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【社会】

平和、反原発 6年前から毎日1編 84歳 詩に託す命 茨城山中侑子さん

自分の詩を読み直す山中侑子さん=茨城県古河市で

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 六年前に夫をがんで亡くし、自らも大腸がんを患った茨城県古河市の山中侑子(ゆきこ)さん(84)は、毎日一編ずつ、大学ノートに詩をつづり続ける。命の大切さ、平和への願い、反原発、そして若い世代へのエール。夫を失った悲しみから逃れようと創作を始めた。「人はどんな境遇でも輝ける」。そんな思いを伝えようと、万年筆を走らせている。 (原田拓哉)

 へいわってすてきだね

 せんせいが生命を拾って下さった/もう充分と思っていた私を/はげまし/もう一度元気でくらせる/生命をいただいた

 (中略)

 あと何年いきられるかな/この少年のためにも/私は残った人生/平和を守るために/がんばりたい/小さな少年の詩に涙がにじむ/それは生きてる/あかし/私はぐっと/拳骨(げんこつ)をつくり/ぎゅっと結ぶ

 今年七月、市民団体「古河市9条の会」会報の一面を山中さんの詩が飾った。詩を読んだ会のメンバーの友人に、掲載を求められたからだ。

 今春、がん摘出手術を受け、久々に自宅に戻って手にした新聞。「ずっとへいわがつづくように ぼくにもできることがんばるよ」。そこに、平和を純粋に考える七歳の少年の詩があった。心を打たれ、再び生きる希望を抱いた気持ちを、素直に表現した。

 夫の死後、悲嘆を紛らわそうと、山中さんは詩を書き始めた。最初の作品は「第二のハネムーン」。十一年に及んだ夫の介護を振り返った。苦労には一切触れず、「感謝」の文字をしたためた。

 県内の詩のコンクールで評価され自信を付けた。やがて詩の創作は日課になる。新聞を丹念に読み、気になる記事を切り抜く。井上靖、向田邦子、曽野綾子…、読書も欠かさない。記事や本から、詩のテーマを考える。

 東日本大震災以後、原発の問題は繰り返し、取り上げる。「福島から避難して、悲しんでいる人が大勢いる」「原発を輸出しようとするなんて、災害のもとを海外に送るようなもの」

 戦争を経験し、平和憲法への思いも強い。毎年、八月十五日の終戦の日の前には、戦没学生の遺稿集「きけわだつみのこえ」を読み直す。「憲法九条があって、七十年の間、日本は平和国家を守ってきた」。現政権の集団的自衛権解釈変更に疑問を投げ掛ける。

 詩は、大学ノート五十冊分を超えた。出版を勧める人も多いが、「自分の思いが少しでも分かってもらえればいい」と、親しい知人だけに感想を求める。

 山中さんは、次代を担う若い世代へのメッセージとして、こんな言葉も詩に刻んでいる。「素直な気持ちを持って、大人になって」「小さい花がきっと輝くはず」

 

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