学が中心になった大規模調査でも、救急搬送された未遂経験者に対して定期的な面接や医療や生活支援などを手厚くすると、自殺予防の効果が高いことが認められた。はっきり効果が高いと統計的に言えるのは未遂後6カ月間だが、その後についても、再度自殺を図る人は少ない、という。

 自殺の背景には健康問題、家族問題、生活苦、孤立など複数の要因が絡んでいることが多い。今月7日には、相談や啓発に取り組むNPO法人や弁護士、医師や学者、行政や政治家らが発起人になって学会を発足させた。

 「自殺は予防できる」とWHOも訴えている。様々な取り組みや研究の成果を集めて、対策を充実させてほしい。