JR九州が車内販売を廃止? どうなる“おもてなし”
10月から一部の特急列車で車内販売を廃止。“おもてなし”はどうなる。
JR九州が誇るクルーズトレイン「ななつ星in九州」。贅(ぜい)を尽くした車両もさることながら、客室乗務員による最上級の“おもてなし”が魅力であることは言うまでもない。だが、その基盤が揺らいでいる。
同社は9月2日、特急列車の一部で10月から客室乗務員を廃止し、車内販売とグリーン車の接客サービスを取りやめると発表した。廃止対象となるのは「にちりん」(大分─宮崎間)、「にちりんシーガイア」(博多─宮崎空港間)、「きりしま」(宮崎─鹿児島間)の3つだ。
一方で「ゆふいんの森」や「あそぼーい!」など観光列車の車内販売は継続する。JR九州の観光列車はいずれも大人気で、車内販売でもお弁当やグッズが飛ぶように売れている。継続は当然だろう。
今後の焦点となるのは「ソニック」(博多─大分間)、「かもめ」(博多─長崎間)など、九州の主要都市を結ぶ特急列車の車内販売の行方だ。一部には「観光列車を除くすべての特急列車で廃止を検討している」という見方もある。この点についてJR九州は、「利用状況に応じて、その都度判断していく」と、回答するにとどめている。
●上場への最重要課題
JR九州が車内販売の廃止に動きだした理由として、2016年度を目標とする株式上場が念頭にあるのは間違いない。同社の鉄道事業は赤字続き。不動産などの多角化によって何とか営業黒字を維持している状態だ。本業の収益改善は最も重要な課題。現在、あらゆる観点からコストの見直しを行っており、採算が取れない業務の廃止はやむをえないとの見方もできる。
ただ、JR九州における客室乗務員の位置づけは、ほかのJRとは大きく異なる。
九州は“バス王国”といわれるほど高速バス網が充実しており、高速バスと鉄道は激しくシェアを争っている。それだけに「わざわざ鉄道に乗りたいと思ってもらえるだけの車両とサービスが必要」と3年前の取材時に唐池恒二会長(当時社長)は語っている。それを具現化したのが、ななつ星を頂点とする観光列車や都市間特急列車だ。
工業デザイナー・水戸岡鋭治氏が手掛けたこれらの車両には、確かに「一度は乗ってみたい」と思わせるだけの魅力がある。だが、乗った後に「もう一度乗りたい」という感動を与えるのは、客室乗務員のおもてなしだ。
JR九州の客室乗務員は1987年の同社発足直後、博多─西鹿児島間を結ぶ在来線特急に導入され、現在は九州全域で250人が勤務する。その役割は車内販売にとどまらない。乗り換え案内や切符の確認、沿線の観光地のアナウンスも行う。観光列車であれば、乗客に写真を撮ってあげたりもする。さらに、終着駅で折り返しまでの時間が短いときには、清掃スタッフと一緒に車内の清掃も行う。
そして何より、車内販売をグループ会社に委託しているほかのJRと違い、JR九州では客室乗務員は本社採用(契約社員)である。「接客サービスをグループ会社に任せてしまったら、接客サービスはグループ会社の仕事だと本社の社員が誤解しかねない」(唐池氏)。つまり、客室乗務員の存在は、JR九州全体の“おもてなし力”向上に、一役買っているのだ。
同社にとって、魅力的な車両と客室乗務員のおもてなし力は、車の両輪。どちらが欠けても成り立たない。車内販売や客室乗務員の廃止は、部分的に行うのであれば鉄道事業の収益改善に寄与するだろう。が、その行き過ぎは、かえってJR九州の持ち味をそぐことになりかねない。
(本誌・大坂直樹)