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R18兄様の花嫁 作者:kay

13

 ざわり、と空気が揺れる。
 あからさまな視線は一瞬で外れたものの、こちらを探る気配はさらに強まった。生まれて初めて触れる兄様のものではない数多の甚大な妖力に、身体が強張る。
 兄様は他の異形に目をくれることもなく、部屋の一番奥に向かった。壁側に私を降ろすと、その手前で片膝を立てて胡坐をかく。他の妖たちからは私の姿が見えにくい座り方だ。
「思った以上に参加率がいいなぁ」
 兄様の呟きに、私はそうっと部屋の様子を伺った。異形には多種多様な姿があるのだけれど、この部屋にいるのは皆人の似姿に近い者ばかりだった。
 兄様曰く、異形には人の姿を持つ者と持たない者がいるらしい。人間は異形の人型は化けたものだと思っているのだけれど、どちらも本性なのだ。ただ、それぞれの好みの問題で人の似姿を取ったり取らなかったりするのだという。そして大妖ほど人の姿をとる傾向にあるとも聞いた。
 密かに観察し、私はとある集団に目が吸い寄せられた。
 艶のある漆黒の翼を背に生やし、山伏のような衣服、そして手には錫杖を持っている。醸す雰囲気は厳かで、どこか神聖ですらある。
「彼らは鴉天狗だよ。神格を持ち、妖の中でも上位の種族だ。離れたところに似たような集団がいるだろう? あれは大天狗という。やたら矜持の高い、威張り散らすのが生き甲斐のような大妖さ。彼らは同じ種族とされるのを嫌うから気を付けてね」
 鴉天狗から離れたところには、確かに大天狗達がいる。見るからに矜持が高く、気難しそうだ。でも自分から近寄ることはないから、たぶん大丈夫だろう。
 視線を兄様に戻すと、いつの間に用意したのか、色とりどりの甘味と細工物が置かれていた。
「兄様、これは……?」
「リキは甘いものが好きだろう? 甘味をたくさん貰ってきたからね、お食べ」
 金平糖や繊細な飴細工、水菓子などの様々甘味の数々に、私は胸が高鳴った。
「兄様大好き」
 渦巻く大妖達の妖気と探り合う気配に気が滅入りそうになっていたから、気を逸らせるものは有難い。
「そんなに喜んでもらえるとは、光栄の至り」
 やっぱり家族っていいなあ。
 けれどそんな感動も、次の兄様の行動で霧散した。
「はい、あーん」
 甘味を私の口元に持って来る兄様に、私は口を閉じて無言で抵抗した。
「なぁに、リキ。もしかしてお兄様の手ずからでは嫌? じゃあ口移しで……」
「手ずから頂きたいです、お兄様」
「そう? 残念」
 ちっとも残念そうではない、むしろ楽しげな声に、私はたそがれた。
 兄様に弄ばれている、私。
「まずはこれね」
 そしてしばらくの間、親鳥が雛鳥に餌を与える如く、私は兄様に甲斐甲斐しく食べさせられた。
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