労働力人口の減少で高齢者の就労が求められる中、かねてシニア層の働く意欲を阻害するといわれてきたのが「在職老齢年金」だ。定年後も会社などで働き続けると、場合によってはその間、厚生年金の受給額が減らされてしまう。聞いたことがある人もいるだろうが、勘違いしている部分も多い。仕組みを知ったうえで自分に合った働き方を選びたい。
「まさか、ゼロになるなんて……」。新潟県に住む59歳の会社員、福岡正和(仮名)さんは、定年後も現在の勤務先で働き続けるつもりだが、働き方によっては厚生年金が支給停止になる可能性があることを教えられて驚いた。
会社から示された選択肢はフルタイムで働くか、週3日に減らすかの2つ。福岡さんの希望はフルタイムだったが、給料が多いと年金ゼロもありうるというので週3日勤務を選んだ。給料は減るが年金は全額もらえる。空いた時間は家業である農業に力を入れることにした――。
60歳を過ぎても働き続ける人が増えている。総務省によれば、男性は60~64歳で7割以上、65~69歳でも約半数が働いている(グラフA)。2013年4月からは、希望者を65歳まで雇用するよう企業に義務付けられ、高齢者の就労はさらに増える見通しだ。
働きながら厚生年金を受け取ろうとすると、その間の年金が減額されることがある(基礎年金部分は減らされない)。在職老齢年金という。「セミナーなどで定年前の社員に説明する企業もあるが、詳細は浸透していない」(社会保険労務士の井戸美枝氏)