白杖の全盲女性無言で蹴られる09月10日 18時11分
8日、埼玉県のJR川越駅で、白い杖を頼りに歩いていた盲学校の全盲の女子生徒が何者かに無言で足を蹴られる被害にあっていたことが分かり、警察が傷害事件とみて捜査しています。
埼玉県立盲学校の「塙保己一学園」によりますと、8日午前8時ごろ、高等部専攻科1年生の全盲の女子生徒が登校途中、川越市のJR川越駅の通路で、何者かに後ろから足を蹴られました。
生徒は、視覚障害者が持つ白い杖をつきながら点字ブロックの上を歩いていた際、誰かが杖に足をひっかけて転んだように感じたということです。
その直後、いきなり無言で後ろから右のひざの裏を蹴られたということで、何者かが杖にひっかかったあと生徒を蹴ったのではないかとみられています。
女子生徒は、医療機関で手当てを受け、全治3週間のけがと診断されたということで、警察が傷害事件とみて捜査しています。
足を蹴られる被害を受けた盲学校の全盲の女子生徒が取材に応じ「私たちにとって白杖は目の代わりです。視覚障害者のことを理解してほしい」と訴えました。
この中で女子生徒は「正面から来た人が白杖につまずいて転んだ気配がしました。その後、歩いていると追いかけてきて右足のひざのうらを蹴られました。とにかくびっくりして怖くなりました」と当時の状況を語りました。
その上で「後輩たちが同じような経験をしないよう、被害を訴えることにしました。私たちにとって白杖は目の代わりで点字ブロックは道を歩くための道しるべです。
視覚障害者のことを理解してほしい」と訴えました。
生徒が通う盲学校では「視覚障害者が、白い杖の感覚を頼りに、点字ブロックを歩いていることを理解してほしい」と話しています。
視覚障害者が持っている白い杖は、歩く方向や障害物などを知る役割があるほか、周囲の人に目が見えなかったり見えにくかったりすることを知らせる役割もあるということです。
被害にあった女性が通う川越市にある県立の盲学校、塙保己一学園では、これまで視覚障害者への理解を深めてもらおうと、地元などで啓発活動に取り組んできました。
先月2日にも、今回の現場となった最寄りのJR川越駅前で、生徒たちが点字ブロックの大切さを訴えるメッセージが印刷された手作りのうちわなどを配ったばかりでした。
生徒たちは点字ブロックの上に立ち止まったり、自転車を置いたりするとぶつかってしまうことがあり危険なので、点字ブロックをふさがないでほしいと呼びかけていました。
足を蹴られる被害を受けた女子生徒が通う、埼玉県立の盲学校、「塙保己一学園」の荒井宏昌校長は「生徒から被害を聞いたときは驚き悲しくなりました。視覚障害のある人への理解を深めてもらうため啓発活動をしてきたのにこのような事件が起きて残念です。視覚障害者は点字ブロックを頼りに歩いていて、目が見える私たちが一歩道を譲れば、ぶつかることも危ない思いをすることもありません。
このようなことが2度と起こらないように活動を続けていきます」と話していました。
全盲の女性が足を蹴られた今回の事件を受け、埼玉県の視覚障害者の団体は、同じように視覚障害者が危害を加えられたりいやがらせを受けたりした事例がないか、緊急の聞き取り調査を行うことになりました。
埼玉県視覚障害者福祉協会の岸邦久会長は「被害が続き残念だ。駅など混雑する場所では、杖の振り幅を小さくして、周りに気を配っているが、それでも引っかかってしまうこともある。安心して歩ける環境になってほしい」と話していました。
協会では、調査を通じて被害の実態をまとめ、視覚障害者への理解を広めていきたいとしています。
全日本視覚障害者協議会の代表理事を務める田中章治さんは「点字ブロックの上は、私たちにとって安全な場所であるはずで、とても残念で強い憤りを感じます」と話しています。
協議会によりますと、最近は目の不自由な人が点字ブロックの上に置かれた自転車や看板などにぶつかって倒してしまった時、「1人で歩くな」などと心ないことばをかけられるケースや、視覚障害者用の白いつえに歩行者や自転車がぶつかって、つえが飛ばされたり折れたりして立往生してしまうケースなど、トラブルも後を絶たないということです。
また、田中さんはことし7月、さいたま市の全盲の男性が連れていた盲導犬が何者かに刺されてけがをしていたことについても触れ「障害者を狙った事件が続かないか心配で、外出するのを差し控えるようになります。外で困っている時に声をかけてくれる人が多くなっている一方で、中にはゆとりのない人もいます。弱者への思いやりを持ってもらって、視覚障害者の社会参加を理解してほしいと思います」と話していました。