九州電力川内(せんだい)原発1、2号機の再稼働をめざす政府の手続きが先週、続いた。

 まず、原子力規制委員会が新規制基準に適合する、とする審査書を正式決定。直後に原子力防災会議が事故時の住民避難計画について了承し、小渕経済産業相は川内原発の再稼働を政府として進める、と明記した文書を鹿児島県知事と薩摩川内市長に交付した。

 あまりに前のめりに過ぎないか。

 規制委の川内原発審査書は、巨大噴火の可能性や予兆観測について火山学者の異論を振り切ってのものだ。具体的な予兆観測の方法は決まっていないし、万が一、予兆が疑われた場合に核燃料をどこに運び出すか、その場所も決まっていない。

 自治体任せだった避難計画に、自衛隊による現地急行を盛り込むなど国の関与を強めたのは当然である。とはいえ、実際にどの程度使える計画になったのか。放射線量が上がった場合の避難用にバスを確保する計画だが、避難者も運転者も被曝(ひばく)リスクが高くなっていいのか。

 東京電力福島第一原発の事故について、政府の事故調査委員会が実施した関係者の聴取結果書(調書)も先週、一部が公開された。

 当時の吉田昌郎(まさお)所長(昨年7月死去)の調書と政治家の調書を併せ読むと、「だれも助けに来なかった」(吉田氏)と孤立感や絶望感を抱きながら奮闘した現場と、東電本店や官邸との間の意思疎通が悪かったことがわかる。

 意思疎通を巡る問題は、通信手段の強化など規制委の新規制基準に反映された部分もある。

 しかし、電力会社と政府の役割分担の明確化や、自衛隊や消防との連携強化など、規制委の権限が直接及ばない分野での改善は十分ではない。再稼働の日程が浮上する今、早急に克服すべき課題と言える。

 もう一つ、大きな教訓として読み取れるのは、原発事故のマニュアルにしても、住民の避難計画にしても、文書にまとめただけでは、危機的状況に至ったときに使いものにならない、ということだ。使えるようにするには、実地訓練を重ねなければならない。再稼働前にもその後にも必須の取り組みだ。

 政府事故調の調書の公開は、今後も続く。何を教訓として得て、事故時の詳細なマニュアル類にどう反映したのか、政府は改めて説明するべきだろう。

 川内再稼働を前に、「想定外」を「想定内」に変える努力の余地は、まだまだ大きい。