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2013年12月17日(火)

狙われる 軽度の知的障害の女性

鈴木
「性風俗産業に、いわば食い物にされるケースもあるのが、一見しただけでは分からない、軽度の知的障害がある女性たちです。
望まぬ形で風俗店で働き、金もうけに利用されたあげく、そこから抜け出すことも難しい実態が取材で明らかになってきました。」

性風俗業に狙われる 知的障害者の女性たち

今回、私たちが取材で出会った、アミさん。
知的障害がある、20代の女性です。
2年前から、東京郊外の風俗店で働いてきました。




アミさん(仮名)
「あれ。
あそこ、あっち側。
奥の看板、ピンサロ。」

「どういう仕事をするの?」

アミさん(仮名)
「ぬきの仕事だよ。」

アミさん(仮名)
「療育手帳と、前の携帯。」

アミさんの知的障害は、4段階のうち、最も軽度です。
日常会話はできますが、複雑な話を理解することが難しく、お金の計算や管理もうまくできません。

アミさん(仮名)
「短い、短い、ほんと短い。」

これまで胸を触られるキャバクラや、デリバリーヘルスなど、風俗店を転々としてきました。

アミさん(仮名)
「普通に胸を出したり、触ったり。
そういう店だから、しょうがない。
お金がなかったら生活もできないし、食べていけないから、そうするしかない。」

アミさんは、貧困家庭で育ちました。
幼いころは、酔った両親から毎日のように虐待を受けたといいます。
学校では授業がほとんど理解できず、高校から、障害者のための特別支援学校に通いました。
卒業後は自立しようと、障害者雇用枠で地元企業に就職。
しかし障害が軽かったため、一般の社員と同じ仕事をこなすよう求められました。
3年間無理したものの、限界を超え、とうとう出社できなくなりました。

アミさん(仮名)
「高校卒業して、新しく仕事します。
ここから再スタートだと思っていて、頑張って、夢とかもあったのに、夢が崩れたみたいな。
何かも人生終わったんだな、みたいな。
夢から絶望に変わっちゃった。」

仕事も住まいも失ったアミさん。
1か月ほど、公園で野宿する生活が続きました。
そんな彼女に声をかけてきたのが、風俗店のスカウトマンでした。

アミさん(仮名)
「スカウトの人に、家も、住むところもないと言ったら、住む場所を確保というか、仕事を紹介してあげるねと言われて、そこから(風俗店の)寮生活が始まった。
最初はうれしかったけど、あとあとになってくると、だんだん、だんだん優しさが一転して変わった。」

スカウトマンは、アミさんを店に紹介したあとも、部屋の仲介手数料として、毎月5万円を要求しました。
全く払う必要のないお金でしたが、だまされていることに気付きませんでした。

要求は、次第にエスカレート。
障害基礎年金まで奪われましたが、逃げることはできませんでした。




アミさん(仮名)
「断ったら断ったで、何をされるか分からないし…。
大阪とかに行かせて、帰れなくするぞとか、脅しみたいなことをされたから。」



現在、知的障害者は全国に200万人以上いると考えられていますが、その大半は、見た目には分かりにくい軽度の障害です。
こうした女性たちが、アミさんのように、性風俗産業に狙われるケースは多いのではないか。
私たちは、東京で20年間、風俗店のスカウトマンをしている男性に接触しました。
これまで、数多くの知的障害の女性に住む場所の提供を持ちかけ、スカウトしてきたといいます。

風俗店スカウトマン
「人なつっこいというか、知的障害者の子は。
使いやすいというか、悪いことを言えば、だましやすい。
50万円ぐらい入ってきて、3万円くらいで(危険な)仕事とかやらせたこともあるし、そしたら、こっちは47万円のもうけ。
あとはごはんを食べに連れて行ったり、買い物とかフォローするし。
でも結局はその子のギャラで払っているから、別に痛くもかゆくもない、こっちは。
普通の女の子だったらいろいろ質問してきたりするけど、障害のある女の子たちは、文句を一切言わないから。
それが、いちばんの魅力ですね。」

今回の取材中、アミさんは幸運にも、性風俗産業から抜け出すことができました。
福祉関係者に相談し、スカウトマンに法的手段をとる可能性まで、ほのめかした結果でした。
その後、たまたま空きがあった福祉施設などに仮住まいさせてもらっています。
しかし、今後の仕事や住まいのあてはありません。

アミさん(仮名)
「仕事は今、不景気だから、見つかる、見つからないは分からないけれど、仕事をしてみないと分からないし、不安だらけだし…。」



「また同じことにならないか、(不安が)浮かばない?」

アミさん(仮名)
「浮かんだりはするけど、前の自分には戻りたくないから。
いい方向に、ポンポンポンっていければいいなと思っている。」

知的障害の女性たち どう守るか

阿部
「アミさんは、確かに一見しただけでは、障害があるとは分かりませんね。
そこにつけ込むという、ひどい実態があるんですね。」

鈴木
「ここからは、取材にあたった林原ディレクターと共にお伝えしていきます。
『前のようには戻りたくない』と言っていたアミさん、今後が心配ですよね。」

林原ディレクター
「そうですね。
私も出会った当初は、だまされているという認識をお持ちではなかったので、今後また同じように、困った状況になった時に、ちゃんと助けを呼べるのかというのは、正直、不安なところではありますね。
今回ほかの取材でも、性風俗以外に、行きずりの男性宅を転々とする中で借金を背負わされたりだとか、外国人との偽装結婚に巻き込まれているというような犯罪に利用されるケースもあって、さまざまな被害にあった女性たちの実態が分かってきました。」

阿部
「そうした被害がある中で、何とか女性を救う手だてはないのでしょうか?」

林原ディレクター
「本来、その役割が期待されるのが福祉制度になるのですが、こちらをご覧ください。
現在は、日常生活に困難を抱える“最重度”から“中度”の知的障害者を中心に、支援が行われています。
大半を占める軽度の障害者にまで、目が行き届いていないというのが実情です。
そしてもう1つ、私たちの意識の問題もあると思います。
一見、障害が分かりづらいだけに、表面的な行動だけをとらえて、『だらしがない女性だ』とか、『困った女性だ』などと見てしまいがちです。
しかしその陰に、障害につけ込まれた被害や搾取が隠れていることが多いことを、今回強く感じました。
こうした女性たちをどうやって救い出すのかが、今後の行政や地域社会の大きな課題だと思います。」