安倍首相は周辺に、「増税しても税収が増えなければ意味がないじゃないか」と漏らしている。筆者はまさにこのポイントを以前から指摘してきたし、その論考は安倍首相の手元に届いているとも、首相周辺から聞いた。1997年度の消費税増税後、消費税収の増収分よりも法人税、所得税など他の基幹税収の減収額が大きかったために、増える社会保障関係費もまかなえず、財政収支が大きく悪化した事実は重い。
財務官僚が事実上支配する内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」(7月25日付)で経済成長率1に対する一般会計税収の伸び率(税収弾性値)を1とし、消費税率を継続的に引き上げないと財政赤字膨張に歯止めがかからないというシナリオを首相に提示した。
ところが、これまでの実績では弾性値は3〜4に達することが、内閣府の別の試算で証明されている。弾性値3とすれば、名目経済成長率2〜3%を維持することで、財政均衡目標は達成できるのに、内閣府はそのデータを無視した。
4月、消費税率8%を実施した結果、家計消費は戦後最大のレベルで落ち込んだ。脱デフレの希望は遠のきかねない。虚妄の国債暴落リスク論に、首相は二度とだまされないと信じたい。 (産経新聞特別記者・田村秀男)