挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
R18装殻精霊ロストエンジェル 作者:山茶花つつじ

プロローグ

 その日はうららかな春の陽気だった。数日前まではとても寒かったが、突然、全てのわだかまりが雪解けしたかのように、日本は桜の香に包まれ浮かれ始めた。

「お願いしまーす!」
 どこまでも澄んだ青い空に、女子生徒達のはつらつとした声が響いた。
 とある学園の校門からロータリーに続く通路では、サークルの新入生勧誘が行われていた。
 通路の両脇には、賑やかな配色の立て看板が立ち並ぶ。文字だけのものもあれば、アニ研や美術部のかなりハイレベルのもの、やっつけで描かれた前衛的なものなどさまざまだ。
「来たれラグビー部へ!」
「えい、セイ! えい、セイ!」
 運動部や応援部の勇ましい声とパフォーマンス。
 急あつらえで編成したのか、吹奏楽部の微妙に揃わない演奏も鳴り響く。
 辺りは彼らの若々しい熱気で溢れ、賑わっていた。勧誘ができるのは入学式から一週間。今日がその最終日とあって、先輩諸氏は最後の追い込みとばかり、必死に勧誘を続けた。だがこの時期ともなると、やる気のある新入生達は大方どこかに決めていて、残りは全く入る気のない者が殆ど。となれば、駆け込みは期待できそうにない。それでもこの催しは、一年の幕開けとして祭りのように派手に行われるのだ。

 その喧騒から離れた校舎裏の変電施設の影では、一人の男の子と、二人の女の子がやや緊迫したシチュエーションになっていた。全員、ここ聖アレクサンドリア学園の制服を着ている。
 男の子はアッシュブルーの詰襟だがボタンはなく、どちらかというと牧師のような服装で、女の子もグリーンを基調にした、修道女を思わせる地味な色合いだが、ところどころにプリーツやレースがあしらわれており、今風のかわいらしさが出ている。スカートの丈は残念ながら膝下まであるが、裾はふわっと広がっており、黒いタイツに茶色のブーツを穿いている。全体として清楚な中にエロスが滲んだコスプレのようにも見え、なかなかどうして目の付けどころがマニアックなデザインだ。
 女の子の一人が、男の子に近づいて行く。男の子は変電施設の金網のフェンスにもたれかかり、逃げ場を失った形になっていた。彼女の肩ぐらいの髪は、軽くカールのかかったフレンチミディで、赤みの強いゴールドのヘアカラーがかけられていた。ぶっちゃけて言えば茶髪で、かわいいが服装とは裏腹にいかにも遊んでいそうな感じだ。もう一人の女の子は、さっぱりとしたアッシュブラウンのショートヘアをランダムにまとめ、快活でキュートなイメージに仕上げている。そして、前方の女の子の背後でその空間をガードしているようにも見える。二人とも頬を少し赤らめ、小悪魔的な表情で男の子の反応を窺がっている。
「朝宮くん…想くんって呼んでいいかな? 昨日の話、考えてくれた?」
 手前の茶髪の女の子が、飼い主にじゃれつく猫のような声で男の子に語りかけた。
「ええと、あの…」
 男の子は茶髪の女の子と視線が合わせられず、彼女の胸の辺りを見た。
 少し小柄で、百六十センチくらい。体のラインは細く、肩は撫で型で女の子のように華奢だった。そして何より全体の色素が薄く、とてもよく目立つ。髪は薄茶色で、細い髪の毛は天然パーマがかかったようにランダムに緩いカーブを描き、瞳の色は赤みを帯びた薄茶色で、眉も細く、日本人離れしている。肌はやはり女の子のように色白で、うっすらとピンクがかっている。顔立ちはとても高校生とは思えないほど幼く見える。肉食女子ならずとも、女の子が飛び付きそうな容貌だった。

 茶髪の女の子は、男の子の視線に気づいた。
「…やだ、わたしの胸、気になる?」
 男の子は一瞬、彼女を見た。そして、色白の頬をピンクに染めた。
「えっ? ちがっ…。そういうわけじゃ、ないです」
 そして慌てて横に視線を逸らした。
 彼女はクスッと笑った。
「いいのよ。…わたし、知ってるんだから。想くんのウワサ」
 茶髪の女の子は下唇をはむっと噛んで、離した。濡れた唇が、ぷるんと揺れた。
 それから彼女は、さらに男の子に近づいた。
「……」
 男の子は体をこわばらせ、フェンスを掴む手に力を加えた。男の子は限界までフェンスにもたれかかった。キリリとフェンスの軋む音がした。
「わたし、想くんと仲良くなりたいな…。お互いのこと、知り合いたい」
 彼女はおでこがくっつくほど顔を近づけ、男の子の薄茶色の瞳をじっと見つめた。
「かわいい…食べちゃいたいくらい…」
 彼女の上気した息が、男の子の顔にかかった。アプリコットミントの香りが漂った。
 男の子の視線は泳いだ。
(ど、どうしよう、このままじゃ…)

 その男の子、朝宮想あさみや そうは、女の子が苦手だった。いや、男色趣味というわけではなく、女の子が怖いのだ。
 なぜなら───。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ