円安が進んでいる。1ドル=107円台と6年ぶりの円安ドル高水準にもなった。

 年明けから102円前後で安定していた円相場が8月下旬から円安に傾いてきたのは、日米の景況感の差と、それに伴う金融政策の方向の違いが鮮明になってきたからだ。

 米国の4~6月期の経済成長率は年率で前期比4・2%。中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は10月に量的緩和政策をやめ、来年には利上げに踏み切ると見られる。最近は、従来の想定以上のペースで利上げが進むのではないかとの見方も出てきた。

 対する日本は4~6月期の成長率がマイナス7・1%。日銀は量的緩和からの出口については語らず、黒田東彦総裁が11日には将来の追加緩和の可能性に言及、円安の材料になった。

 円が下がっているのとは裏腹に、株価は上昇傾向だ。円安で、輸出企業を中心に業績が回復するとの期待があるからだ。

 確かに輸出が多い大手自動車メーカーなどでは、1円の円安が100億円単位の収益改善につながる企業もある。みずほ銀行産業調査部が昨年まとめた試算では、10円円安になると、営業利益は上場企業全体で約1兆9千億円増える。

 一方、中小が多い非上場企業では約1兆2千億円減るという。輸入原材料価格が上昇するなど負の影響が大きいからだ。日本商工会議所の三村明夫会頭は記者会見で、円安について「中小企業の立場ではあまり望ましくない」と述べた。

 円安は、輸入食品やエネルギーの価格上昇を招き、消費者の懐にも影響する。

 輸出企業が賃金アップや設備投資の増加などで成長のエンジンとなり、持続的な景気拡大につながらなければ、円安は多くの消費者や中小企業にとって負担増の要因となりかねない。

 円安が日本経済にとって必ずしもプラスと言えないことは、貿易統計などからも明らかだ。多くの企業が生産拠点を海外に移した結果、円安傾向でも輸出は伸びず、今年上期の貿易赤字は過去最大だった。

 それでも日銀の黒田総裁は現在の円安について「日本経済にマイナスになるということはない」という立場だ。輸入物価の上昇は日銀の目標である「物価上昇率2%」の達成を後押しする。何より、金融緩和を起点とした円安・株高はアベノミクスの柱の一つだ。

 しかし、経済状況は、円安の負の側面への配慮が必要になっていることを示している。