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Zwei Rondo 作者:グゴム

一章 迷い森の白兎

12. うさぎのペンダント

12

 くびれたウエストから伸びた滑らかな曲線、それと思いのほか大きな胸の膨らみを頼りない薄茶色のインナーで隠しながら、リゼはファーラビットと戦っていた。その顔は紅葉のように紅く染まり、気恥ずかしさからか動きもぎこちない。
 ウドゥンは見蕩れる様にあっけにとられ、次の瞬間、勢いよく視線を逸らした。

 やがてファーラビットを倒し終えたリゼがウドゥンに気がつくと、「あの……」と恥らいながらも体を小さくした。

「お前、ばかだろ」
「えぇぇぇ!? ひどい!」

 目のやり場に困りながら放たれたウドゥンの言葉に、リゼが涙目となる。
 彼女が装備している初期装備のインナーは、土色のショーツとハーフトップだ。色気も無いし、見た目にはほとんど水着を着ているのと変わりない。ただし、脚の部分を除けば――だが。

「まったく、律儀にブーツだけは履いてるし」

 ウドゥンが横目で見ると、ショーツの下は白いふとももが色っぽく露出され、さらにその下には銀色の金属で作られたロングブーツが続いていた。

「だって、その方がドロップしやすくなるって……」
「だから、オカルトな。気分の問題だ。早く装備してくれ」

 おずおずと言うリゼに、作ったハーフトップとショーツを投げつけ、ウドゥンは後ろを向いた。彼女はその白の毛皮で覆われた下着を受け取ると、「かわいい」と小さく歓声を上げていた。

 まさか先程話した裸ドロップ率アップ法を、リゼがこの場で実践してしまうとは――自分の話が冗談だと通じていなかったことに、ウドゥンは頭を抱えてしまった。


「装備したよ」
「あぁ……ったく――」

 その声にウドゥンが振り向くと、そこには純白の"ファーラビットの毛皮"で作られたハーフトップとショーツを身に着けた、下着姿のリゼが立っていた。
 ファーラビットの上下セットは、白くもふもふとした毛皮で覆われた下着だ。布面積も初期装備に比べ実際の下着にも近く、特にショーツのおしりの部分には、使ってもいない丸尻尾が縫い付けられているという、どこのバニーガールだというデザインだった。
 勿論銀のロングブーツは装着されたままである。完璧に近い少女の裸体が、目の前で扇情的なラインを描き出していた。

 一目見て、慌てて目線を逸らすウドゥンだった。

「だから……なんでなんだよ!」
「えぇ! 装備しろって言ったじゃん」
「鎧だよ! 早く服を着ろ、服!」
「あっ……」

 珍しく言葉を荒らげるウドゥンを見て、リゼは少しあっけにとられ、やがて腹を抱えて笑い出した。

「あはははは! そっちか」
「笑い事じゃねーよ。これじゃ俺がお前に野外露出させてるみたいだろうが」

 カラカラと声を上げ、下着姿のまま笑うリゼ。ウドゥンはその姿を横目で見ながら、呆れるように頭を抱えていた。

 その時2人の目の前にファーラビット2体が出現ポップした。
 悲しいかな、白くて丸っこい物体を見るとエストックを叩き込むことを反射づけられてしまったリゼは、インナー姿のままエストックを引き抜く。

「やぁ!」

 掛け声を上げてエストックを突き出す。出現ポップしたばかりのファーラビットは回避行動も起こさず、無抵抗に刺されるだけだった。続けて彼女はもう1匹の反撃を基本どおりにガードすると、代わりにカウンターを叩き込んでいた。
 流れるような攻撃でリゼは2体のファーラビットを瞬殺してしまう。するとファーラビット達が消滅した後には、小さくて丸いアイテムが転がっていた。

「あっ!」

 リゼが歓声を上げる。それは目的のアイテム"ファーラビットの丸尻尾"だった。しかも2個。

 全然出なかったレアドロップが、出る時は連続して出ると言うことはよくある。今回もなかなか出なかった反動からか、レアドロップである"ファーラビットの丸尻尾"が2個同時にドロップしていた。

「すごい! 本当に出た! やった!」

 リゼが飛び上がって喜ぶ。急いでそれらを拾い上げると、跳ねる様にウドゥンに駆け寄り手を取って興奮気味に言った。

「しかも2個だよ。なんで一気に2個出るかな! これってやっぱり、インナーで倒したからだよね!」

 白兎の毛皮で仕立てられた下着姿のまま、リゼがウドゥンの前で飛び跳ねていた。あらわになっている柔肌が押し付けられ、それなりの大きさを誇る胸までもが大きく揺れていた。
 ウドゥンが真っ赤になりながら、何とか搾り出すように言う。

「何でもいいから、とりあえず服を着てくれませんか……」
「……っえ?」

 今までどんな姿をして、ウドゥンの目の前で飛び跳ねていたかに気がついたリゼは、叫び声を上げて座り込んでしまった。





『【ファーラビットの丸尻尾】の納品を確認。
  クエスト完了 報酬:6302G       』

「あれ。報酬は5000Gじゃなったっけ?」

 ウドゥンが依頼したクエストに【ファーラビットの丸尻尾】を納品したリゼが、パネルに表示された結果リザルトに首をかしげた。ウドゥンが説明口調で言う。

「プレイヤーが依頼するクエストの報酬ってのは、自分で決める時もあるが、今回は自動オートで決定させた。そうすると最低報酬だけが設定されて、今回は5000Gだっただけだ。実際はそこから様々な要素で報酬量がプラスされる。素材の品質だったり納品までの時間だったりするし、サーバーでの流通量や露天バザーでの設定価格からも算出されているそうだ」

 リゼはその説明を聞いて、もう10度ほど首をかしげるだけだった。

「つまり、どういうこと?」
「……表示よりは多くもらえるってことだよ」

 詳しく説明する事は無理だと判断し、ウドゥンは結論だけ述べた。詳しい仕様など知らなくても、このゲームは楽しめる。知らなくてもいいことは、世の中には大量にあるのだ。

「でも良かった。クリアできないかと思ったよ。手伝ってくれてありがとう!」

 リゼは初クエストを完了させ、嬉しげな笑顔を見せていた。

 ウドゥン達は現在、迷いの森の入り口近くまで戻っていた。
 まずリゼのクエストを完了させ、ウドゥンが"ファーラビットの丸尻尾"を報酬として受け取る。その"ファーラビットの丸尻尾"を使って、ウドゥンはすぐに依頼品である"うさぎのペンダント"を製作した。
 丸くて白いお手玉の様な丸尻尾に、革製のヒモを通しただけの簡単なアクセサリだ。体力の自動回復スピードが上昇する効果があり、見た目の可愛さから女性プレイヤーに人気がある。
 実際、隣で眺めていたリゼが「かわいい!」と歓声を上げ、クエストに納品をしようとする間中、ウドゥンの手にあるペンダントをじろじろと眺めていた。

「欲しいなら作ってやるよ」
「えっ……?」

 納品を終えたウドゥンがぶっきらぼうに言った。リゼが驚いた顔を見せる。

「さっき、もう一個"ファーラビットの丸尻尾"を拾ったろ。あれを寄こせ」
「え、あ……うん」

 リゼは慌ててパネルを操作し、"ファーラビットの丸尻尾"を取り出した。うやうやしく差し出されたそれを、ウドゥンはひったくる様にして奪い、パネルでレシピを選択してから革細工用のヘッドナイフを当てる。
 すると小さな丸尻尾は、すぐに先ほど納品したのとまったく同じ"うさぎのペンダント"に変化してしまった。

「ほらよ」

 出来上がったペンダントを無造作に放り投げるウドゥン。リゼが慌てて受け取ると、宝物を見るような嬉しげな表情でそれを見つめていた。

「ありがとう! 大事にするね」

 やがてその顔をウドゥンに向け、瞳を輝かせながら言った。
 "うさぎのペンダント"はアクセサリ専門店や革細工職人の工房に行けば、10,000Gほどで売っているような装備だ。他にもっと良い効果を持つアクセサリも沢山存在する。
 その為「装備が揃ってきたら買い換えろ」とウドゥンはアドバイスしたが、リゼは「こんなに可愛いのに……」と微妙そうな顔をするだけだった。


「さて、帰るか。もう3時前だしな」
「え! もうそんな時間なの?」

 リゼが慌ててパネルを開き、現時刻を確認すると再び驚いた声で続けた。

「私、こんな時間まで起きていたの初めて。えー、すごいな。全然起きていられるんだね」

 明日、リゼは確実に寝過ごすことになるだろう。最悪昼まで起きられないかもしれない。初徹夜の彼女がどれだけ寝坊するか、ウドゥンには少し楽しみだった。





「ウドゥン! 何かお礼をするよ!」

 迷いの森からの帰り道。アルザスの街に戻った2人が大通りを歩いていると、リゼが突然振り向いてきて言った。ウドゥンがぶっきらぼうに答える。

「いらねーよ。初心者は初心者らしく、他人の好意はありがたく受け取っておくのがMMOの常識だ」
「でもでも、色々迷惑かけたし、ペンダントも作ってもらったし。なにより色々教えてくれたじゃん。何かお礼したい!」

 そう言って、くるりとその場で一回転するリゼ。肩にかかる程度の長さをした栗色の髪が、太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。
 徐々にウドゥンに対して壁がなくなってきたのか、リゼの言葉遣いが子供っぽくなっていく。ウドゥンはその微妙な変化に少し戸惑いながらも、口を閉じて考え込んだ。

 今回ウドゥンがリゼのクエストを手伝ったのは完全に気まぐれだ。当然、見返りなど何も期待していない。大体こんな始めて3日目の初心者に頼めることなんて――

(まてよ……? こいつを使って……)

「ウドゥン?」

 彼の悪い虫が、唐突にうずき始めた。そうとは知らずに、心配そうな様子で顔を覗き込むリゼを無視し、ウドゥンは思考する。
 そしてしばらく考え込んだ後、彼は言った。

「そこまで言うなら、手伝ってもらおうか」
「うん。何でもするよー!」

 意気込んでその小さな両手を握り込むリゼ。その姿を見て、ウドゥンは心の中でにやりと笑った。






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