朝日新聞が「吉田調書」の記事を取り消し、謝罪したことについてウォールストリート・ジャーナル(電子版)は11日、東京発の記事で、「安倍晋三首相の政策に批判的な新聞社の社長が誤報を謝罪した」などと紹介した。ニューヨーク・タイムズ(電子版)は「読者の信頼を傷つけた」などとする木村伊量社長の発言を取り上げた。

 ウォールストリート・ジャーナルは、朝日新聞について「原発と安倍政権が計画する再稼働に批判的だった」などと指摘。撤回した記事中で、事故から4日後、福島第一原発にいた東電社員らが吉田所長の待機命令に背き、福島第二原発に「撤退」したと報じたことについて、「原発を運営する東京電力に疑問を投げかけるエピソードとして引用した」などと分析した。

 ニューヨーク・タイムズは、朝日新聞が原発事故後、論説面で反原発の論調を掲げてきたと指摘。吉田昌郎氏(故人)の証言の記事について、保守系の他紙から「海外メディアの間に深刻な誤解を生んだ」などと批判されていたとした。同紙は5月、朝日新聞の報道を引用する形で、「パニックになった作業員たちが逃走」などと報じていた。

 また、朝日新聞が8月、韓国・済州島で慰安婦を強制連行したとする吉田清治氏(故人)の証言を虚偽と判断し、関連記事を取り消したことについて、強制連行を否定する他紙などから激しい批判にさらされたことや、ジャーナリスト、池上彰氏の連載コラムの掲載を見合わせた判断をめぐり、読者だけでなく社員からも批判がでたことも紹介した。

 両紙とも、安倍首相が11日のラジオ番組で、個別の報道内容について発言すべきではないとした上で、「慰安婦問題の誤報によって多くの人が苦しみ、国際社会で日本の名誉が傷つけられたことは事実と言ってもいい」などと述べたことを取り上げた。(ワシントン=小林哲)

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 韓国紙、中央日報は12日付朝刊で「朝日新聞また誤報で波紋…社長退陣示唆」との見出しで報じた。慰安婦を強制連行したとする吉田清治氏(故人)の証言を虚偽と判断し、関連記事を取り消したことに続く誤報だと紹介。朝日新聞が「危機を迎えている」と伝えた。

 東亜日報は12日付朝刊で「朝日新聞また誤報記事取り消し」の見出しで報道した。杉浦信之取締役の編集担当の職を解き、木村伊量社長は改革と再生に向けた道筋をつけた上で進退を決めるなど事実関係を淡々と伝えた。

 聯合ニュースも11日夜に「朝日新聞 また誤報の波紋」との記事を配信した。「朝日新聞は最近、1カ月の間に『吉田』という名前の人物をめぐる2件の大型の誤報の波紋で信頼に傷を負った」と指摘した。(ソウル=東岡徹)