それにしても、まだ疑問が残る。朝日が撤回・謝罪した「吉田調書」の原発作業員の「命令違反・撤退」報道。「意図的に記事をねじ曲げたのではないか」「方向性があって都合のいい部分を引っこ抜いたのではないか」――。きのうの緊急会見で相次いだ質問に、木村社長は「記者の思い込み、チェック不足があった」との説明に終始したが、本当に理由はそれだけなのか。
政府事故調が事故当時の吉田昌郎所長(故人)に30時間近く聴取した「吉田調書」は、それこそA4判で400ページ超にのぼる膨大な分量だ。中には、原子力安全委員会の班目春樹委員長がパニクって、「早く(原発に)水を突っ込め」とわめき散らす様子や、菅直人元首相が乗り込んで現場をかき回す様子が生々しく出てくる。
ところが、朝日は膨大な調書の後半に着目し、震災4日後の未明に、〈第一原発にいた所員の9割にあたる約650人が吉田氏の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発へ撤退していた〉と断じた。