産婦人科を始め、多くの関係者から望まれていたHPVワクチンだが、その副作用の頻度の多さや程度の強さが社会問題となっている。群馬県保険医協会でも3月、4月の役員会議で議論となった。予防接種という医師の深くかかわる分野で社会的な問題提起がされているときに、この問題の実態を明らかにし、教訓を学ぶ事は重要だと考え、今回の特集を組むに至った。ここをスタートとし、さらに多くの医師の意見が出ることを期待する。 (広報部)
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Human Papillomavirus(HPV)ワクチン接種後発症する
HPVワクチン関連神経免疫異常症候群
(HANS:ハンス症候群)の病因と病態を探る
京医科大学医学総合研究所 所長
一般社団法人日本線維筋痛症学会 理事長
西岡久寿樹
●プロローグ
筆者と子宮頸がんワクチンの関わりはあまりにも突然かつ偶然であった。
昨年度末から我々の外来に若年性の線維筋痛症を思わせる患者が散見するようになった。激しい疼痛におびえた目で母親に付き添われて外来を受診する少女達は、ほぼ全員が数か所の医療機関を転々とし、心身反応、自律神経障害などと診断をされていた。少女達の症状は、線維筋痛症の診断基準を満たすものの線維筋痛症だけでは説明のつかない突然の失神や記銘低下などの多彩な臨床症状を示していた。
筆者は外来で問診を行う際に必ず引き金や誘因を聞く。少女たちに「引き金となったのは何? 」と問診すると「痛いワクチンを打たれてからです」と答える。次に「何のワクチンですか? 」と聞くと「子宮頸がんワクチンです」と答えるというやり取りが共通のキーワードになった。
●子宮頸がんワクチンとは
子宮頸がんワクチンの正式名称はヒトパピローマウィルス(HPV)感染予防ワクチンである。少女達の母親の多くは、このHPVワクチン接種は1クール(3回)接種すれば一生接種しなくていい、子宮頸がんになるリスクが全くなくなる、定期検診は受けなくてもいいと思い込んでいて、多彩な副反応などは毛頭考えていなかったという。
その後、この「HPVワクチン」と複雑な臨床症状の関わりを調べていくうちに驚くべきことがわかってきた。HPVワクチンは現在2社から販売されており、その一つは「サーバリックス」、もう一つは「ガーダシル」と称され、それぞれ9年毎、4年毎に再接種が必要であり、定期検診も通常通り受ける必要があるとされている。しかし、この重要な事実は一般に周知されていない。また、子宮頸がん発症に対する有効性も担保されていないという国会での議論が議事録にも明確に書かれている。従って、国がワクチン接種を推奨した結果、定期検診の受診率が下がり当然子宮頸がんが増えるという不条理なワクチンである。また、HPVワクチンはそもそも性感染症予防のワクチンであり、がん予防のワクチンではないという基本的知識のいわゆるインフォームドコンセントも接種時に全く受けていないに等しい。まして副反応のことなど当然説明されていないのである。
●実態調査に向けて
直観的にこれは重大なことに発展すると思った筆者は、実態調査が必要と感じ、ただちに日本線維筋痛症学会(FM学会)と難病治療研究振興財団の共同事業として、リウマチ膠原病、小児科、神経内科、精神科などをはじめとする各領域のエキスパートを集めた病態究明研究チームを立ち上げた。また、筆者を含むFM学会理事が所属している3機関で若年性線維筋痛症患者を対象に予備調査を本年3月から5月にかけて実施した。
その結果、わずか2か月間3機関のみでも25名(内、詳細なデータ解析が可能であった症例は15名)の患者が若年性線維筋痛症として治療を受けていたことが判明した。一方「被害者の会」の発表によればHPVワクチン接種後副反応の症状を訴えている患者は300名近くにのぼるとのことであった。
また、350万人という接種者のことを考えると潜在的な患者が顕在化した場合、膨大な人数となる可能性すらある。おそらくワクチン史上最大・最悪の「薬害」問題になる可能性があるにも関わらず厚労省の「動き」は極めて鈍かった。その理由の一つは、厚生労働省副反応検討部会(桃井真理子委員長)の「心身反応」という結論を何の根拠もなく、むしろこのことで強引に幕引きをしようとしていた様子が種々の議事録から伺われる。
●HANS症候群の臨床症状
まず、全身疼痛に始まり口内炎、記憶障害、関節炎、学力低下、自律神経障害、睡眠障害などの様々な症状を発症し、その診断に苦慮した医療機関から若年性線維筋痛症、心身反応、心因性疼痛、小児うつ病などの病名で種々な医療機関を受診している。
一方、前述した副反応検討委員会は驚いたことにHPVワクチン接種後副反応の調査を接種後30日間しか実施しておらず、その後に生じる重大な副反応はほとんどの症状が既存の疾患に当てはまらないことからその全てを「心因性」とし、本年1月に副反応は「心身反応」であると結論づけ公表した。しかし、我々の予備調査では、重篤な副反応が接種後平均して8.5か月を経過して発症しており、中には、第1回接種から39か月後に徐々に重篤な副反応の症状が進行している症例もあり、HPVワクチン接種後副反応は、接種後かなりの時間を経過しても発症することが明らかとなった。また、時間の経過が長いほど高次脳機能障害などの重篤な症状を呈していることが示唆された。
副反応検討部会の「心身反応という結論」はあまりにも臨床の現場を知らず、はじめに「心身反応」という結論ありきの暴論であるとし、重大な禍根を残すことは必然である。ただちに筆者はFM学会の責任者を担う立場から田村厚生労働大臣に実態調査の要望書を送った。筆者のオフィスに説明に訪れた厚労省の担当局長及び担当医系技官の説明を聞いてあきれ果てるとともに激しく追及したが、彼らは副反応検討部会の結論であると繰り返すのみであった。
●HANS症候群の提唱へ
我々研究グループは、HPVワクチン接種後約1年で起こる副反応がリウマチ膠原病、小児科、神経内科、精神科などをはじめとする他分野に亘る「広範囲の痛み」「慢性疲労」「記憶障害」「自律神経異常」などが共通する症状であることから、この症状を一つの概念としてまとめ「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS:ハンス症候群)」という新しい概念として、本年6月にモスクワで開催された国際関節炎・リウマチ会議で筆者が提唱した。ロシアをはじめとするヨーロッパ諸国でもHPVワクチン接種後副反応が多数認められており、この概念は大きな話題としてロシア国内に波及している。
筆者の海外ネットワークからの情報ではHPVワクチン副反応は国際的にも大問題となっており、海外では何の問題にもなっていないという厚労省の説明は事実を隠ぺいしているか「無知」であったかのいずれかである。フランスでは政府主導のHPVワクチン接種後副反応の公聴会が本年5月末に開催され、公聴会で議論されたワクチンのアジュバント成分に重大な問題が存在していたことを記者発表の形で公表されているなどが大きな問題となっている事実を周知していなかったという厚労省の説明は全く不可解極まる。
HANS症候群は、線維筋痛症の広範囲性疼痛は診られるが、この他に物忘れ、記憶力低下、学力低下、人格異常などの「高次脳機能障害」を示唆する症状が全体の7割で認められる。また、他にも自律神経障害など多彩な臨床症状を呈していることから、患者数把握、臨床症状の把握、病態解明、治療法確立に向けてFM学会が学会員および学会診療ネットワーク参加医療機関を対象に全国規模の実態調査を本年6月より開始した。
●HANS症候群予備診断基準の提唱
HANS症候群の予備診断基準は、HPVワクチンを接種していること、HPVワクチン接種前は通常の生活が可能であったことを大前提とし、詳細は近く専門誌に発表する予定である。
HANS症候群の概念は、症候群という一つの部屋に一定の診断基準を満たす症例を集約させることにより疾患として成立させるところにある。これにより、疾患として周囲に認識され、集約された臨床症状をはじめとするデータにより病因・病態の解明、さらには今、一番苦しんでいる少女達を救うために治療の確立の研究を進めていきたい。
多くのリウマチ性疾患や線維筋痛症もかつては「心因性」とされ、詐病、なまけ病と言われており、医師をはじめとする医療従事者の間でも認知度が低い疾患であった。しかし、筆者はまず原因不明の慢性の痛みの出る症例を「線維筋痛症候群」という部屋に集約させ、これを筆者らのグループが産官学と共同で調査・研究を行なった結果、この10年間で病態解明や治療法が確立されつつある。また、医師国家試験の出題項目にも含まれ、治療薬が保険収載されたことから「線維筋痛症」という疾患として確立し認知されるに至っている。
HANS症候群も同様に症候群として症例を集約し、「心身反応」という先入観を排除して調査・研究を進めることにより疾患の病態解明、治療法の確立を目指していきたいと考える。今後、種々な医療機関に慢性疼痛を訴える若年女性が外来を訪れた際は、必ず「HPVワクチン」の投与後の有無を問診に加えて頂き、ご連絡をいただけると幸いである。
▉連絡先
一般社団法人難病治療研究振興財団
ワクチン接種後副反応医療相談窓口
医療相談フォームがダウンロードできます。
http://www.jmrf-nanbyou.org/jigyou_03.html#01
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子宮頸がん予防ワクチンについて――善意の小石
産婦人科医師
浅ノ川総合病院
打出喜義
子宮頸がん発症に、ヒトパピローマウイルス(Human Papilloma Virus:HPV)持続感染の関与が明らかとなり、我が国でも2009年12月にはサーバリックスが、2011年8月にはガーダシルが「子宮頸がん予防ワクチン」として発売になりました。
●子宮頸がんの発症
子宮頸がん発症のリスク要因としては、初交年齢が若い、性パートナーが多い、多産、免疫不全状態、喫煙などが挙げられ、また、経口避妊薬の使用や低所得との関連性も指摘されてはいますが、その主因は、15種とも言われるハイリスク型HPVの持続感染とされています。性交を機にHPVに感染しても自覚症状はなく、また、殆どのHPV感染は数年で自然に治るとされていますが、一部の感染は十年の単位で持続し、子宮頸部では異形成といわれる前癌病変を経て子宮頸がんを発症させるようです。
そこで、このHPV感染を「ワクチン」で予防し、子宮頸がんを撲滅しようとする試みが開始されました。
●「ワクチン」について
我が国西洋医学の発祥は「種痘所」とされ、牛痘を「ワクシニア」と呼んでいたことから、感染症予防用医薬品は「ワクチン」と呼ばれるようになりました。この種痘のお陰か天然痘患者は激減し、1980 年には天然痘の撲滅が高らかに宣言されるまでになったのです。ワクチンの勝利の宣言で、以来、種々のワクチン接種が推奨されるようになってきています。
ところで、これらワクチンには大きく分けると「生」と「不活化」の2種類があって、その製造法としては、ふ化鶏卵培養法、動物接種法、細胞培養法、遺伝子組み換え法の4法が知られています。
「子宮頸がん予防ワクチン」は最新の遺伝子組み換え法で作られており、サーバリックスのHPV-16 型、18 型のL1カプシドたん白質抗原は、昆虫を主な宿主とするバキュロウイルスをイラクサギンウワバ(蛾)由来細胞内で増殖させ作られます。このL1たん白質は一連のクロマトグラフィー及びろ過での精製工程で会合しウイルス様粒子(VLP)を形成、これとAS04アジュバント及び賦形剤を配合し調製されたものがサーバリックスです。
このような遺伝子組み換え法の長所としては、製造期間が大幅に短縮できること、製造に感染性のあるウイルスそのものを用いないことから安全なワクチン生産が可能とされていますが、その一方で「生」ワクチンに比し抗体誘導能が低いので、抗原性増強剤(アジュバント)が配合されることになります。サーバリックスの AS04は、HPV-16型、18型の抗体産生能を高め、持続させる目的で、新しく開発されたものです。
●善意の小石
天然痘のように、ワクチン接種による子宮頸がん撲滅を期待してか、厚生労働省は2010年度から「ワクチン接種緊急促進事業」を実施しました。この事業の対象女子は、無料もしくは低額でこのワクチン接種が可能となり、2013年4月には、国や自治体が集団防疫の目的で接種を強くすすめるワクチンの一つとして「定期接種化」されることになりました。ところが、因果関係を否定できない持続的な疼痛がHPVワクチン接種後に特異的に見られたとして、2013年6月14日付厚生労働省通知では、国民に適切な情報提供ができるまでの間、定期接種を積極的に勧奨すべきではないとされるに至りました。
ところで、このHPVワクチン接種後の持続的疼痛は「副作用」なのでしょうか。もし、ワクチン接種部位に腫脹や疼痛が生じれば、それをワクチンの副作用と診断しても異論はないでしょう。しかし、ワクチン接種後しばらくして発症した全身の持続的疼痛や不随意運動、記憶障害、極度の倦怠感などをその副作用とするには、異論も出てきます。ワクチン接種とは無関係に、たまたま発症した可能性を否定することが出来ないからです。ここらに、いわゆるワクチン“推進派”と“被害者”の間に齟齬が生じる所以があります。
ワクチンを医学の進歩と捉え病魔から人を救おうとする“善意”の立場からすると、例えそれがワクチンの被害であっても、それを過小に評価しようとする傾向があるように思えます。自分たちの折角の“善意”が踏みにじられると感じてしまうからでしょうか。一方の“被害者”の立場からすれば、ワクチン接種を機に症状が出たのですから、どうしても被害だと思えてしまいます。身に降り掛かった不幸の原因を知りたい、治りたいと思うからです。
●地獄への道は善意の小石で
敷き詰められている
ワクチン接種後、酷い症状に苛まれている少女、ご家族の苦しみは如何ばかりかと思います。地獄の苦しみに苛まれていると喩えても良いでしょう。こうした苦しみが、ワクチンで子宮頸がんを予防しようとする小さな善意により、もたらされたとしたら……。
HPV感染はマイルドですから、子供を産めなくなったり命が亡くなる程までに子宮頸がんが進展するには、十年単位の年月を要します。その間、子宮頸がん検診を受けさえすれば前がん状態での診断は可能ですし、同時にHPD-DNA検査を併用すれば細胞診での偽陰性率は減るとされますから、このような子宮がん検診を徹底させるだけで「子宮頸がんの予防」は可能となるはずです。その上、HPVワクチンの接種だけでは子宮頸がんにならないとは断言できないのですから、子宮頸がん検診の必要性はHPVワクチン発売によっても何ら低くなってはいない これまで我が国では、子宮頸がんの予防にと約300万人にHPVワクチンが接種されたようです。一人当たり5万円ほどですから約1500億円が使われた訳ですが、我が国の子宮頸がん検診率は二十数%と先進国中最低とされていますから、まずは、この浄財を検診率向上の施策に回すべきだと思います。
多少の問題はあるとは言え、まず女性が自分で腟分泌物を採取してその中のHPV−DNAをチェックする自己検診法を導入し子宮頸がん検診率向上につなげようとする試みも検討されているようですから、空気感染するような高伝染性感染症とは言えないHPVの場合には、HPV感染の「予防」ではなく、HPVによってもたらされる疾病の「早期発見」の方向へと舵を切るべきだと思われます。
ワクチン接種に不可避とされる重い副作用は、このがん検診では、決して、起こらないからです。
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HPVワクチンの副反応におけるアジュバントの関与について
前橋協立病院 小児科
矢島昭彦
ヒトパピローマウィルス(HPV)ワクチンは子宮頸がん予防ワクチンとして開発され、国内ではグラクソ・スミスクライン(GSK)社のサーバリックスが2007年9月26日付で承認申請がなされた。しかし、この時点ではまだ臨床試験は進行中で、最終成績は出ていなかった。にもかかわらず承認申請がなされたことは極めて異例なことで、当時の厚労省当局の強い導入への指導が推測される。そして2009年12月には国内発売となり、2011年8月には世界シェアーの8割を占めるMSD社のガーダシルが発売され、2013年4月1日からは定期接種となった。しかし、ワクチンとの因果関係を否定できない持続的な疼痛がHPVワクチン接種者に特異的に見られたことから、同副反応の発生頻度がより明らかとなり、「国民に適切な情報提供ができるまでの間、定期接種を積極的に勧奨すべきでない」と、2013年6月14日付で厚労省から勧告が出され、本ワクチンをめぐり混乱の中にある。
では実際どれくらいの副作用があるのか。表1に国内治験によるもの、表2に国内市販後調査によるものを示した。両者ともかなりの副反応があり、中でもサーバリックスは種々の全身反応の発生頻度が高いのが目立つ。
いま特に問題となっている持続的な疼痛には、①複合性局所疼痛症候群(CRPS)と②接種部位以外の広範な疼痛がある。①については英国との比較において差はないが、②については日本の発生頻度が高いと思われる=表3。①と②についてサーバリックスとガーダシルの2剤に発生頻度の差はないと報告されている。
次にワクチンの副反応の原因について考えてみる。HPVワクチンのような不活化ワクチンの安全性をみる場合、抗原そのものには不活化が十分ならば毒性はないはずなので、ワクチンの添加物、中でも免疫増強剤であるアジュバントが大きな問題となる。
それではなぜアジュバントは免疫獲得に必要なのだろうか。初回免疫において、精製した微生物抗原のみを接種しただけでは抗体産生誘導はおこらない。そこで、適当な物質で刺激を行うことにより、十分な抗体産生に導き、免疫学的記憶も備えた免疫が獲得される=図1。
もう少し詳しく説明すると、樹状細胞(抗原提示細胞)からT細胞にシグナル1(抗原提示)、シグナル2(共刺激)、シグナル3(サイトカイン)の3つのシグナルが働いて、T細胞はエフェクターT細胞(Th1、Th2、CTL等)へと分化し機能を発揮できるようになる=図2。このシグナル1、2、3を誘導、増強させる役割を演じるのがワクチンではアジュバントなのである。
現代のアジュバントには①免疫賦活化剤と②デリバリーシステムの二つが存在する。①はワクチン抗原に対する免疫反応を増強する物質で、Toll様レセプターリガンドである細菌由来物質や微生物の核酸(RNA、DNA)、 サイトカイン、サポニン等である。②はワクチン抗原あるいは免疫賦活剤を最適な条件で免疫系に提示するために薬物送達をするための運搬担体で、アルミニウム塩(アラム)、乳化剤、リポソーム、ヴィロゾーム、生物学的に分解可能な人造ポリマー小球、ISOM(Immune stimulating complex)等を指す。全粒子型の不活化ワクチン(日本脳炎や不活化ポリオワクチン)では、自身のRNAがアジュバントの役割をしていることになる。全菌体の百日咳ワクチンは、百日咳死菌そのものが強力なアジュバントであり、副作用が強いためわが国では使用中止となった経緯がある。
現行のワクチンに含まれるアジュバントを示す=表4。最も古く多くのワクチンに使用されているのはアルミニウム塩(アラム)である。アラムの詳しい作用機序はいまだ不明だが、大阪大学の石井健らの研究から、局所の好中球浸潤と壊死、そこから生じたDNA、PGE2をはじめとするさまざまな因子がT細胞をTh2細胞へ分化させ、IgGとIgEの産生を促進させると述べている。(NatureMedicine)。したがって、アラムにはIgEによるアレルギー反応のリスクを増大させる作用も合わせ持つことになる。例えば、DPTの早期接種に伴うゼラチンアレルギーの成立は記憶に新しい。
サーバリックスには、サルモネラ菌の細胞壁から単離されたリポ多糖体(LPS)由来の複合体のlipidA解毒型誘導体であるMPLとAl(OH)3の複合体のAS04がアジュバントとして使用されている。現在市販されているアジュバントのうち最も強力なもののひとつである。GSK社はMPLの副作用はLPSの約2000分の1なので安全と言っているが、サーバリックス製造販売承認申請書添付資料の中で、ビーグル犬によるMPL投与実験を行い、バイタルに変動があったにもかかわらず生理学的に意味のある変化ではないとして無視する態度をとっている。
また、マウスの実験でMPLおよびAS04投与は樹状細胞に共刺激分子をAl(OH)3単独投与の2~4倍強く発現させ、また種々のサイトカイン(Signal3)の産生にも用量依存的に上昇させた。
このような強力なアジュバントを含んだワクチンは、生体に過剰免疫反応や異常免疫反応を誘発する可能性が高く、また個体間や人種間におけるアジュバント反応性の相違を考慮すると、より一層慎重な構えが必要であると考える。近年急速に進歩してきた自然免疫学の成果に学び、より適切な臨床試験を十分な例数で行うことがまず重要である。発売後もワクチンの副作用の発見、評価のためにしっかりとしたサーベイランスシステムを早急に構築する必要がある。ワクチン被害者を一人でも少なくする努力が、国と企業に求められる。
表・図
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◆WHOの見解/2013年12月(抜粋)
Global Advisory Committee on Vaccine Safety, report of meeting held on 11-12December2013
…… In summary, GACVS was presented with a series of cases of adverse events following administration of the HPV vaccine. Multiple studies have demonstrated no increase in risk of autoimmune diseases, including MS, among girls who have received HPV vaccine compared to those who have not. The Committee remains reassured by the safety profile of the vaccine, but noted the importance of continued surveillance and epidemiological investigation with an emphasis on the collection of high quality data; such data are essential for interpretion of any adverse events which may occur following vaccination. Allegations of harm due to vaccination based on incomplete information may lead to unnecessary harm when effective vaccines are not used. ……
*上記のような見解に至る欧米の基礎データに関心のある人は、インターネットで「 WHO GACVS」をキーワードに検索ください。
■群馬保険医新聞2014年7月号