三森書店

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【考察】暇に飽かせて、小説家になろうの「悪役令嬢」の歴史を辿ってみた。

※内容を大幅修正して再アップしました。

小説家になろうの月間ランキングで、女性向けでは「ジャンル:悪役令嬢」が長らくブーム
「少女マンガor乙女ゲームの世界に記憶を持って転生したお嬢様な主人公が、自分はヒロインをいじめる悪役だと気がついて、周囲のトラウマ潰しでフラグを折ったり優等生化したりして、悪役を回避する」系ジャンルです。
ヤンデレ系乙女ゲーの世界に転生してしまったようです 1 (アリアンローズ)

ヤンデレ系乙女ゲーの世界に転生してしまったようです 1 (アリアンローズ)

 
悪役令嬢後宮物語 (アリアンローズ)

悪役令嬢後宮物語 (アリアンローズ)

 
その前は「乙女ゲーム世界に脇役(モブ)転生して傍観生活」がブームだったと思うんですが、アクティブ化(物語傍観→物語干渉)した印象。
 
で、このジャンルをランキングで見かけるたび、「悪役令嬢のネタ元、ソースって何だっけ?」と疑問が頭をよぎるので、悪役令嬢の歴史、原典について調べてみました
 

そもそも悪役令嬢って何?

ヒロインの成長を促したり、ヒロインに対する読者の同情を誘ったりするための敵役、ライバル役。ヒロインを陰日向と苛めます
 
悪役令嬢はテンプレ的に、
 
  1. 相手を服従させる権力を持つ(例:王族や政治家といった権力者。貴族、富豪の娘といった金持ち。)
  2. 相手を納得させる権威を持つ(例:王族、貴族の血筋といった身分・階級。ヒーローの婚約者、何らかジャンルの実力者、学園モノなら生徒会役員といった地位。)
  3. ヒーローに恋してるand/orヒロインを嫌ってる
  4. 手の甲を口に添えて高笑いする薔薇系(高飛車ツンツン系)or手の平を口に添えて微笑む百合系(清楚ぶりっ子系)。薔薇系の見た目は金髪縦ロール、百合系の見た目は黒髪ストレートっぽい。
  5. 展開によって「ヒロインの無二の親友」or「ヒロインの永遠のライバル」or「退場(社会的な死)」の3つのルートが存在。小説になろうだと「退場」が多く、これを回避するために転生悪役令嬢が奔走します。
 
4、5はメタ思考ですが、1〜3は必須。ヒロインを苛めても周囲に制止されないくらいの権力がないと話にならないですし、悪役令嬢の小道具としての取巻き、腰巾着は権威があるからついてくる訳です。3のヒロインを苛める理由がないと、苛め自体発生しませんしね。
 
ドラマで例えると「家なき子2」の木崎絵里花(役:榎本加奈子)。一条財閥のお嬢様で、黒髪ストレートのぶりっ子系。ヒーローに恋してヒロインを嫌い、最後はヒロインの友人的な子に下克上されて退場します。
「絵里花が例えてあげる」は「同情するなら金をくれ!」に次ぐ名言です。
 
ちなみに、お嬢様というと連想されがちな「アタックNo.1」(浦野千賀子)(1968年)の早川みどりや「エースをねらえ!」(山本鈴美香)(1973年)のお蝶夫人、「ガラスの仮面」(美内すずえ)(1976年)の亜弓さんみたいな人たちは、ヒロインと衝突はしつつも苛めてはないので、ただのお嬢様ライバルキャラです。見た目的影響は受けていると思いますが。

時代を追って少女マンガの悪役令嬢を探します。

ヒロインを苛めるお嬢様、というと、古くは60年代から。

「イサドラは母の死の間際、妹のマリサ(ヒロイン)が実は伯爵令嬢であることを知る。マリサに成り代わって令嬢となるイサドラ。マリサのことを召使として側に置き、苛め抜く」というあらすじ。成り代わりではあるものの、美少女なイサドラはいかにもお嬢様、で、ヒロイン苛めっぷりが半端ない。ただしヒーロー不在。主人公を憎んでるタイプです。

同じ成り代わり令嬢がヒロインを苛める(というか命を狙う)だと、「伯爵令嬢」(細川智栄子あんど芙〜みん)(1979年)もあります。宝塚で上演されたのでこっちが有名かなー。

 
もう少し時代が進んで70年代、といえば、世界的にも有名ですね、 

「明るく前向きな孤児の少女キャンディ(ヒロイン)が、周囲の偏見に負けずに人々に影響を与え成長していく」ストーリー。キャンディを苛める令嬢でイライザが序盤から登場。

ヒーローが好き、ヒロインが嫌いで兄のニールと一緒にヒロインを苛めるイライザはとっても悪役なお嬢様です。何より縦ロールマンガの知名度的にも、悪役令嬢の原型はイライザ、という人が多いと思われます

 

同じ70年代、「王家の紋章」(細川智栄子あんど芙〜みん)(1977年)で、ヒロインのキャロルをヒーローの異母姉アイシスが執拗に命を狙ったり、「ときめきトゥナイト」(池野恋)(1982年)で、ヒロイン蘭世にライバル曜子お嬢さんがヒーローを巡って恋の鞘当てをしたり。曜子さんは、暴力団組長の娘設定なので、ちょっと違うかなー。 

 

さらに時代を進めて80年代。お金持ち学校を舞台にした「有閑倶楽部」(一条ゆかり)(1981年)や「笑う大天使」(川原泉)(1987年)なんか有名で、真性お嬢様おぼっちゃま出てきますが、あれ、サスペンスやコメディでジャンル違いだと思うので割愛しました。でも「舞台設定:お金持ち学校」という意味で、有閑倶楽部の影響は大きいはず。 

 

次の90年代

お金持ち学校が舞台+庶民ヒロインが苛められ、やがて周囲に認められていく」という王道展開は、昨今の悪役令嬢モノの原典に上げる人が一番多そうな作品。庶民ヒロインつくしちゃんを苛めるリリーズ(百合子さまと仲間たち)がいます。

小説家になろうで「ジャンル:悪役令嬢」のブームの発祥になった、ひよこのケーキ先生の「謙虚、堅実をモットーに生きております!」作中作マンガは「花より団子」オマージュぽいですよね。若葉ちゃんと鏑木の関係性が、往年のつくしちゃんと道明寺に被る人はいるんじゃないかな。麗華さま的強力なライバルキャラは登場しないですが。

 

そしてその先00年代ミレニアム

空前の執事ブーム到来。やっぱり榮倉奈々水嶋ヒロ佐藤健競演で話題になったメイちゃんの執事が飛び抜けて有名なんでないかと。主人公メイちゃんに対するライバル役で詩織様がそんな立ち位置です。

同じようなお嬢様学校+庶民ヒロイン+オプション執事だと「執事さまのお気に入り」(津山冬、伊沢玲)(2007年)もあります。


乙女ゲーの悪役令嬢はマイネリーベにあり。

初代乙女ゲームアンジェリーク」(1994年)の時代から、ロザリアのようなお嬢様キャラは登場してます。乙女ゲーム2作目の「アルバレアの乙女」(1997年)のファナもお嬢様キャラ。いずれも切磋琢磨が気持ちよい、お嬢様ライバルキャラです。女王や聖乙女の地位を巡って、苛めなんてせず正々堂々ヒロインと戦ってくれます
 
その後、「ときめきメモリアル Girl's Side」(2002年)の須藤さんや 「ワンド オブ フォーチュン」(2009年)のシンシアなど、ヒーローを巡る恋の鞘当て的お嬢様キャラが出てきますが、正直、登場時間的尺の短さから存在感が薄い。ほら、乙女ゲームって、マルチシナリオで複数ヒーローそれぞれにルートがあって、そのうちひとりのライバル役でしかないので…。
 
でもそんな中、燦然と悪役令嬢が登場した乙女ゲームがありました。 
マイネリーベ

マイネリーベ

 

明るく家庭的な成金お嬢様、ぶりっ子腹黒公爵令嬢、男勝りクールお嬢様が、ヒーローを巡ってヒロインとつばぜり合いを繰り広げるゲーム。「ジャンル:美少年誘惑シュミレーション」の名は伊達ではなく、油断するとヒロインは陥れられます。

悪い噂を流されるのは序の口で、ヒロインがうかうかしてると媚薬でヒーローを奪われる、という屈辱を味わうのですよ…!!でも、攻略対象を玉の輿に乗る手段としか思ってない感じの潔さが、一部女子から圧倒的支持を受けました。ヒロインも俄然強めで、手紙に小細工したり、誘いを断るライバルを「使えないヤツ」と毒づいたり、漢でした

 
あと、アンジェリーク、アルバレアの乙女に次いで乙女ゲームの黎明期を飾った「ファンタスティック・フォーチュン」(1998年)、一部攻略キャラのルートのみ登場する貴族令嬢ミリエールが、暗躍する悪役令嬢です。 こっちはちょっとイレギュラーで、ヒーローを憎んでる系。
ファンタスティックフォーチュン

ファンタスティックフォーチュン

 

 

そんなわけで総括。 

「異世界に勇者や巫女として召喚されるヒロイン」「上流階級社会に放り込まれる庶民育ちのヒロイン」が王道展開な以上、悪役令嬢はヒロインの対として登場する訳です。ガラスの城から数えると、なんと半世紀も前から悪役令嬢はいたことに。青春時代がいつかで、悪役令嬢のイメージは違ってそうです。
 
肌感覚としては、キャンディキャンディのイライザで「悪役令嬢」のイメージが作られ、花より団子やメイちゃんの執事で悪役令嬢が活躍する「お金持ち学校」のイメージができた感じです。