狭い日本というものの、各地の特色は千差万別。プロ野球選手にとっても、生まれ故郷は意外なほど重要だった。
夏の高校野球に熱狂し、毎日のプロ野球の結果に一喜一憂する。日本人は、世界でも稀な野球好き国民と言えるだろう。
アメリカでも連日サムライ選手たちが活躍しているが、彼らにはある共通項が存在する。
野茂英雄以来の3年連続2ケタ勝利を達成したレンジャースのダルビッシュ有。先発登板回数で野茂に次ぐ第2位のヤンキース・黒田博樹。
そして、レッドソックスの絶対的守護神・上原浩治。野茂も含め、彼ら全員が大阪府の出身なのだ。
現在、右肘の治療に専念している田中将大も、大阪のベッドタウン・伊丹(いたみ)市(兵庫県)の生まれだ。
「43年間、野球で飯を食わせてもらっているのも、大阪と阪神タイガースのおかげ。あそこの野球熱は飛び抜けていますね」(ベテラン野球記者・江尻良文氏)
大阪出身の現役プロ野球選手は76名と全国最多。
ちなみに最下位は鳥取県の1名となっている。
「広島の九里亜蓮です。鳥取からプロ野球選手が誕生するのは10年ぶり。ダイエーなどで活躍した加藤伸一以来のことです」(地元マスコミ関係者)
ここまで違うか、と驚くが、"県民性博士"として有名な矢野新一・ナンバーワン戦略研究所所長は、「どんな職業にも県民性は関係しています。プロ野球選手もしかりです」と語る。
はたして、プロ野球県民性とは、いかなるものなのか?
まずは北海道から。日本ハムが札幌に移転したことで野球熱は盛り上がりつつあるが、やはり雪国。プロ選手輩出率で見ると、ワースト10位となっている。
「東北も同じです。11年から12年にかけて、甲子園で3大会連続で青森代表の光星学院が準優勝しましたが、主力の多くは大阪府出身者。なかなか地元選手は出ませんね」(高野連関係者)
とはいえ、ビッグネームが育たないわけではない。岩手県盛岡市出身の菊池雄星は、エースとして花巻東高校を2009年春のセンバツ準優勝に導いた。
「辛口で知られる堀内恒夫氏が県予選で菊池を見て、"金田正一以来の素材。バネや体の柔らかさは申し分ない"と太鼓判を押したほどでした」(前出・江尻氏)
"50年に一度の逸材"と期待されたが、プロ1年目の10年に左肩を壊し、シーズンを棒に振ってしまった。
「1年目のキャンプで菊池は、先輩投手がブルペンで投げるのを見て、"自分も投げなきゃ"と思って、無理をしてしまった。従順で素直な性格が災いしたと言えますね」(前同)
前出の矢野氏によると、これこそが典型的な"盛岡人気質"だという。
「岩手県でも特に盛岡は、真面目で控え目、自分の気持ちを出すのが苦手な人が多い。言われたら何でもハイ、ハイと従ってしまいがち。その意味でいくと菊池投手は典型でしょう」
同じ花巻東出身で、今年のオールスター戦で162キロの日本最速を記録した球界随一のスターが大谷翔平。
「同じ岩手県人でも性格は菊池と、まるで逆。図太くて、他人のことを気にしない。菊池の例を"他山の石"としているところがありますね」(江尻氏)
関東ブロックでは意外なデータが出ている。東京、埼玉がプロ野球選手輩出率でワースト10に入っているのだ。
「首都圏出身者は、誰かをリーダーに立てて、後からついていくタイプが多い。悪く言うと、リーダーシップに欠ける気質と言えるでしょう」(矢野氏)
典型的なのが、阪神の鳥谷敬の例だ。東京都出身の彼は、キャプテンを任されたものの、「昨季は新参者の西岡剛にベンチの主導権を握られ、"盛り上げ役は西岡に任せておくか……"と、クールに対応。今季はケガの西岡に代わってリーダーシップを取るかと思いきや、またも盛り上げ役は日ハムから移籍した今成亮太に任せとるよね……」(阪神ファン)
交通網が発達した首都圏では、出身地と出身校が入り乱れるのも特徴だ。鳥谷は東京出身だが、高校は埼玉の聖望学園。逆に、ソフトバンク打線を1番で牽引する中村晃は埼玉出身で東京の帝京高校で活躍。
ハンカチ王子こと斎藤佑樹も東京の早稲田実業で夏の甲子園・全国制覇を成し遂げたが、出身は群馬県だ。
神奈川の超名門・横浜高も他県出身者が多い。
「今季、DeNAの主力打者としてブレイクした筒香嘉智も生まれは和歌山で、どうしても横浜高校で野球がしたい、と入学しました。ロッテの成瀬善久は栃木、涌井秀章も千葉、メッツの松坂大輔も東京と、神奈川出身者は意外と少ないんです」(都内球団スカウト)
これはDeNAにも共通するようで、「ハマの番長こと三浦大輔は奈良、キャプテンの石川雄洋は横浜高校ですが、静岡出身。神奈川は他県出身者が光るんですかね……」(スポーツ紙記者)
首都圏でも千葉県はやや異色。ミスタープロ野球・長嶋茂雄やミスタータイガース・掛布雅之ら超大物選手を生んでいる。
現役選手では阿部慎之助、丸佳浩も千葉。
「共通するのは泥臭さ。長嶋さんもプレーそのものは華麗でしたが、コメントを聞いていると、茶目っ気があって都会人ぽくない。現役時代、"どうせオレは田舎っぺだから"とよく言っていましたね」(球界OB)
甲信越ブロックで注目すべき選手は金子千尋。パを代表する投手で、交流戦の巨人戦では、打線の援護が1点もないまま、9回を無安打で投げ切る"準ノーヒットノーラン"で、粘り強
さを見せた。
その金子は新潟出身。「新潟人は"3K"と言われる仕事を嫌がらず、粘り強い」(矢野氏)というから、まさに典型。昨季の投球イニング数と完投数でリーグトップなのも、粘り強さの表れだ。
東海・北陸ブロックではプロ野球選手輩出率全国2位の福井が目を引くが、野球王国はやはり愛知、岐阜などの中京圏だ。
同県出身者の所属チームは中日ドラゴンズが圧倒的に多くなっている。ヤクルトの伝説的スカウトで、選手としてドラゴンズでプレー経験もある片岡宏雄氏は、こう語る。
「愛知は"田舎の大都会"だから排他的。つまり、よそ者を嫌うんだよ」片岡氏によれば、ヤンキースのイチローは愛知県出身者の典型だという。
「東京や巨人へのライバル心が強烈で、特に松井秀喜ヘのコンプレックスはすごかった。ヤンキースへの移籍も松井への意識ですよ」(メジャーウォッチャー)
続く近畿ブロックだが、まさに綺羅星のごとく輝く人材の宝庫だ。
「ヤクルトのスカウト時代に僕が取った選手はみんな関西。古田敦也と池山隆寛は兵庫、尾花高夫は和歌山だし……。だいたい、僕も大阪で浪華商だから。関西のヤツは明るいっていうか調子がよくて、仲間と行動することが多い。和歌山の言葉で"連れもって行こら"っていうのがある。"どこへ行くにも一緒に行こう"って意味で、特に西のほうのチームや選手の間ではそれが合言葉みたいになっていた。仲間意識が強くてまとまれるから、チームプレーの野球には打ってつけの気質だね」(片岡氏)
最も広島らしい野球人は誰?
近畿圏でも滋賀について矢野氏は、「近江商人の伝統があり、県内の商業高校では今でも実践的な教育を行っています。いわば日本の商売人のルーツといえる土地ですから、先を読むことに秀でた人が育ちやすい。野球でも、投手は打者の心理を探り、先を読む投球が大切なんじゃないでしょうか」
滋賀出身で、地元の八幡商業高校で学んだのが則本昂大。先を読むことに秀でたのか、2年目ですでにエースに成長している。
そして、自他ともに認める"野球王国"大阪だ。大阪の摂津市に生まれ、名門・PL学園から巨人に入団して活躍した野球評論家の橋本清氏は、大阪人の気質をこう証言する。
「僕もそうやけど、まず大阪ではボーイズリーグやリトルリーグが充実していて、小さい頃から硬式のボールに慣れています。強いチームが並み居る中で鍛えられているから、みんな、まずハートが強い。プロ野球選手にとって、これが一番大事。僕も現役時代、バッターと睨み合ったりすると、もちろん心の中でやけど、"なんや、コラ!しばき回すぞ!"と思ってたもんね(笑)」
関西でもやや地味な印象の奈良県人には、巨人の亀井義行がいる。奈良出身者には、真面目で穏やかという特長があるが、
「亀井は本当に悩むタチ。打てないときはもちろんですが、バッティングが絶好調でも"……なんで俺、こんなに打てるんやろう?"と悩んでいる。そこまで悩みながら、巨人というチームでやっていられることがすごい」(巨人担当記者)
中国地方では九里が鳥取県出身者として10年ぶりのプロ野球選手となったが、「スポーツ選手ばかりか、もともと芸能人も出にくい土地柄。昔から農業や商業こそが仕事で、それ以外は"遊び"という土壌があるんです」(矢野氏)
ところが、お隣の広島は野球選手を続々と輩出しているのだから面白い。
解説者時代、全国放送でなまり全開でしゃべりまくった"広島弁の伝道者"こと達川光男が広島人の象徴とされているが、
「ある意味、最も広島らしい野球人は、中日の谷繁元信捕手兼任監督かもしれません。かつて、自軍の投手が不甲斐ない投球をすると、マスク越しに睨みつけ、タイムをかけて駆け寄るや"テメェ"と怒鳴りつけ、腹に一発入れたとか……。気性の激しい広島人らしいですね」(テレビ局関係者)
こ、怖い……。
四国は日照時間も長く、気候も温暖。そのためか、高校野球の歴代勝率も高知が2位、愛媛が3位に。
「四国の子はカラッとしてるよね。それと、高校生のうちに成長し切って、プロに入ってから伸び幅がない印象がある」(片岡氏)
沖縄出身者にとっての"難関"
最後に、九州・沖縄ブロックだ。
「九州人に共通しているのは個人破産が多いこと。つまり、先のことを考えないで借金する人が多いんです」(矢野氏)
そんな九州人の金銭感覚を地でいく豪快さを見せるのが佐賀県出身、巨人の長野久義だ。
「飲むと会計はたいてい100万円超え。球界で今、長野さんが一番豪快に飲んでます」(飲食店関係者)
豪快なだけではない。
「特に福岡人は手先が器用で、何事にも貪欲な性質があります」(矢野氏)
そのハングリーさが野球王国を築いたのか。
「あとはホークスの存在ですね。九州でホークス以外の野球ファンなんて見たことないですよ!」(福岡出身のカメラマン)
あの選手も、九州の香りをまとっているという。
「九州人から見て、ブルージェイズの川﨑宗則は、陽気で大らかな感じが典型的鹿児島人、という感じ。英語が通じなくても、"ちぇすとー"とか言って、チームメートや解説者にめ
ちゃくちゃ愛されている。ニュアンスと勢いだけで、あそこまでやれるのはすごい」(地元スポーツ紙記者)
沖縄はプロ野球選手輩出率で全国一。全国平均の実に2・4倍となっている。
しかし、意外な悩みも。
「沖縄は時間の感覚がまったく違う。集合時間に1時間遅れるのは当然だし、そもそも間に合わせる、という概念が希薄。プロ入りして初めて"時間どおり"ということを体験し、対応できない選手も多いんです」(前出・スポーツ紙記者)
日本全国、北から南まで見てきたが、やはり"最強都道府県"は選手数、気質から見て、あの県に軍配が上がりそうだ。
「やっぱり大阪でしょう。子どもの頃から野球が生活そのものみたいになってる。三つ子の魂、という話で、そういうセンスが物心ついた時から身についている。仲間意識も強いから、アメリカにもすぐなじめる。だから、大阪出身者はメジャーでも活躍できるんだろうね」(片岡氏)
はたして、大阪の牙城を崩せるか?他の46都道府県の奮起が期待される!
(著:株式会社双葉社)