02
前世の記憶を思い出してから一か月が経った。季節は晩秋から初冬に移り変わり、これから寒さ厳しい長い冬が始まる。
日常生活で特に何かが変わることもなく、私は相変わらず限られた範囲で過ごしていた。
前世を思い出したといっても部分的で、どこでルート分岐するのか分からないことに私は絶望した。
いや待て、その内詳しいこと思い出すかもしれない。
それにルートは恋人になるベストエンドや悲惨なバットエンドだけではなく、胸熱くなる友情を育むハッピーエンドがあったもの。大丈夫ダイジョウブ。
そんな希望に縋り付き、まずはこの世界の知識を蓄えることが重要だと、私は現在本を読み漁っている。
「おはよう、ジュリア」
「よう、遊びに来たぜ」
部屋を訪れたのはアルセーヌと、幼馴染の一人であるリオネルだ。
ふわふわとした銀髪のくせ毛に、少し吊り上がった青紫の瞳を持つ、どことなく猫のような印象を受ける少年。
彼はアルセーヌとは系統が違うものの、これまた飛び抜けた美少年である。
「おはよう、アル、リオ」
「顔色は良さそうだね」
「今日も本持って来た」
そう言ってリオネルが分厚い本を差し出してきた。表紙には『世界の植物図鑑』と書かれている。中をぱらぱらとめくれば、詳細な図解と説明が載っていた。
「ありがとう、嬉しい」
「本当は『世界の毒物図鑑』を持ってこようと思ったんだけどさ。そういう知識は俺が知っているから、お前には必要ないと思って止めた」
――毒物!?
私は思いも寄らぬ発言にぎょっと目を見開いた。
リオネル、まさかヤバい道に進んだりしないよね?
彼はゲームの攻略対象の一人だ。アルセーヌと同い年の幼馴染で、友情ルートだと王道の少年漫画並みに燃える展開、胸熱くなること間違いなし! と従姉妹は言っていた。
――あ、待って。確か何か裏稼業があったような、なかったような。
しばらく考え込んでみたが、やはり思い出せない。
うう、使えぬぞ、前世の私め。
「そんなに眉根を寄せると跡が残るよ」
アルセーヌは苦笑すると、ぐりぐりと眉間に指を押し付けてきた。
「来月の祭、ジュリアも行こうぜ。オジさん達にもちゃんと許可もらったしさ」
「え? お祭り?」
リオネルの言葉に、私は目を瞬いた。
生まれてからこれまで、病弱な私は村から出たことはない。
お祭りというのは、この村から少し離れた場所にある街の祭りのことである。冬を無事に越せるようにと願いを込めて行われる祭り。
最初と最後に神官が祈り、美しい乙女達が神に捧ぐ舞いを踊る。それは夢幻のように、儚げで奇麗な光景なのだとか。
それに各地から行商人や旅芸人が集まり、露店が所狭しと道に並ぶのだという。
私も何度か行ってみたいと願ったが、身体の弱い娘を心配した両親が連れていくことを渋ったため、未だに行ったことがない。
「俺たちが責任持って無事に連れ帰ると約束したからね。だから行こう?」
「来るだろ?」
アルセーヌとリオネルの言葉に、私は破顔した。
「もちろん!」
どんな感じなのかなあ。
初めての遠出に、私は胸を躍らせた。
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