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Zwei Rondo 作者:グゴム

一章 迷い森の白兎

3. クラスメイト

3

 新年度が始まり、二ヶ月ほどが経過した5月の終わり。桜実高校2年1組の教室では、クラス替えによって新しくなった顔ぶれにも慣れた生徒達が思い思いに昼休みをすごしていた。先日、定期テストという山場を越えた為か、みなどこか解放的だ。

 そんな中で柳楽なぎら和人かずとは1人、机に向かいながら携帯パネルを操作していた。携帯パネルとはスマートフォンに代わって広まった、3Dホログラムを映像出力とする高性能個人端末である。簡易的にVR機とリンクさせることもでき、和人かずとがプレイするゲーム『ナインスオンライン』も、いくつかの操作をゲーム外部から行なうことが可能だった。

 和人かずとは、酒場に依頼したクエストの報酬を受け取り、新しく依頼を出す操作を授業の合間に行っている。先ほどの気が滅入るような英語の授業の間にも、和人かずとが依頼した『"黒虎の毛皮"を10枚納品せよ』というクエストは滞りなく完遂されていた。
 世の中には高校生よりも遥かに自由な時間を持つ人間がいる。和人かずとも早く高校を卒業し、適当な大学に入って悠々とナインスオンラインをプレイしたいと考えている。勿論学年が上がったらそれなりに勉強しないといけないだろうが、とにかく今の和人かずとは昼休みでもゲーム外操作に没頭するほど、ナインスオンラインにハマっていた。


「望月さん。ちょっといいかな」

 それは和人(かずと)の数席後ろに座っていた女子に、クラスの男子二人が話しかけた声だった。

「うん?」
「望月さんが『ナインスオンライン』を始めたって聞いたんだけど、本当?」

 丁度ナインスオンラインのゲーム外操作していた和人かずとが、不意を突かれた様に目の前の携帯パネルを操作する指を止めた。
 しかしすぐに気を取り直して操作を再開した。背後で行なわれる会話に耳をそばだてながら。

「えっ!? うん、そうだけど、なんで知ってるの?」
「中川さんから聞いたよ。いまどんな感じ?」
「昨日やり始めて、まだ最初の街から出てないよ。いきなり迷子になっちゃって……」
「あー。最初はつらいよね。あの街、複雑だし人多いし」
「うん。でも通りがかりの人に案内してもらって、なんとか待ち合わせの場所にいけたの。名前を聞き忘れちゃったんだけど、すっごい良い人だったなー」

 えへへと笑う女子。名前はたしか望月もちづき莉世りせだったと、和人かずとは思い出した。茶髪のロングヘヤーと人懐っこい笑顔で、クラスでも人気のある女子だ。
 一方、莉世りせに話しかけている男子は角谷と牧である。共にナインスオンラインをプレイしているクラスメイトで、特に角谷は、桜実高校の連中を集めて結成されたギルド『グリフィンズ』のリーダーだった。どうやら新しくプレイし始めたクラスメイトを勧誘しに来たようだ。

「今日さ、一緒にプレイしない? うちのギルドにも入ってみてよ。中川さんも入ってるしさ」
「そういえば瑠璃ちゃん。昨日言ってた気がする。ギルドに入ってるって」

 ギルドというのはプレイヤーの集まりのことで、同じギルドに所属していればギルド内掲示板などで連絡が取りやすくなるし、エリア攻略やPvP戦でも多くのメリットがある。なによりギルドホームと呼ばれる自分達だけのエリアを持てる点が魅力だった。ギルドは掛け持ちして所属できるので、多くのプレイヤーは様々なギルドに所属ながら、ナインスオンラインを楽しんでいた。

「他には誰がいるの?」
「結構居るぜ。2組の倉とか4組の宮本さんとかね。このクラスじゃあ俺達だけだけど、他のクラスも合わせれば10人くらい所属してる」
「そうなんだー!」

 アフロにも見える特長的なクセ毛の牧がそう言うと、莉世りせは感心した声をあげた。

「ウチのギルドには入ってないけど、このクラスだと柳楽なぎらもナインスオンラインをプレイしているよ。なあ柳楽なぎら!」

 グリフィンズのリーダーで面倒見の良い雰囲気の角谷が、不意に和人かずとの名前を呼んだ。聞き耳を立てているところに突然話を振られてしまった和人かずとは、内心少し驚きながらも、携帯パネルを置いて振り向いた。

「なんだよ」
「望月さんがナインスオンラインを始めたらしくてさ、今ギルドに誘ってるんだよ。ついでだから、お前も一緒にグリフィンズに入らない?」
「前にも断ったろうが……」

 和人かずとはグリフィンズには所属していない。これまで何度か誘われているが、ある理由があって全て断っていた。

柳楽なぎら君もやってるんだ」
「まあ……ね」

 莉世りせが微笑みながら聞くと、和人かずとは気恥ずかしくなって視線を逸らしてしまう。根暗な彼には直視できないほどに、莉世りせの笑顔は無邪気で眩しかった。

「でもこいつ、ボッチだからな」

 牧がすこし皮肉っぽく言うと、莉世りせが首をかしげる。

「ボッチ?」
「一人ぼっち――ギルドにも所属せず、一人でプレイするやつのことだよ」

 牧の説明に、和人かずとが少し慌てた様子で否定する。

「別に、ギルドには入ってる」
「構成員一人のぼっちギルドだろ? それって何が楽しいんだよ!」
「やめろよ牧」

 げらげらと声をあげて笑う牧を、角谷が困った様子でたしなめた。

 確かに和人かずとが所属しているギルドは、牧の言う通りほとんど一人ギルドの状態だった。しかしギルド以外のフレンドは結構な数がいるし、むしろその数は学校の身内でしかプレイしていない牧達よりはずっと多い。

(というより、リアルの知り合い同士の馴れ合いプレイとか、何が楽しいのか……)

 和人かずとがグリフィンズに所属しない理由はこれだった。現実の友人と仲良くプレイする内輪プレイは、それはそれで楽しいだろう。だがそれだけがVRMMOの楽しみ方では無い。内輪プレイを否定する気はないが、ゲームの世界にまでリアルの付き合いを持ち込むなど、和人かずとには理解が出来なかった。

柳楽なぎら君……友達少ないの?」

 莉世りせの微かに潤んだ瞳が向けられる。どうやら誤解されてしまったようだと、和人かずとはため息をついた。

「……別に。楽しくやってるから、ほっといてくれ」

 そう言って、和人かずとは机に向かい携帯パネルの操作に戻った。同時に午後の授業開始を知らせるチャイムの音が鳴り、昼休みが終わりを告げた。





 授業後、帰宅部のエースである和人かずとはホームルームが終ると同時に教室を出、愛車である黒のママチャリに乗り、飛ぶように帰宅した。
 そして両親共働きの為に誰もいない自宅で制服を着替えると、そのまますぐにヘッドギア型のVR機を装着し、起動する。


 『ナインスオンライン』ログイン――


 世界が暗転し、目の前の光景が自室から、昨日ログアウトした工房へと変化した。
 ログインしたと同時に現れる、システムメッセージに記されていた自身のプレイヤー名は『Wooden』――ウドゥンだった。
 ウドゥンは和人かずとと同じ黒の短髪だが、暗い目つきが修正されて顔の印象はかなり変わっている。背は元々高い方であるが、現実世界ではひょろひょろとした体格が、ゲーム内ではがっしりとした雰囲気に補正されており、ゲーム内の姿のほうがずっと男前に見えた。

 ウドゥンはログインするとすぐに、メッセージボックスを開いた。学校を出る前にも確認したが、事あるごとにメッセージボックスを見る事は習慣になっており、半ば反射的に見てしまう。するとそこには帰宅中に届いたのだろう、未読メッセージが一つあった。

『聞きたいことがある。20時に工房へ行く。 ――ガルガン』

 ウドゥンはその名前を知っていた。ガルガンとは、大規模ギルド『インペリアルブルー』のエリアリーダーの名前だ。

 インペリアルブルーは九つあるサーバーを跨いで活動する大規模ギルドの一つで、このアルザスサーバーでは最大の勢力を誇っている。例えば昨日、円形闘技場コロセウムで戦っていた【蒼の侍】ゴンゾーはここのサブリーダーだ。
 インペリアルブルーは多くの戦闘プレイヤーと生産プレイヤーを擁する総合ギルドである。特に集団戦を得意とし、5対5で行うチームマッチや、多数のモンスターが街に攻め寄せる大規模戦闘インベイジョンでは無類の強さを発揮していた。またこのゲームの主要なコンテンツである、モンスター討伐を伴うエリア探索にも積極的だ。
 そしてガルガンは、アルザスサーバーにおけるインペリアルブルーのエリアリーダーであり、同時にトップクラスの重騎士プレイヤーだった。【アルザスの盾】とも呼ばれ、攻防一体の強固な武器【槍斧盾ハルベルトシールド】と、育て上げた【挑発】スキルを駆使して戦う盾役としては、全サーバーを見回しても右に出る者がいないほどだ。

「旦那も急な話だ」

 と呟いたものの、時刻は現在17時過ぎだ。20時までは時間がある。とりあえずウドゥンは、昨日行けなかったセウイチの酒場に行ってクエストを発注することにした。





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