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Zwei Rondo 作者:グゴム

一章 迷い森の白兎

5. クエスト依頼

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 酒場中――いや、下手したら酒場前の通りにまで響いてしまうのではないかという大きな声で、リゼは絶叫した。ウドゥンもセウイチも角谷ユウ達も、酒場にいた無関係のプレイヤーですらも、全員がリゼに顔を向けた。

「なんでなぎ――ムグ!」
「リゼー。ゲーム内で本名リアルネームを呼ぶのはマナー違反だよー」

 近くにいたルリが、慌ててリゼを羽交い絞めにして口をふさいだ。ウドゥンはそれに安堵し、息を吐く。
 ルリの言う通り、オンラインゲーム内で本名リアルネームで呼ぶ事は推奨されない。基本的なネチケットであったが、そんなことも忘れてしまうほど、リゼは驚いてしまったようだ。羽交い絞めにされ、ようやく周囲が自分に注目している事に気がついたリゼは、真っ赤になって顔を伏せた。

「あ……ごめんなさい……えっと、ウドゥン……さん」
「ウドゥンでいい。ってことはお前、望月もちづき莉世りせか」

 周囲に聞こえないように小声で聞くと、リゼは小さく頷いた。それを見て、ウドゥンは目の前がぐらつくような感覚に襲われた。
 まさか昨日、あんなに多くのプレイヤーが集まるアルザスの1番街で出会ったプレイヤーが、同じクラスの女子だったとは。
 なんというか、世間は狭い――ウドゥンは小さくため息を吐いた。


「なんだよウドゥン。学校じゃあんな事言ってたのに、いつの間に仲良くなってんだよ」

 筋骨隆々な外見をしたクラウドが、不満げな様子で言う。ウドゥンが少し不機嫌そうに言い返した。

「偶然だ。こいつの驚き具合を見れば分かるだろ」

 知ってたら意地でも逃げていた――そう付け加えそうになるところを、ウドゥンは何とか飲み込んだ。じっと顔を見つめてくるリゼに気圧されてしまったからだ。
 続けて、リゼを抱きかかえたままのルリが言った。

「でも丁度良いや。これからみんなで迷いの森に行くけど、あんたも来なさいよ」
「あ、そうだよ! なぎ……じゃなくて、ウドゥンも一緒に行こうよ!」

 リゼが嬉しそうに声を弾ませる。ゲーム内で初めて話したプレイヤーがクラスメイトだったことに、テンションが上がっているようだった。

「いや、やめとく」
「え……」

 子供の様にはしゃぐリゼの笑顔を、一瞬でぶち壊しにしてしまうウドゥンの答えだった。カウンターの中で話の推移を見守っていたセウイチが、大きくため息をつく。

「俺はこれから用事があるんだよ。行きたくても行けない」
「なんの用事?」
「なんでそんなこと、お前らに教えないといけないんだよ」

 角谷ユウの質問に、ウドゥンはよそよそしく答える。とりつくしまもないその態度に、場の空気は沈黙してしまった。


 ――パンッ!


 突然、大きく手を打つ音が響いた。五人が反射的に音の方向に目を向けると、酒場のマスターであるセウイチが、開いているのか閉じているのか分からない細い目で微笑んでいた。

「ウドゥン。さっき受注した【革細工】クエストの中に"うさぎのペンダント"の納品があっただろ」
「ん……あぁ」

 毒気を抜かれてしまったウドゥンが、あいまいに相槌を打った。セウイチが続けて言う。

「"うさぎのペンダント"の製作には"ファーラビットの丸尻尾"が必要になる。あれは1stリージョン・ミリー森林、通称"迷いの森"に出現するモンスター・ファーラビットのレアドロップだから、ウドゥンも在庫を持ってないはずだ」

 確かに"ファーラビットの丸尻尾"は、いくらファーラビットを倒してもなかなかドロップしないレアドロップだ。ただファーラビット自体は弱く、初心者のスキル上げに丁度良い相手なので、そこまでレアなアイテムというわけでは無い。
 実際ウドゥンも手元には無かったが、これから1番街の露天バザーを探せば見つかるだろうと考えていた。

「まあ、今は持ってないな」
「じゃあ"ファーラビットの丸尻尾"を取って来るクエストをこれからウドゥンが依頼して、リゼにそれを受注させて達成してもらえばいい。これでどう?」

 その提案に、リゼは「楽しそう!」と目を輝かせた。
 セウイチはこの場を収めるために仲介してくれたようだが、この提案は初心者であるリゼにクエストのやり方を教えるチュートリアルも兼ねていた。
 ウドゥンは初心者が苦手だが、別に排斥しようとしているわけではない。初心者にナインスオンラインのシステムを理解してもらい、楽しんでもらう事も、既存プレイヤーの大事な役割だと理解していた。
 多少納品は遅れるかもしれないが、だめなら露天バザーで買いあされば問題無い。ウドゥンはセウイチの案で妥協することにした。

「いいんじゃないかな。今日はエリアボス討伐を目標にしてたけど、ついでにファーラビットも狩ることにしよう。リゼのスキル上げにもなるしね」

 グリフィンズのリーダーである角谷ユウが、温和そうな声で言った。それを受け、なにか言いたげなクラウドは黙ってしまい、ルリもリゼに抱きついたまま頷いていた。

「それじゃあ、クエスト依頼を頼む。セウ」
「報酬とかは考えなくて良いのか?」
自動オートでいいよ。ただ、期日は明日までにしといてくれ。こっちの期日もあるからな」
「おっけー。ちょっと待って…………よし」

 セウイチがパネルを操作すると、羊皮紙のテクスチャで作られたクエスト依頼書が現れた。

『"ファーラビットの丸尻尾"を一つ納品せよ。

 報酬 5000G
 期日5/31 24:00 
 依頼者 ウドゥン
 依頼場所 セウイチの酒場 』

「リゼ。この紙を持って、出てきた選択肢の受注ってところを押してみて」

 セウイチが依頼書を差し出す。リゼはそれを受け取り、目の前に現れた選択肢をたどたどしく選ぶと、羊皮紙にクエスト受注の文字が躍った。

「えっ……と。これでいいのかな」
「おっけー。それじゃ後は"ファーラビットの丸尻尾"を手に入れたら、パネルからクエスト情報を選んで、納品を選択すれば良いから。まあ分からなかったらユウ達に聞いて」
「はい。分かりました!」

 元気良く返事をすると、リゼはクエスト依頼書を両手で開いてルリ達を見せびらかしていた。
 クエストの受注。それはナインスオンラインをプレイする上で、これからいくらでも行う事だ。そんな当たり前の事柄が、初心者のリゼにはとても嬉しくなってしまう出来事だった。


「あぁそうだ。一つ知らせておくことがあった」

 いざ出発しようとしていたリゼ達を、セウイチが思い出したように呼び止めた。そして、いつもは飄々とした雰囲気を漂わす彼が、珍しく真剣な表情で4人に忠告した。

「1stリージョンには最近、初心者狩りが出るらしいから気をつけて」
「初心者狩り?」

 言葉の意味が分からず、リゼが首を傾げる。他の三人には通じたようだが、特に何の問題も無いといった様子で笑い合っていた。

「大丈夫ですよ。返り討ちにしてやります」

 角谷ユウが自信ありげに言う。それを見てセウイチは安心したように微笑んだ。

「それじゃ、いってらっしゃい」
「いってきます!」

 元気良く返事をして出発するリゼ達を、セウイチとウドゥンは見送った。









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