「ふうっ……うっ! か、加奈子さん……俺もうダメだっ!」
「……はぁ、はぁ……お、弟君っ! わたしも……もうダメ……です」
二人は共に快楽の絶頂……ではなく、体力の限界を迎えた。
加奈子さんと姫咲スポーツクラブの隣の公園まで走って来た。
お嬢様の加奈子さんが、これほど息を切らせて走る様子を見るのは初めてだ。
「加奈子さん、助かったよ! ありがとう」
「花穂さんと生徒会室にいましたから……さっきも体育倉庫の外に……」
「一部始終見られてたわけか……」
公園の自販機で適当にジュースを買って、ベンチに並んで座っている。
昨日よりやや気温が低いものの、初夏の生暖かい風が頬を撫でる。
「あの方たちは……なぜ弟君に迫っていたのですか?」
「うーん、一言で説明すると交尾がしたかっただけかな?」
小動物のようにチビチビとジュースを飲みながら空を見る加奈子さん。
「花穂さんがおっしゃっている保体のお話ですね……弟君のドリルで穴掘り工事をしてもらって……トンネルが貫通すると……ドリルの先から生命の元になる液が放出されて……花穂さんはいずれそれを受け入れるそうです……」
あの
花穂、ただの変態だな。
弟から受精する気でいやがる……
純心無垢な加奈子さんになんてことを言うんだ。
「加奈子さん……花穂姉ちゃんが言う知識は間違いだから、真に受けないように。さて、ちょっと休憩もできたし、そろそろ帰ろうかな」
「あっ……わたしはお琴の習い事です」
「そうか、加奈子さん昔から琴習ってたよな。それじゃあ、頑張って」
「弟君……今度、部屋にお琴を聴きに来てくださいね……それでは」
立ち上がってペコリと頭を下げて公園を去って行く加奈子さん。
生暖かい風にあたりながら、公園のベンチにふんぞり返り空を見上げた。
加奈子さんが今度部屋に琴を聴きに来てくれと言っていたな……
部屋へ行く、琴を聴く、いい雰囲気になる、押し倒す、服脱がす……
「違うな……」
加奈子さんは大好きだが、劣情をもよおす対象とは違う位置にいる。
姉のように慕い、妹のように可愛がり、女神のように敬慕する。
弟君と呼ばれるのがくすぐったくて、心地いい。
「五月晴れだな……」
青い空は一瞬にして真っ白く染まった。
いや、目の前に真っ白い布地が覆いかぶさって視界が塞がれたのだ。
弾力と温もり、いい匂いがする……
「先輩ですよね? 苦しい……乳圧で窒息死は嫌ですよ」
ベンチに座ったまま後ろを振り返ると九条先輩がブラウス姿でそこにいた。
手には鞄とブレザーを持っている。
「先程はすまぬ、蒼太殿にはしたない姿を見られたな」
はしたない姿は昨日布団の上で見せ合ったでしょうが……
「先輩、なんですかさっきの?
紗月姉や花穂姉ちゃんとバトり出して」
「昨日、言ったではないか。あの姉妹から蒼太殿を奪う。ゆえに宣戦布告したのだよ」
宣戦布告の意味がわからないと思っていた矢先、先輩が携帯電話のメールを見せてきた。
送信先:青山紗月 青山花穂『蒼太殿との交際と交合を許可していただきたい。許可がなくとも、奪う覚悟。ライバル宣言、宣戦布告と思われたし』
確かに先輩と交際すれば、姉たちから逃れられる……わけがない。
板挟み、乳挟みになるだけじゃないか。しかも、メール文中の交際はいいとして、交合を許可って堂々とセックス宣言するところがとんでもないな。
「やれやれ……」
「青山姉妹からの返信メールがこれだ。見たまえ」
青山紗月 Re:『蒼ちゃんに手を出せば春奈でも容赦しない! 真剣で決闘するっ!』
青山花穂 Re:『蒼太はわたしのものです。手を出せば先輩といえど抹殺しますっ!』
「なんなんだこれは……姉ちゃんたち滅茶苦茶だな」
真剣での決闘に、抹殺……物騒極まりない。
「よく読みたまえ。手を出すなと書いてあるだけなのだ」
「は?」
「だから、今しがた胸を出した。手は出さぬ、出すのは蒼太殿だけでよい。わたしの
破瓜は貴殿の豪刀でと決めておる」
――神様、仏様、女神様、加奈子さん……
――危ない人がどんどん増えているような気がする今日この頃です……