1. 円形闘技場にて
Zwei Rondo
一章『迷い森の白兎 ( しろうさぎ ) 』
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歓声がこだまし、それに呼応するように剣士たちが剣を振るう。石材を組み合わせて造られた円形闘技場 ( コロセウム ) 。仮想現実 ( ヴァーチャルリアリティ ) に再現されたこの場所では、数千人にも及ぶ観戦者が、眼下で打ち合う二人のプレイヤーの剣技に熱狂していた。
ナインスオンライン――日本初の国産VRMMOとして、約一年前に稼動 ( ローンチ ) したこのゲームは、10代から20代の若年層に対して圧倒的な人気を得ていた。
ゲーム内容はメインとなる街を中心とした、周辺エリアの探索やモンスター討伐、装備生産や多彩なスキル育成など多岐にわたる。しかしその様々なコンテンツの中でも最も人気のあるものはPvP(Player versus Player)――つまり、対人戦である。
九つあるサーバー、その名を冠するそれぞれの街で開かれるPvP大会、通称トーナメントには毎回多くのプレイヤーが参加する。その中でも特に上級者の集まるA級トーナメントでは、いつも会場である円形闘技場 ( コロセウム ) を焼き焦がすような盛り上がりを見せていた。
アルザスサーバー・A級トーナメント決勝
【戦乙女 ( ヴァルキリー ) 】ファナ vs 【蒼の侍】ゴンゾー
1on1ソロマッチバトル
ウドゥンは円形闘技場 ( コロセウム ) の観客席最上段から、この戦いを眺めていた。
その場所だけ墨汁を垂らしたような黒髪と、細身だが体つきのよい長身。少しつり目気味の目つきが、血のように紅い瞳と鋭い鼻と合わせて、その男に知的で狡猾な印象を与えていた。周囲が立ち上がり歓声や怒声をあげる中、ウドゥンは無表情のまま足を組み、手にあごを乗せ、静かに決勝戦を観戦していた。
「ほらみろウドゥン! ゴンゾーの奴、【戦乙女 ( ヴァルキリー ) 】を喰っちまうかもしれないぜ!」
隣にいた銀髪の男――シオンが興奮気味に話しかける。すこし子供っぽい、大きな目が印象的な小柄な男だ。
ここにいる観客の多くは、美貌と強さを兼ね備える【戦乙女 ( ヴァルキリー ) 】ファナの勝利を疑っていなかった。しかし、ファナに賭けても配当が少ないという理由で、対戦相手である【蒼の侍】ゴンゾーに大金を賭けている者も少なくない。
シオンもそんなギャンブラーの一人だった。ゴンゾーが勝てば配当が5倍以上ある事に釣られ、今回彼はかなりの金額を賭けているようだ。攻防に一喜一憂するのも仕方が無い。興奮した様子で話しかけるシオンに目線を合わせないまま、ウドゥンはニヤリと笑みを浮かべた。
「たしかにゴンゾーの奴、気合が入ってる。準決勝でも【小悪魔 ( ピクシー ) 】を倒したしな。だが【戦乙女 ( ヴァルキリー ) 】には勝てないだろう。ほら、決まるぞ」
「えっ!?」
シオンが慌てて視線を戻すと、武士の様な大鎧で身を包んだ長身の男が、長大な日本刀を上段から振り下ろすところだった。大岩でも一刀両断してしまいそうな迫力ある一撃を、対戦相手である白髪の女は右手に装着していた小型盾 ( バックラー ) で簡単に跳ね除けてしまう。
キィン――と金属音をあげながら弾き飛ばされた男は、そのまま大きく体勢を崩してしまった。その隙を逃さず、女は左手に持つロングソードを突き出し、無防備に開いた男の胸を貫く。そのまま間髪いれず刺した剣を抉りまわし、女は一気に上方へ飛び上がった。
ロングソードのトリック【ライジングカット】がクリティカルヒットした。
男の装備する大鎧は、かなりの耐久力を与える装備ではあったが、すでに幾度と無くダメージに耐えてきた体力が底を突く。派手な血しぶきを上げながら男の体は破散してしまった。
その瞬間に円形闘技場 ( コロセウム ) が沸き返り、地響きを起こして揺れる。歓声と怒号が入り乱れるなか、同時に対戦 ( マッチ ) 終了を知らせる表示が、アナウンスと合わせて空中に浮かび上がった。
『勝者 クリムゾンフレア所属・ファナ
配当は1.21倍です。払い戻しは10秒後に自動で行なわれます』
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