米軍が見た日本軍の分析が「社畜」にソックリと思えてならない件

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2014.09.14 19:39 記者 : カテゴリー : 生活・趣味 タグ :

一ノ瀬俊也著「日本軍と日本兵 米軍報告書は語る」(講談社現代新書)

歴史学者の一ノ瀬俊也氏は、著書「日本軍と日本兵 米軍報告書は語る」(講談社現代新書)の中で、米陸軍軍事情報部が戦時中に作戦地域にいる将兵向けに発行していた戦訓広報誌「Intelligence Bulletin(情報広報 以下、IB)」の内容を紹介している。

この広報誌には、当時の主要敵国である日独軍の兵器や戦術思想、組織などについて、前線からの報告などを踏まえた詳細な解説がなされていた。この中には、現代のブラック企業や「社畜」と呼ばれるモーレツ社員の特徴とも読める部分がある。(前編はこちら)
個人の自発性を持たない「戦闘機械の優秀な歯車」

IBは「日本軍兵士最大の弱点」について、「予期せざる事態にうまく対処できないこと」と鋭く分析している。この記述を読むと、高度成長期にモーレツ社員として重宝されながら、いまは時代にそぐわなくなっている「社畜」への批判に読めてならない。

「彼は戦闘機械の優秀な歯車であり、決められた計画を細部まで実行することはできるが、急速に変化する状況に対処する才覚も準備もない。どんな訓練もこの日本兵の欠陥を修正することはできない」

この「生来の弱点」について、IBは「自由な思考や個人の自発性を厳しく退け、管理されてきた人生と、少なくとも部分的には関係がある」と指摘。この弱点は、攻撃でも防御でもはっきり表れているとする。

「攻撃時、日本兵は気味の悪い金切り声や『海兵隊、殺すぞ!』などといった威嚇の叫び声をあげる。その目的は、敵の士気をくじき、自らのそれを高めることにある」

現代の職場において、社訓やスローガンを大声で叫ぶ習慣を若者が「社畜的」と揶揄する声も聞かれるが、このIBの記述にもどこかそれに通ずるものがある。

このような「威嚇の叫び声」は、「敵が後方に逃げることを期待して行われる」ものだが、その一方で、敵がしっかり踏みとどまれば士気が下がって混乱し、逆襲に対して非常にもろくなる。

そして、最初の攻撃を撃退され再挑戦するときにも、戦術の見直しは行われず、当初の戦術を繰り返すという。体育会系の営業管理職が「実行あるのみだ!」などと言って、一本調子な戦術を繰り返して玉砕する姿を重ねてしまう。
マラリア患者の部下を「怠け者」と暴行した上官

また、旧日本軍では、病気になったとしても中々休むことはできなかったようだ。IBには、兵士に「我慢」を要求する旧日本軍の医療の実態を記述した内容もあった。

「厳格なる軍人精神のおかげで、ささいな訴えは軍医の注意を引かない。さらに、もしいたとすればだが、不平を言う者は怠け者呼ばわりされて仲間はずれにされる」

病気で働けなくなった人を「迷惑だ」などと言って非難するのは、現代のブラック企業の思考とあまりにもよく似ている。

ニューギニア戦線でマラリアに罹って休養所に入った旧日本軍の兵士が、上官から「怠け者」と言われて暴力を振るわれたため、脱走してオーストラリア軍の捕虜になったという記述もあった。

また、現代のブラック企業には、自社の商品やサービスを自費で購入し、ノルマを達成する「自爆営業」という慣習があるが、文字通り旧日本軍でも自爆攻撃が横行していた。

有名な「神風特攻隊」以外にも、敵の戦車によじ登って爆発する「肉攻兵」という戦術が取られたようだ。米軍の捕虜になった日本兵は「こんな任務は認められない」と言っていたという。

またIBは、「彼ら(日本兵)の賃金は世界中の陸軍でおそらく一番低い」と言及している。現代の日本人の人件費は、世界的に見て高すぎるといわれるが、それは人件費の低いアジアのような新興国と比べた場合の話だ。

THE PAGEの記事のように、円安もあって日本の最低賃金は先進国でも最低レベルという見方もある。「サービス残業」によって、最低賃金を下回るレベルで働く若者もいることを考えると、旧日本軍同様「一番低い」と言えるのかもしれない。
私たちは「彼らの直系の子孫」なのか

以上のようなIBの記述は、米軍のプロパガンダに過ぎないという見方もできるが、著者の一ノ瀬氏は「たぶん多くの日本兵はほんとうにそういう人たちだったのだろう、と思っている」と明かしつつ、こう綴っている。

「その理由は、彼らの直系の子孫たる我々もまた、同じ立場におかれれば同じように行動するだろうと考えるからだ」

確かにそのような側面も否定できないが、その一方で、旧日本軍のような行動原理に反感を抱き、「戦闘機械の優秀な歯車」を「社畜」と呼んで忌み嫌う人たちが現れているのも事実だ。旧日本軍のような愚行を繰り返さないために、このような流れは大事にしていいのではないか。

(文:ロベルト麻生)

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